第2羽「ヘタレだけどヘタレじゃない」
「ヘタレ」
その言葉は、たくさんの花が置かれている店内に響きました。
うさ原さんは花の手入れをしている声の主を睨みます。すると、無表情に近い目と視線が合いました。
「いや、そんな顔されたって事実だし」
うさ原さんが鋭い目つきになっても、友達のうさ村さんの表情はひとつも変わりません。それは彼の冷静な性格を表しています。
「というか、何で丘の上のラグラスを集めていたわけ? うちで買えばいいじゃん。長持ちするし」
2羽は店内のラグラスコーナーに目を向けました。鉢に10数本ずつ植えられているラグラスは生き生きとしています。その元気さは花畑で見たラグラスと同じでした。
「だって、買っているところを誰かに見られたくないし」
「危うくうさ月さんに見られそうになったくせに?」
「……」
うさ原さんはムッとした表情で友を見、そこからカウンターに置かれた花瓶に視線を移しました。丘の上で摘んでいたラグラスが数本、花瓶の水に浸かっています。
先ほどよりも少し元気になった姿を見ているだけで、うさ原さんの表情は和らぎました。
「まあ何でもいいけど。それよりいい加減、覚悟を決めたらどう?」
「……いざ目の前にすると変に緊張するんだよ……」
弱々しい声を出すうさ原さんは、赤くなった顔を両手で覆います。その耳にうさ村さんの小さなため息が聞こえました。
「緊張するのは分かるけど、いつまでもそんなんじゃ誰かに取られるよ」
「そうだけどさぁ……オレ何でまた冷たくしちゃったんだろ……渡すチャンスだったのに……」
うさ原さんは熱を持った顔から手を離し、後悔を吐き出します。うさ月さんと接する度に訪れる気持ち。これで何度目だろうかと頭を抱えてしまいます。
「……というか、うさ原ってうさ月さんとちゃんと話したことある?」
「いや、ない」
はっきりと答えると、うさ村さんの表情からは呆れの色が現れました。
うさ原さんはそれを二度見します。
「オレ、変なこと言った……?」
「変なことというか……とりあえずまずは、うさ月さんともう少し仲良くしてみようか」
「へっ!? はぁ!? 無理無理!! そんなの出来るわけないって!!」
「いや、今の状況で告白しようっていう方がハードル高いと思うんだけど……」
そのうさ村さんの言葉をよそに、うさ原さんは1羽で騒ぎ立てます。
「うさ月さんと仲良くなんて無理に決まってんじゃん!! 緊張してそっけなくしちゃうし、なに話していいか分からないし!! うさ月さんのことまともに見られないし!!」
「そんな中、ラグラスを渡そうって思ったうさ原の行動力を賞賛するわ」
騒ぐうさ原さんを見つめながら、うさ村さんは静かに言いました。とりあえずそのままにしておこうと、作業を再開します。
すると、木で出来たドアベルの心地よい音が店内に響き、店のドアが開かれたことを知らせてきました。うさ村さんはドアの方を向きます。
「いらっしゃ──」
声をかけたのも束の間。瞬時に手でうさ原さんの口を塞ぎます。
突然のことにうさ原さんは驚きましたが、来店した1羽のうさぎを見てさらに驚きます。
「こんにちは」
そこには、笑顔のうさ月さんが立っていました。
*登場キャラクター紹介*
うさ村さん(♂)
毛色:ブラック
うさ原さんとは幼い頃から仲が良い。
1羽で花屋を経営している。
うさ原さんの恋心を知っているのはうさ村さんだけ。