化かし欺く狂女
倉庫が爆破する少し前。
ローズと別れた3人は、陸屋根に陣取る軍人達の包囲網により、住居と住居の間の通路で動けずにいた。
僅かでも顔を出そうものなら、たちまち鉄の雨が彼女達に降り注ぐだろう。
じわりじわりと迫って来る軍人達に、心臓をギュっと掴まれている感覚に落ちいるタクスス達。
打開する策を矢継ぎ早に出し続けていた。
「……狙撃手を見つけだして殺しますか?」
「いやきついだろ、この数だぜ? ……どーすっかな」
「はいはいはい!! カガチの言葉で僕達の姿を変えればOKだよぉ!!」
「OKじゃねぇよ!! さっきも言っただろ!? 居場所がバレてんだぞ!? 誰に化けても同じだっつーの!!」
「うげぇ~……じゃあどうするんだよぉ……」
「……二手に分かれますか?」
「このままだと、どうせ殺られるしなぁ~……それくらいしか思いつかねぇな」
「マジかよぉ……」
「おい、タクススとアムネシア。テメェらは全力で逃げろ。アタシはここでアイツらをぶっ殺すからよ」
「ローズと同じこと言ってるよぉ……死亡フラグだよぉ……」
「あ"ぁ"!? 誰が死ぬってオイ!! 先にテメェの頭からぶち抜いてやんぞ!?」
「ひぃぃぃぃ!? 勘弁なんだよぉ!!」
「ったく……いいか? コルスの唯一の手掛かりになるかもしれねぇタクススが殺される訳にはいかねぇ~んだよ。アムネシア、テメェは取り合えず弾除けに徹しろ。いいか? タクススは絶対に死なせるなよ。捕まえられるのもナシな」
「うわっ!! 僕の命が軽すぎるよぉ!?」
「……私は肉体が無くならない限り死なないんですけどね……そんなにコルスさんを殺したいんですか」
「ああ。アタシの命に代えても殺す。あのクソ野郎は絶対にだ。だから無事に逃げ延びろよ。時間が来たら船着き場に集合な……それじゃ行くぞ!!」
勢い良く物陰から飛び出していく隻腕の狙撃手。
瞬時に銃声が鳴り響くも、今は逃げることを選択するタクススとアムネシアは、後ろを振り返らず前へと進む決断をする。
離れ離れになる仲間達の安否を祈りながら……
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目立つように姿を晒しつつ逃げ回るカガチ。
上空からの狙撃を間一髪の所で避けていくも、その射線は少しずつだが確実にカガチの肉体を捉えていた。
抉られていく肌に顔を歪ませながら、彼女は人気の無い小売店の中へと、扉を突き破って侵入していく。
「くぅ~……!! あ、あっぶねぇ!! やっぱまともに戦うのはきつ過ぎんだろ!? なんか小細工考えね~とやべぇわ……」
使えそうな道具がないかと室内を物色するカガチ。
入荷したての新鮮な果実が、陳列棚に並べられてあるだけで、戦闘に使用できそうな品は置いてなかった。
やけくそ気味に棚に置いていあるリンゴを掴み取り、勢いよく齧る彼女。
思ったよりも瑞々しかった果実に顔をほころばせながら、1人でどうやって相手にしていくかを考える。
「おっ……このリンゴ美味しいな。 ……って!! こんな暇ねぇんだって糞がっ!! なんかこう手榴弾とかさ……護身用の武器ないの!? 今のご時世で不用心だなこの店っ!! う~ん……考えろ、マジでなんか考えつかねぇと死ぬぞこれ」
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カガチが店の中で頭を悩ませている最中、狙撃手達を指揮するザクロとカンナも、彼女と同じように頭を悩ませていた。
土砂降りの雨に打たれ続ける彼ら。
戦局が大して動かない中での悪天候ということもあり、彼らの精神力もじわりじわりと削られている様子であった。
「……カンナ君、寒くない?」
「No、問題ありま……くしゅんっ!!」
「まあ、そりゃ寒いよね……う~ん、こんなに雨が降って来るなんてね。みんなは大丈夫?」
手元の無線で部下達に呼びかけるザクロ。
各々返事を返すも、いつもより覇気のない声が無線機から聞こえてくる。
ため息を吐く彼。
地上の人間に応援を頼もうにも、市民の避難とローズ討伐のために殆どの兵士が出向いている。
どうしたものかと唸りながら考えていると、建物に立てこもっていたカガチが外へと勢いよく飛び出してきた。
我慢できずに一か八かの作戦なのだろうか。
スコープ越しに彼女の姿を捉えるザクロ。
その標的が何かを投げつけてきた。
目を離す時間が惜しい彼は、相棒のカンナに、投げつけられた物の確認を取る。
「カンナ君、こっちにきている物体は何? 僕ちょっと目が離せないからさ……確認してくれない?」
「Yes、了解しました。アレは……手榴弾ですね」
「そっか手榴弾か……ん? 手榴弾!?」
思わずスコープから目を離し、肉眼で飛来する物体を目にするザクロ。
曇天の空と似たような色をしているそれは、安全ピンが外されており、時間的にはそろそろ爆発する頃合いである。
「嘘でしょ……!!」
「No、本当です。ザクロ中佐、私のポンチョの中に。『硬ばれ』」
手榴弾から身を守るようにポンチョを広げるカンナ。
彼女が水浸しの布切れに言葉を使うと、それは強靭な物体へと変化していく。
「危ないな……っていうか、手榴弾なんて持ってたんだね」
「Maybe、店の中から拾ったとかでしょうか」
「店ねぇ……ところでさ、カンナ君」
「Yes、おかしいですね」
「うん、爆発しないね」
そこそこ時間が経っているにも関わらず、一向に爆発の気配を見せない。
ポンチョの隙間から恐る恐る手榴弾が落ちて来た場所を見る2人。
そこに転がっていたのは、鉄の塊ではなく、齧りかけのリンゴが落ちているのであった。




