蘇り朽ちて孕み死ね
人は本来生き返らない。
例外は死の言葉の使い手だけだった。
だが今は違う。
両目が潰されている死体、両足が引きちぎられている死体、皮膚が焼け爛れている死体……
タクススの言葉に呼応するかのように、ゴミ山に埋もれていた数多の人間の死体は、命を取り戻す。
無理やり蘇った亡者達。
身を焦がす苦痛に体を捩らせ、わけもわからず軍人達の足元にすがりつく。
「あ"あ"あ"あ"!! 痛い痛い痛い!!」
「何処ここ、誰お前……裏切り者は……ドコだァァァァァ!?」
「う……が!! がぁ!! がぁぁぁぁぁぁ!!」
惨劇の幕が上がったゴミ捨て場。
数々の修羅場を超えて来た軍人達でも、目の前の光景には思わず足がすくんでしまいます。
彼女を早く殺さねば。
訴えかける生存本能に従い、タクススを殺そうと銃を構え言葉を発しようとします。
……心を恐怖が満たしている彼らと違って、彼女の表情はいつもと変わりません。
「……『孕め』」
視線をゴミ山から近くの軍人達へと向けたタクスス。
吐き捨てるように囁く彼女の言葉を受けた軍人達……その中の女性の体に変化が現れます。
身を引きちぎられるような激痛が腹部に走ると、みるみるそこは膨らんでいき、妊婦のように大きくまるまるとしたお腹になってしまいました。
誰も経験したことの無い痛みに、女性の軍人達は泥だらけの地面に蹲ってしまいます。
悲鳴が口内を無理やりこじ開け、周囲には歌姫達による不協和音の演奏が始まります。
凄い凄い!!
この惨劇が華々しく彩られました!!
「あ"あ"あ"ぁああぁぁ!! あぁぁあ"ぁ"!!」
「うぅ"ぁあああ"……」
「だずげで……痛いよぉぉぉぉ!! ……あ"ぁ"!?」
始めての出産を体験した女性軍人達……ズボンを脱ぎ下半身を露にした彼女達が目にします。
この世に産み落とした赤ん坊の数々を。
それらは赤ん坊の姿のまますくすくと成長し、一軒家を超える程の巨体へと成長しました。
本来は生えているはずのない奇麗な歯をむき出しにし、産声を上げる赤ん坊達。
短い時間でとても立派に成長しました。
「アー……ア~? ……ダブゥ~」
「キャッキャッァ~!!」
「オギャァー!! オギャ……オギャァァァァァ!!」
生まれたばかりの赤ちゃんは、始めて目にした生き物を親だと認識します。
赤ん坊達は嬉しさのあまりに、力いっぱい軍人達を抱きしめます。
骨が粉々になった彼ら、彼女達は、よっぽど嬉しかったのでしょうか。
涙を流しながら動かなくなってしまいました。
「『轟け』!! ……お前ら、早く逃げろっ!!」
タクススと彼女が生み出した赤ん坊の化け物に、雷を落とすアナベル。
轟音と共に身体に直撃した彼女達は、何度も痙攣しながら地面へと倒れ込む……が、間もなくしてよろよろと立ち上がった。
肉体を失わない限り、彼女達は何度でも蘇るのである。
「……『朽ちろ』」
「クソ……今度は何を……? ぐぅ!?」
咄嗟に右腕を盾にしたアナベル。
彼の腕は皮膚から進み、筋肉、果てには骨まで塵と化していく。
……それだけでなはい。
彼の周辺の建物、地面、身に着ける装甲の数々が、容易くこの世から消え去っていく。
「う……おぉぉぉ!! ……ぐぅ……クソっ!!」
崩壊していく右腕を、左腕に握りしめたナイフで切り落とすアナベル。
乱れる呼吸の中、せめて言葉だけでも使えなくしようと、周囲の音を消し去ろうとするも、背後から飛び掛かって来た赤ん坊に、遠くへ遠くへとおもちゃのように投げ飛ばされてしまった。
「……何よコレ……何なのよ……」
「ぷ、プワゾンっ!! 早く逃げないと!! 立って!!」
「あ、足が……腰が……」
「お、俺が負んぶするからさ!! 早く……あ……」
死者がこの世に舞い戻り、生命の誕生に涙し、儚く散っていく風景を愛おしく思いながらも、この惨劇の幕を下ろす気はないようだ。
素晴らしきこの世界を最後まで見届けようとしない不届き者の2人。
そんな彼、彼女の目の前に、血塗れの少女が立ちふさがる。
長い銀髪で顔が隠れており、亡霊のような姿をしているタクスス。
一声で殺せる彼女は、目の前の2人の命を摘み取ろうとしない。
母親の方に聞きたいことがあるからだ。
「……なんで殺したんですか」
「……あ、ぁ……」
「……答えて下さい。 ……なんでシャガ君を殺したんですか」
「アンタ……助けて……」
「く……!! 俺の妻から離れろっ!! 『燃えろ』!!」
「……っ」
「プワゾン!! 俺の手を……」
「……『死ね』」
「取って……く……れ……」
「!? アンタ!! ……死んだ? ……死んだ!? アンタ!!」
「……答えて、下さいよ……早く、答えろっ!!」
「ひっ!? ……わ、私の人生の汚点を消すためよ……」
「……」
「山賊になろうなんて、夫が言い出してごらんなさいよ……頭がおかしいでしょうよ? ねぇ!? ……それに付いて行こうなんて考える子供も子供よ……わ、私、何度も止めたのよっ!? なのになのに……アイツは私から離れて、クシノヤの方に付いて行った!! そんな奴なんて、私の子供じゃないわよっ!!」
「……」
「ふざけんじゃないわよ……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよっ!! 子供が親の足を引っ張ってんじゃないわよっ!!」
「……『孕め』」
「ぐぃ……がぁ!? あぁあああ"ぁ"!?」
「……『孕め』……『孕め』っ……『孕め』っ!!」
逃げられないと観念したプワゾンは、有りのままに全てを話す。
過去の出来事を。
己の思いを。
全てを聞いたタクススは、彼女と同じように、己の感情に身を任せ言葉を吐き出す。
何度もその場で出産するプワゾン。
シャガを産んだ時と同じような苦痛を、短時間で何度も味わう。
死んだ方がマシだ。
嘆き苦しみ涙で滲んだ視界に、あの悪魔が入り込んで来た。
「来ないで……いや……」
「……何でですか」
「来ないでよ……」
「……何で自分の子供にそんな言葉を吐けるんですか。私の両親と同じように。無償の愛を与えるものじゃないんですか、間違いを犯しても庇ってあげるものじゃないんですか。 ……どれだけ他人と違っても、落ちこぼれでも、役に立たなくても!! ……優しい言葉をかけてあげるものじゃないんですか」
「来るなよ……来るな、来るなぁぁぁぁぁぁ!!」
「……タクススお姉さん、もういいよ」
「!? シャガ……なの?」
「……シャガ君」
「シャガぁ!! ゴメンね、ゴメンね!! 痛かったよね、辛かったよね。心を入れ替えるから、もう二度とこんなことしないから……ゴメンよぉ……許してよ、シャガぁ!!」
「お母さん」
「なに、シャガ……?」
「もう遅いよ」
「あ……あぁ……!!」
「煩いからさ……『止まって』よ」
「……っ!!」
「……シャガ君、大丈夫なの……?」
「うぅん……凄く、痛いよ……本当に、酷い状態だね、俺……タクススお姉さん」
「……なに?」
「これも、お姉さんの言葉でしょ? よくわからないけど……もう同じことしなくていいから。生き返っても、直ぐに死んじゃうよ、俺」
「……うん、分かった」
「……タクススお姉さん」
「……なに?」
「お姉さんは、長生きしてよ。約束だよ?」
「……うん……分かった」
「じゃあ、ね」
本当に短い時間。
彼はこの世に舞い戻り、それぞれに別れの言葉を告げた。
今は無残な子供の死体となって、タクススの目の前で横たわっている。
……彼女は今日と言う日を忘れないだろう。
今までの口にしてきた言葉は空っぽだった。
今から口にしようとするそれには、それ程までに沢山の感情が入り混じっている。
憎悪、怒り、悲しみ、落胆、虚無……
いつしか雨は止み、月の光が辺りを照らしていた。
惨劇の中心にいる彼女が良く見えるように。
さあ、始めよう。
この世界に復讐を――――
「……『死ね』っ!!」




