君へ届けるキンセンカ
『カンナ君、今どんな状況? 順調?」
「Yes、ターゲットは変な防壁を作り出しますが見掛け倒しです。簡単に壊せます」
『そう……ならどんどん撃って……今悲鳴が聞こえて来たんだけど?』
「Stop……味方の兵士達が……猫になってます。モフモフで可愛いです」
『感想は聞いてないんだけどね……姿を変えられた? ……銃を撃てなくするためかな?』
「Maybe、そのようです。ザクロ中佐は今どの辺りですか?」
『ん~? ……何処だろここ……まあ、問題なく進んでるよ。それじゃ、各々自分の仕事を頑張ろうね』
「Yes、了解しました」
手元の無線機による会話を終えるカンナ。
スコープの先にいる隻腕の狙撃手は、屋根の上を飛び回りながら、目に映る軍人の姿を無害な小動物へと変えていく。
血走った目から伺える、彼女の焦燥感。
カンナはそれを肌で感じつつも、静謐の心を保ったままカガチを狙撃していく。
「……ちっ!!」
(どんだけ居やがんだよっ!! 全然カバーできねぇし……言葉も……!?)
「あっっっっつ!? ちっ!! 糞がぁ!!」
周囲の包囲網を強引に突破していく標的のカガチ。
偽りの壁を作り出し目視されるのを妨害していくも、じわりじわりと被弾する回数が増えていく。
弾丸に混じる言葉により、彼女のさらけ出されている脇腹は、ブツブツが広がり膿が流れ始める。
「……っ!!」
(結構減らせたんだけどなぁ……これ以上はきっついな!? 一旦何処かに潜伏するか……ん? ……ここだけ屋根に隙間が……)
駆け巡っていた足場の一部に綻びがあるのを見つけたカガチ。
すぐさまポケットからビー玉を取り出すと、自分を覆うような壁を四方八方に作り出す。
化かす言葉のカラクリを既に看破している軍人達は、躊躇なく発砲を繰り返す。
粉々に砕かれていく偽りの障壁。
飛び交う弾丸に貫かれ、中に隠れていたカガチの体は、血で濡れていない場所を見つけるのが困難な程になってしまったのだった。
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「……っ!! あっぶねぇ……!! 間一髪じゃねぇか……!!」
撃たれる寸前の所で、ビー玉から自分の身代わりを作ったカガチ。
罅の中へ体重をかけて飛び込むと、天井を突き破り民家の2階へと落下していた。
受け身も取れず着地した彼女。
痛む体を引きずって、民家の1階裏口から狭い路地裏へ移動すると、潜伏する場所を見つけるため現在地から遠くへと歩いて移動していく。
「……いってぇ……糞が……バカスカ撃ちやがって……マジで覚えてろよ。次は……」
「君に次は無いよ」
「……はっ!?」
背後から聞こえてきた男性の声。
反射的にその場を飛びのくも、彼の弾丸により右肺の部分を貫かれるカガチ。
力なく倒れ込む彼女は、切れ切れに風のような音を発し、大量の血を地面へと流している。
「ひゅー……!! がっ……!?」
「……僕達みたいな狙撃手は、自分から積極的に近寄って来ないって思うよね。狙撃銃を使う意味がないし……まあ、だから君みたいな腕のある狙撃手の意表は突けるんだよね。博打だけど」
「ぐが……あ……」
「もう大人しくした方が良いよ、動いたら痛むし……知ってる? さっき雷が鳴ったでしょ。アレね、アナベル中将の言葉なんだよ。君達の仲間の赤毛の子。彼女ね、その落雷で死んだらしいよ。僕達の部下がさっき無線で連絡してきたんだ」
「……っ!? あ"……ぁ"!?」
「脈も取ってるから間違いないって。それでアナベル中将は……タクススだったけ? 彼女を追ってるよ。いくら死の言葉を使えても、アナベル中将は音も消せるからね。静まれって言葉、知ってるよね。無音での連携は僕達慣れてるよ。まあ、結論を言うとね……お疲れ様。来世では悪い事せずに生きてね」
これから摘み取る命に別れを告げるザクロは、身動きの取れなくなったカガチの頭部へ、銃の照準を合わせる。
必死にその場から逃げようともがくカガチだが、呼吸すら困難な彼女に動く力は残っていない。
「く……そがぁ……」
「それじゃ……バイバイ」




