ああ、なんて素晴らしき世界
屍と化した少年を両手で抱えるタクスス。
冷たくなった体は臓器が抜けた分軽くなっており、腕力がそれほどない彼女でも軽々持てるほどである。
彼女は、背後に迫って来ていた軍人達の後方にいる、シャガの母親へと目を向ける。
我が子の遺体を見つけられた彼女は、一瞬渋い顔をするも、己の悪行を隠すため表情を取り繕う。
それを見たタクススは全てを察する。
あの母親が、自分の子を殺したのだと。
呆然とし唇を噛む彼女は、ほどなくして大量の弾丸を全身に浴びる。
寝入るようにぬかるんだ地面に力尽きていくタクスス。
彼女の脳裏には走馬灯のように今までの旅の記憶が蘇っていた。
そこで味わった苦痛も全て。
(……ここに来るまで色んな人に会って来た。軍人のような良い人も居たけど……それ以上に悪い人達も多かったなぁ……転売する商人、罪をなすりつける老人、科学を悪用する子供、人の弱みにつけこんで洗脳する教祖、己の快楽の為に人を殺す殺人鬼、狂信的な花屋……そして……我が子を殺す親。私の両親と同じように……ここまで世界は残酷なんだね。ここまで人って……邪悪になれるんだね……分かったよ。もう分かったからさ。私も人を殺しているし……まともな死に方なんてしなくていいからさ……こんな世界……全部、全部、全部……!!)
「……ぶっこ、わし、てや……る」
「アア、カワイソウニ……タダ、ヨクケッシンシテクレマシタネ」
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深い闇の中。
タクススは死ぬと必ずこの場所へ招かれる。
ここが何処なのかは分からない。
精神世界なのか、はたまた別の世界なのか……
ただ一つ、この世界には黒いモヤのかかった人のような物体が存在する。
タクススに敵対するわけでもなく、哀れみの言葉を投げかけるソレは、心なしかいつもより雰囲気が軟らかい気がした。
「……」
「アア、カワイソウニ……マタシンデシマッタノデスネ」
「……あの」
「ハイ?」
「……決心してくれたって……どういう意味ですか」
「……」
「……答えてください」
「ワタシ、コノクウカン二ハ、ナガイコトイルノデス。ソノアイダ、ズットマッテマシタ。ココロノソコカラ、セカイヲニクムヒトヲ……グライス・シオンモイイトコロマデハイッタノデスガ……カノジョ、モウアキラメチャッタンデスヨネ……」
「……どういう意味ですか。それに……グライス・シオンって誰ですか?」
「……」
「……また、だんまりですか」
「……タクスス、ドウカオネガイシマス。ワタシノムネンヲハラスタメニモ……ワタシガオカシテシマッタツミヲオワラセルタメニモ……キョウリョクシテクダサイ」
「……」
「ワタシガ、シゴニチカラヲヤドシタコトバ。ソレヲアナタ二タクシマス。ソノ……タクスス」
「……何ですか」
「セカイヲホロボシテクダサイ」
勝手に招かれて好き勝手に話されて……
今度は世界を滅ぼして欲しいと懇願されたタクスス。
この世界が光に包まれていく中、彼女は目の前の人物の顔を凝視していた。
何処かで見た顔。
そう、モンテラに祀られていたあの石造の顔だ。
タクススはぼそりと、目の前の彼女の名を呟く。
「……何でそんなお願いをするんですか……答えて下さいよ……アスピラシオン」
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再び生を与えられたタクススを、冷たい雨が祝福する。
弾丸によって貫かれた肌からは、とめどなく血が流れ出しており、どれだけ生命力のある人間でも命を失っているほどだ。
軍人達は、遺体を火葬するべく近くに寄って来る。
タクススが死んでも生き返ることを知っている彼ら。
だが実際にそれを目の当たりにすると、動揺してしまうのは彼らがまともな人間だからだろう。
息を吹き返し、立ち上げるタクスス。
生きていることが奇跡と言えるほどの重傷を負っている彼女に、再び数多の銃口が向けられる。
数の力によって押さえつけれらていた1人の少女。
死の言葉を使えても、多勢に無勢では太刀打ちできない。
……それもさっきまでの話。
彼女は周囲のゴミ山に目を向ける。
ゴミに混じって廃棄されている人間の死体に向けて、アスピラシオンから託された新たな言葉を呟いた。
今までタクススを生き返らせてきた言葉。
その言葉は――――
「……『甦れ』」




