第10羽「想いを伝える」
「え……えっ、えっ……!?」
まさかここでうさ月さんに会うとは思っておらず、うさ原さんは混乱しました。
「うさ原さん、どうしたんですか?」
不思議そうな表情でうさ月さんが近づいてきます。
慌てたうさ原さんは、持っていたラグラスを思わず差し出しました。
「好きですっ!!」
小さな丘に大きな声が響きました。反響する言葉が耳に届き、うさ原さんの顔が赤くなっていきます。
うさ原さんは咄嗟に顔を伏せました。
(順番違う!! 会っていきなり告白ってぇ〜!!)
自分の慌てぶりに恥ずかしくなり、穴を掘って身を隠したい気持ちでした。
「……本当、ですか……?」
か細い声に恐る恐る頭を上げると、顔を赤くしたうさ月さんと目が合いました。
その瞬間、うさ原さんはしっかりしようと気持ちを落ち着かせ、背筋を伸ばして彼女を真っ直ぐ見つめます。
「……うん。オレ、本気でうさ月さんのことが好き。だから、ずっとオレのそばにいてください」
改めて想いを伝えた手は緊張で震え、今にも花束を握ってしまいそうです。しかし、以前のように枯らしてはいけないと思い、ぐっと堪えます。
すると、手から花束が離れていきました。
うさ月さんがそれを大切そうに抱きしめています。
「はい。よろしくお願いします」
うさ月さんはやさしく笑います。
その笑顔を目の前にしたうさ原さんの胸に、嬉しさが込み上げてきました。同時に緊張が解け、その場にへたり込みます。
「よ、よかったぁ……」
力の抜けた声が出ると、同じ目線にしゃがんでくれたうさ月さんが笑いました。つられてうさ原さんも笑います。
その頬を撫でるようにやわらかな風が吹きました。周りに咲く花たちも穏やかに揺れ、2羽を祝福しているようです。
すると、うさ月さんが少し意外そうな表情で言いました。
「ワタシ、うさ原さんは他の子が好きなのかと思っていました」
「え、何で?」
「ワタシと他の女の子との態度が全く違ったので」
「あー……それは、うさ月さんの前だと緊張してどうすればいいか分からなくて冷たくしちゃったんです……ごめんなさい」
うさ原さんは申し訳ない気持ちでいっぱいでした。無意識に傷つけていないだろうかと心配になります。
「気にしてないので大丈夫ですよ」
そしてやさしく微笑む彼女を見て、悲しませてはいけないと胸に刻みます。
すると、うさ月さんの笑顔がさらに明るくなりました。
「そうだ! 今からうちに来てニンジンのサンドイッチ食べませんか? 今日の夜ご飯にしようと思っていたんです!」
「い、いいよ……! 嬉しいなぁ……!」
うさ原さんは気持ちを悟られないように必死に笑顔を作ります。ぎこちない表情ですが、うさ月さんには気付かれていません。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
2羽は立ち上がって歩き出します。
会話がない中、うさ月さんの手がうさ原さんの手に触れました。
驚いて毛を逆立てるうさ原さんは恥ずかしそうに顔を赤らめます。しかし、その手を離すことはありません。
長く伸びた2つの影も、手を繋いだまま歩みを進めています。
そして、少し離れた場所にある花屋では、うさ村さんが閉店の作業をしながら2羽の幸せを願っていました。




