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うさー島のうさ原さん  作者: 冬月 聖


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3/10

第3羽「うさ村さんの機転」

 うさ(はら)さんは目を見開いて、突然やってきたうさ(つき)さんを凝視します。


「いらっしゃい」


 しかし、うさ(むら)さんが改めて言った言葉により我に返り、2歩後ろに下がりました。

 その際、うさ月さんと目が合います。


「うさ原さん、今日はよく会いますね!」

「あぁ……うん……」


 彼女のやわらかい笑顔から視線を逸らし、周囲の花を見ながら答えました。そっけない態度とは裏腹に、内心ではまた後悔の波が押し寄せます。

 それに気付いたうさ村さんは少々呆れ顔です。


 花を選んでいるうさ月さんに聞こえないように、2羽はこそこそと話します。


「何で同じこと繰り返してるの?」

「無意識にそうしちゃうんだよぉ……!」

「毎回思うけど、あんな接し方だとうさ月さんが可哀想だよ」

「分かってはいるけど……」

「笑顔だよ、笑顔」

「あまり笑わないうさ村には言われたくない言葉だな……」


 そんな会話をしていると、うさ月さんがポピーとヤグルマギクを大事そうに抱え、カウンターに向かうのが見えました。

 うさ村さんもカウンターへ行き、会計をします。

 そわそわとしているうさ原さんはカウンターに背を向け、色とりどりの花を見つめます。

 その耳に2匹の会話が聞こえてきました。


「うさ村さんって野菜に詳しいですか?」

「うーん、ボクはそこまで詳しくないなぁ。そういえば野菜育ててるんだっけ?」

「はい。最近小松菜を育て始めたんですけど、しっかり育たなくて悩んでいるんです」

「そういうのはうさ原が詳しいから教えてもらいなよ」

「へっ!?」


 うさ村さんの言葉にうさ原さんは耳を疑いました。とっさに振り返ると、こちらを見る2羽と目が合います。


「いいんですか……?」


 うさ月さんが様子を伺うようにおずおずと訊ねてきました。

 うさ原さんは声にならない声を出してうろたえます。

 すると、カウンターにいるうさ村さんが小さく頷きました。そこには「チャンスだよ」という言葉が込められていると、うさ原さんは気付きます。


「……」


 それに後押しされ、ぎこちなく頷きます。

 その頷きを目にしたうさ月さんの瞳がキラキラと輝きました。うさ原さんもうさ村さんも初めて見る輝きです。


「ありがとうございます! 今からはどうですか!?」

「へぇっ?!」


 いきなりの提案と目の前にやってきたかわいらしい顔に驚き、うさ原さんは仰け反りました。心臓は暴れ回り、頭の中はパニック状態です。そのせいで返事すらままなりません。

 見兼ねたうさ村さんが代わりに応えます。


「うさ原は今日ヒマみたいだから、今からでも大丈夫だよ」

「本当ですか!? じゃあ行きましょう!!」


 張り切るうさ月さんに手を握られ、うさ原さんの体は石のように硬くなってしまいました。女の子に好意を寄せられることは多くても、手を握られたのは今回が初めて。うさ原さんにとって、これが当然の反応と言っても過言ではありません。


 その背中を、いつの間にかそばにいたうさ村さんの手が優しく押しました。反動で足が一歩前に出ます。

 そして、花束を持つうさ月さんに手を引かれるまま、おぼつかない足取りで歩き出します。


 2羽を見送るうさ村さんの表情は嬉しそうでした。

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