表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
92/102

失ったもの

 力を込めた右腕は、左の眼球を貫き、そのまま更に奥の肉を抉ろうとする。

 両手でテッセンの右腕を掴むローズ。

 そのまま視界に捉えて塵にしようとするも、彼は姿を透過させたままであり、照準が合わせられない。


「……っ!! 女性の顔を狙うのは、反則って知ってますかねぇ……」


「知らないな」


「くっくっく……!! ナイフじゃなくて銃で撃てば良いものを……腕に自信がないのですか?」


「……お前も人のこと言えるほど上手くねぇだろ」


「はいはい。まあ、ここまで近づいているのなら、わざわざ使う必要がないですかねぇ~……」


 テッセンを見ることを諦めたローズは、代わりに水浸しの地面に視線を移す。

 行き場を無くした雨水がレンガ造りの歩道に溜まっており、彼女は湯を沸かすようにそれらへ熱を加える。

 秒針が1回動くと同時に、沸騰したお湯から立ち昇る湯気が空へと舞い上がり、触れた人間に激痛を走らせていく。


「熱っ……ぐぁ!?」


「左目のお返しですよ」


 怯んだテッセンが力を緩めたのを見逃さず、掴んだ腕の感触を頼りに右足の蹴りを食らわせるローズ。

 当てずっぽうの反撃は鳩尾へと届き、ナイフから手を離した彼は、後方の地面へと吹き飛ばされていく。

 左目に刺さるナイフを乱暴に抜き取るローズ。

 使い物にならなくなったその場所からは、血の涙が溢れ出している。

 地面に仰向けになるテッセンは、直ぐに顔を上げる。

 周囲を見渡すが、彼女の姿はない。


「ぐ……はぁっ!! くそ、逃げやがった……!! 熱反応は……ちっ!! あの野郎……」


 右手に巻かれている小型の機械で、姿を消したローズの熱反応を探るテッセン。

 だが彼は、その試みを断念せざるを得なくなる。

 一面に燃え広がる火の海によって。


ー-----------------------------------


 燃えそうな物を手当たり次第に燃やしながら、少し離れた倉庫の中へと逃げ延びたローズ。

 左目を同じ側の手で押さえながら、木箱に背を付け腰を下ろしている。

 焼け焦げるような痛みに呼吸を乱しながらも、彼女は次の一手を探していた。


「ふー……少しは時間を稼げますかねぇ~……まあ、血の跡でバレそうですが。さてさて、どうしますかねぇ……ちょっと総攻撃食らっただけでこれとは。困った困った」


 ポケットに仕舞っていた煙草を取り出す彼女。

 口に咥えて味を堪能しようとするも、大雨の影響によって水浸しになっており、火が点く様子は感じられない。

 渋々仕舞い直すと、周囲にある木箱を物色していく。


「煙草煙草……ん~? 何ですかこれ……おやおや、探していた品じゃないですか。それに気密性のあるこの倉庫……くっくっく……!! 良い風が吹いてきましたねぇ。後はどう誘い込みますか」

 

 本当はもう少しこの場で時間を稼ぐつもりだった彼女。

 重い腰を上げ、小さなドアから倉庫の外へと出る。

 土砂降りの雨に体を濡らしながら、奇襲をかけに軍人達の群れへと静かに歩いて行った。


ー------------------------------------

 

「そっちはどうだ、テッセンちゃん!!」


「……ダメですね。外れです」


「カタバミっ!!」


「はいっ!! ダメでしたっ!!」


 ローズを見失ったテッセンはプロテア達と合流し、事情を説明した後、人海戦術で探し回っていた。

 部下達と共にプロテアらも港内のあらゆる場所を探すが、彼女の姿は微塵も見当たらない。

 ただ時間だけが過ぎていく。


「ローズちゃん、何処に行きやがった? ……これじゃかくれんぼじゃねぇか」


「もう!! テッセンが仕留め損なうから悪いんですよっ!!」


「先輩を呼び捨てにするし煩いな……純粋に強いんだよ、アイツは」


「そんなこと知ってますよっ!! ローズ少佐はエリートですからねっ!!」


「……お前確かアイツと仲良かったよな。これから殺すことになるのに随分元気だな」


「今はですよっ!! ちょっと前は流石にメンタルに来ましたが……今はもう覚悟完了済みですよっ!!」


「そう……」


「よく言ったカタバミ!! それでこそ私の部下だ!!」


「……」


「強いねぇ~女は……そう思わない? テッセンちゃん」


「ふっ……俺達がメンタル弱いだけじゃないですか?」


「それ言うなよ……傷つくぞ俺」


「……おい貴様ら!! 集中し……」


「うぁぁぁぁぁ!!」


 探索を続けていた部下の1人が断末魔と共に灼け散った。

 軽口を叩くプロテア達へ注意を促そうとしたアヤメを筆頭に、周囲への警戒心を最大にまで上げる。

 人を一瞬で灼き殺すことが出来る人間は、考えられる限りローズしかいない。

 物陰に潜む彼女を追う軍人達。

 あまりにローズを探し出すことに気を取られていたばっかりに、彼らは足元を流れる液体の変化に気付くのが遅れてしまう。

 透明な液体にゆらゆらと漂う虹色の物体。

 それは見る者を幻想的な世界へと誘い、熱を帯びるとたちまち、辺りを地獄のような光景へと変貌させる。

 ローズは大量の食用油を地面へと流し、最高火力で着火し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ