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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
97/102

心折れ言葉尽きる

 音もなく雨の降る市内地を、ひたすら走り続けるタクスス。

 カガチとの別れ際では2人だったものの、今はたったの1人しかいない。

 タクススを逃がすため、軍人に追いつかれた際に、足止めを買って出たアムネシア。

 意気揚々と別れの言葉を告げた彼女だったが、アナベルの言葉により発生した雷に直撃し、成す術もなく即死していたのだった。

 タクススは反撃をしようとするも、いつの間にか海の底にいるような静寂さが辺りを満たしており、一切の言葉が使用できなくなっていた。

 遠目で丸焦げになったアムネシアの姿を見たタクススは、一瞬足を止めるも直ぐに歩みを進める。

 

(……何も音が聞こえない。タモアラの地下闘技場で聞いたあの言葉なの……? 早く何処かに隠れないと……うぅっ!?)


 音の概念が消えた世界で、唐突に右ふくらはぎに痛みが走るタクスス。

 バランスを崩し転倒した彼女は、恐る恐るその部位を確認する。

 弾丸が被弾したような傷を見て全てを察する彼女。

 後方に目を向けると、ハンドサインを駆使して普段と何ら変わらない連携を見せる軍人の数々が追って来ており、一際目立つ黒いグラサンをかけた大男が、ただならぬ殺気をまき散らしていた。


(……何処に逃げれば……)


 その場でぎこちなく立ち上がった彼女。

 泥にまみれ血にまみれ、美しい美貌がボロボロになりながらも、隠所を当てもなく探していく。

 この街で初めてシャガの母親と出会った、メインストリートへと辿り着いたタクスス。

 先ほどとは違い、もぬけの殻となった街がそこにあった。


「……誰もいない……あっ……音が戻った……これなら……いや」


(……また音を消されるだけ。これじゃ何も変わらない……打つ手がもうないのに……無理だよコレ)


「いた……!!」


「……アナタ、シャガ君の……」


「軍人さんっ!! こっちよ、早く!!」


「……っ!! ……くぅ……」


 既に避難していたはずのシャガの母親、プワゾンが今目の前に居る。

 側には彼女の旦那もおり、タクススの居場所を軍人に伝えるため、雨音をかき消す金切り声を上げる。

 タクススが息を吐く暇もなくその場から逃げ出していく中、ひたすら叫び続けるプワゾンは、駆け寄ってきた軍人にタクススが逃げた方角を指差すと、血涙が出るほど必死の形相で訴えかける。


「お願いっ!! あの女を捕まえてっ!! 母親の形見が盗まれたのっ!!」


「形見を……? 分かりました。必ず取り返しますので、アナタ達は避難してださい」


「形見がどんな物か分かるのっ!? アレは……あぁ!! 特徴を上手く言葉に出来ない……!! 私が直接確認するわっ!! だから私も連れて行って!!」


「はっ? いやいやいや!! 危ないですよ、あの女は死の言葉を使うんですからっ!!」


「お願い!! お願いっ!!」


「いや……えぇ……? アナベル中将、どうしますか」


「……奥さん、何があっても自己責任になりますが」


「構わないわっ!!」


「……行くぞお前ら。奥さんと旦那さんは最後方から来てください」


「分かったわ!!」


「ちょ、ちょっと」


「は? 何よ」


 あまりにもとんとん拍子で進んでいく会話に付いていけなくなったプワゾンの旦那。

 彼は小声で妻に話しかける。


「どういうことだよ形見って……真っ赤な嘘じゃないか。ここで待ち伏せしてたのは、あの火傷顔の女が来ないか見張るだけって約束したじゃん……危険だぞ、これ以上は」


「それは承知の上よっ!! けど……前の夫と子供が山賊だったなんて、あの火傷女が軍人に言ってもみなさいよっ!! 私捕まるかもしれないわよ!? 確実に死んだのをこの目で見ないと、私、安心して過ごせないじゃないのっ!!」


「分かった!! ……分かったけど、危なくなったら直ぐに逃げるからね? 良いね?」


「……あいよ」


 シャガの母親とその再婚相手が話し合う中、軍人達もアナベルの指示に対して疑問を投げていた。


「アナベル中将、どういうことですか? 一般人を連れて行くって……」


「……お前ら、この街のことについて聞いた事ないか?」


「はい?」


「臓器売買と薬物販売が常習化されていることだ」


「……まさか」


「あの女の顔……薬物の症状だろうな。先ずは死の言葉を使うあの女を捕まえるが……次はこの2人だ」


「……了解です」


「何かあったら俺が責任を取る。途中で死んだら……事故死で片付ける。今は時間が惜しい、急ぐぞっ!!」


ー-------------------------------


 彼女は無我夢中で走った。

 仲間達との約束を果たすために。

 覆せぬ数の力から身を隠すために。

 必死にもがき続けるタクススを迎え入れた場所は、煌びやかな豪邸でも、商品が几帳面に陳列された商店でも、埃まみれの倉庫でもない。

 タクススが辿り着いたここは、悪臭漂う室外。

 中心地から少し離れたゴミ捨て場だ。

 街中のゴミが集められ、民家と同じ高さの山を至る所に作るこの場所で、呼吸を整えるため大きく息を吸わざるを得ない彼女。

 何度も咽返り、目に涙を浮かべるタクススは、ゴミ山の一か所に視線が釘付けになる。

 そこには子供の死体があった。

 腹を切られ、本来なら詰まっているはずの臓器が奇麗に抜き取られているそれは、離れ離れになった彼の顔に似ていた。


「……え? ……シャガ、君……?」

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