第4羽「素直になろう」
花屋を出ても一向に手を離す素振りを見せないうさ月さんに、うさ原さんは戸惑っていました。
誰かに見られないだろうかと気が気でない中、彼女に何と声をかけようかと必死に考えます。
「うさ月さん……! 手っ……!」
特に言葉が浮かばないまま上擦った声を発すると、うさ月さんが不思議そうに振り返り、手元に視線を落としました。
パッと、2羽の手が離れます。
「ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい……」
立ち止まったうさ月さんはほんのりと顔を赤く染め、持っていた花束を両手でそっと抱きしめました。
「……」
視線を泳がせるうさ原さんは、恥ずかしそうに頭を掻きます。心臓も落ち着きがありません。
互いに目を合わさず静かに歩き出した時でした。
「うさ原さーん!」
近くで名前を呼ぶ声に反応し、うさ原さんはその方向を向きました。
そこには3羽の女の子がいます。うさ原さんに好意を抱いている子たちです。
手を振って近づいて来る彼女たちに気付いたうさ原さんは、笑顔で手を振り返します。
「うさ原さん、これからどこか遊びに行かない?」
「ごめん。これから用事があるんだよね」
「どんな用事?」
「それは、秘密」
「なにそれー!」
うさ原さんも女の子たちも楽しそうに話しています。
その様子をうさ月さんが物悲しそうな表情で見ていますが、やはりうさ原さんは気付きません。
少し話したところで女の子たちは「じゃあまたね!」とその場を後にしました。
賑やかだった空気が一転、元の静けさに戻りました。風にそよぐ草木の音が辺りに響きます。
「あ、じゃあ……」
「はい」
心地よい葉擦れを聞きながら、再びうさ月さんの家を目指します。
家に到着し、早速畑に植えられている小松菜の様子を見てみます。すると、すぐに原因が分かりました。
「育ちが悪いのは、ちゃんと間引きが出来ていなかったからだね」
「間引きだったんですね。見落としていました……」
うさ原さんは生育の悪い苗をいくつか抜いていきます。うさ月さんからの視線を感じるのか、その手は少し震えています。
「……これで育ちが良くなると思うよ」
「ありがとうございます!」
「……じゃあオレはこれで──」
「あのっ! もし良かったらもう少しお話しませんか?」
「えっ!?」
立ち去ろうとしたうさ原さんは足を止め、うさ月さんを見ました。あのキラキラした瞳と目が合います。
「ワタシ、うさ原さんともっとお話がしたいです!」
「え……えと……今は、ちょっと……」
心の準備が。
最後の一言が言えず口籠もってしまいます。
すると、どこか嬉しそうなうさ月さんがまた提案してきました。
「では今度どこかに行きませんか? ピクニックとか!」
「ピク、ニック……」
うさ原さんは次々とやってくる言葉にどぎまぎします。そして、うさ月さんにじっと見つめられている恥ずかしさで逃げ出したくなりました。
しかし、今までの後悔やうさ村さんからの助けを思い出し、素直になろうと自分に言い聞かせます。
「…………いいよ」