第1羽「何度目かの挑戦」
青くひろい海にうさぎの形をした島が1つあります。ここは、うさー島。うさぎだけが暮らす島で、森や湖など自然が豊かです。
この島のうさぎたちはみんな二足歩行です。そのおかげで商売をして生計を立てたり、自給自足の生活をしていたりと、それぞれの方法で暮らしています。
そんな島にうさ原さんといううさぎがいました。うさ原さんは真面目でやさしい男の子です。容姿も整っているため、女の子からアプローチされることも少なくありません。
そんなうさ原さんは今、小さな丘の上にある花畑でラグラスという花を摘み取っています。
ラグラスとは、ふさふさと丸みのある穂が特徴的な一年草です。それはどこか、うさぎの尻尾の形にも似ています。
「今日こそ、これをうさ月さんに」
うさ原さんは1本1本丁寧に摘み取りながら静かに言いました。
この島では、ラグラスを好きな相手に渡すことが求愛の方法となっています。
そして〝うさ月さん〟とは、うさ原さんが想いを寄せている女の子です。
うさ原さんはこれまでに、うさ月さんにラグラスを渡し、想いを伝えようと何度も挑戦してきました。しかし、いざとなると勇気がなくなり、毎度渡せずにいました。
今日こそはと、ラグラスを摘むたびに思います。
「うさ原さん、こんにちは!」
「こんに──」
うさ原さんは挨拶をしてくれた声に反応して顔を上げました。目の前にいるうさぎと目が合うと、慌ててラグラスを体の後ろに隠します。
うさ月さんが可愛らしい笑顔を見せて立っていました。いつ見ても、丸くて大きな目は印象的です。
うさ原さんの心臓は、強く速く脈を打っています。体が強張り、自ずとラグラスを握る手に力が入ります。
「こんなところで何をしているんですか?」
「別に……何も……」
うさ原さんは顔を赤くさせながら歯切れ悪く答えます。視線を遠くの空に向け、うさ月さんと目を合わせようとしません。
そのせいで、うさ月さんが困ったような顔をしているのも気付きません。
「そう、ですか……それじゃあまた」
うさ月さんは笑顔で頭を下げ、その場から離れて行きました。
うさ原さんはそれを頑なに見ようとはせず、うさ月さんの足音が遠くに行くまで視線をそのままにしています。
「…………ふぅ」
うさ月さんがいなくなったのを音で感じ、うさ原さんは息を吐きました。
(まさかここにうさ月さんが来るなんて……会えたのは嬉しいけど。花は見られてないよな……?)
うさ原さんは握りしめていたラグラスを確認します。
「ああぁーーっ!?」
ぎゅっと力一杯に握っていたせいか、摘み取ったラグラスはヨレヨレになっていました。
うさ原さんは力なくへたり込みます。
「やってしまった……ごめんよ……オレのバカァーーッ!!!!」
涙目で叫んだ声は、遠くの空へと消えていきました。
*登場キャラクター紹介*
うさ原さん(♂)
毛色:ダッチオレンジ
自給自足の生活をしている。
たまに友達のうさ村さんが経営している花屋で手伝いをしている。
うさ月さんにはどう接していいか分からず、そっけない態度を取ってしまって後悔することが多い。
うさ月さん(♀)
毛色:ブルー
大人しく純粋な性格。
野菜作りが好き。
うさ原さんと仲良くしたいと思っているが、うさ原さんにはあまり好かれていないのではと勘違いしている。