第5羽「気付かないうさ原さん」
うさ月さんとピクニックに行く約束をしたうさ原さん。しかし実感などなく、頭の中は真っ白です。
「……」
ぼんやりと空を見上げていると、見知った景色が広がっていることに気付きました。板張りの天井に、販売されている多種の花とその香り。そして、花の手入れをしている黒い毛色のうさぎ──うさ村さんの後ろ姿。
「……え? オレ、いつからここに?」
戸惑った声を出すと、うさ村さんが振り返りました。
「ちょっと前から」
そう教えてくれたうさ村さんは呆れたような顔をしていました。
カウンター横に置かれたイスに座るうさ原さんは、腕を組んで首を傾げます。
「……覚えてない……」
「だろうね。うさ月さんのところから戻ってきたと思ったらボーッとした感じで『うさ月さんに……ピクニックに誘われた、行くことになった……』って言ってそのままイスに座ってボケーッとしてたよ」
「……何も思い出せない……」
「まあ、それだけ気が動転してたってことでしょ」
うさ村さんは作業を再開しました。
その背中をぼんやりと見ていると、先ほどのうさ月さんとの出来事がふと浮かびました。うさ原さんは恥ずかしくなり、頭を抱えます。
「というか、うさ月さんってうさ原に脈ありだと思うんだけど」
その一言にうさ原さんは勢いよく顔を上げました。
「いや、そんなわけないだろ!」
「何で?」
「だって、オレのこと好きでいてくれる女の子たちと態度が何か違うから」
「……それだけ?」
「それだけ」
頷くと、うさ村さんから深いため息が漏れました。
うさ原さんは思わずイスから立ち上がります。
「なっ、何でそんなため息つくんだよ!」
「ため息つきたくなったから。それより、ピクニック楽しんでおいでよ」
無表情なうさ村さんの言葉は、やさしい声にのってうさ原さんの耳に届きました。
それがうさ原さんの心を緊張させます。
「お、おう……」
急にぎこちなくなったうさ原さんを見て、うさ村さんは心配になりつつも微笑ましく思っていました。つい、意地悪をしたくなります。
「ボクもついて行こうか?」
「ダ、ダメ!!」
「冗談だよ」
「からかうなよ……」
うさ村さんの心中を知る由もないうさ原さんは、ほっと胸を撫で下ろします。そして冗談とはいえ、突然の提案を即座に否定した自分に驚いていました。