巧言令色
雨の中、都心から少し離れた場所にひっそりと佇んでいる、2階建ての家宅へ招かれたタクスス達4人。
周囲の家々は寝支度をすでに終えており、家内の灯りは消えている。
プワゾンと名乗る女性は、タクスス達に乾いたタオルを渡すと、2階の空室へと案内し少し待っているように伝えた。
物もなくガラリとした空間は、女性4人が座ってもスペースが有り余るほどだ。
安息の地に辿り着いたタクスス達は、プワゾンから受け取ったタオルで、髪や衣服を拭いていく。
「ふ~……落ち着くよぉ。短時間で隠れ家を見つけるなんて、シャガはいい仕事するんだよぉ!!」
「まぁ~その肝心のシャガがいねぇけどな。あの野郎、買い物に行ってるんだっけ? あの母親の話だと」
「……みたいですね……」
「おやおや? タクスス、どうしましたか」
「……いえ、その……ちょっと気になることが……なんかあの母親、何処かで見たような感じがするんですよね」
「それはそれは、顔見知りでしたか」
「……あ、いやその……そういうわけじゃないんですけど……会ったって言うか、あんな雰囲気の人を何処かで見たような気がするんですよね」
「あんな雰囲気? テメェの気のせいじゃねぇか? キツイ雰囲気の女なんて、最近の世の中じゃ~うじゃうじゃいんだろ」
「……う~ん……」
「はいはい、皆さんちょっと聞いて下さいねぇ~今後の動きを伝えますよ。先ずはしばらくこの場所でやり過ごします。船の出航10分前になったらここを出ましょうか。そうですねぇ~……40分後ぐらいでしょうか」
「んだよ、結構すぐじゃねぇか。わざわざこんな場所に隠れる必要なんてなかったんじゃねぇか?」
「それがそうでもないんですよねぇ……ほれほれ」
窓の近くまで来るように手招きをするローズ。
3人は首を傾げながら窓際まで歩み寄る。
ローズが窓越しに指で示す方向。
そこには、雨に打たれながら一軒一軒探し回っている真っ白な軍服を羽織る軍人達の姿があった。
「げぇ!? もう追いついたのかよぉ!!」
「でしょうねぇ~……仕事が出来る人達ですよ。ここに来ていなかったなら、今頃見つかっていたかもしれないですねぇ」
「……間一髪ですね」
「はいはい。というわけで皆さん、暫くやり過ごしましょうか」
危機は目の前に迫っている。
だが、今はシャガの母親に匿って貰っている。
警戒を怠ってはいないが、楽天的な考えが脳を満たしていた。
今いる場所が薄氷の上だと知らない彼女達は、たちまち冷たい水の中へと引きずり込まれることになる。
プワゾンの家へと立ち寄る軍人達。
ここに来るまでにシャガの母親といくつも言葉を交わし、軍人が訪ねて来た際は、適当にあしらって欲しいと伝えていた。
事情を深くは聞かなかったが、快く承諾したはずのプワゾン。
彼女は今、その時の約束とは正反対の事をしている。
酷く狼狽えた様子のプワゾンは、軍人達を家の中へと招き入れると、2階へと向かうように声を上げている。
2階から玄関でのやり取りを見守っていた4人の心臓の音が、外の煩い雨音よりも大きくなる。
「……え?」
「何で中に入れたんだ……むぎゅ!!」
「はいはい、静かにして下さいね。ちょっと考えるので」
「テメェら、当然殺るよな?」
「……はいはい。仕方がないですが」
「むがむぅぅぅんぎゃ!!」
「……40分のかくれんぼですか」
鍵を閉めていたドアを蹴飛ばし、部屋の中へと進入してきた軍人達。
銃を構えている彼らが動くよりも先に、開戦の合図を告げる言葉を発する
「……『死ね』」
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雨は依然として止まない。
むしろ、この街へ来た時よりも強く降り注いでいる。
向かって来た軍人を殺した後、2階から窓を破って飛び降りる4人。
衣に再び潤いが広がっていく中、身を隠せる場所を探しながら奔走する。
騒ぎを聞きつけた軍の仲間が続々と集結していく中、建築物に挟まれた道をジグザグに走り、姿を眩ませようとするタクスス達。
だが、進めど進めど軍人達の前から姿を消すことが出来ない。
街の至る所に待ち構えている彼らの発砲や言葉を避け、息を切らしながらひたすら逃げ回る。
「……皆さん、無事、ですか?」
「ふひっ!! ふぁ~!! 今のとこはだよぉ!! カガチぃ~!! 僕達の姿を変えるんだよぉ!!」
「あ"ぁ"!? ならどっかで姿を隠さねぇとなぁ!! 見られてんのに化けた所で意味ねぇぞ!? ……撃っても撃ってもキリねぇな!! 弾切れしそうだわっ!!」
「ふむふむ……ではカガチ、一旦撃つのは止めましょう。アナタには狙撃手達のけん制をして貰う必要があるので」
「あいよっと!! んじゃ任せるぞ2人とも!!」
「はいはい」
「……分かりました」
タクスス達が逃げ回っている僅かな時間に、道の隅々にバリケードが設置され、姿を変えていくブリダンの街。
徐々に動きを制限されていく彼女達は、強引に突っ切るため、壁に背を付け半身になりながら言葉を使おうとする。
その僅かな姿を見つけた彼は、既に覚悟を決めていたのだろう。
容赦のない爆撃が、タクスス達へと襲い掛かった。
「『爆ぜろ』っ!!」




