欲望の入り江・ブリダン
大粒の雨が山路を泥濘ませる中、車両を震わせ前へと進む。
軍人達の一斉射撃により出来た穴から、車内へ雨水が流れ込み、タクスス達の衣服に滲み込んでいく。
「……冷たい」
「あの軍人ども、天井をバカスカ撃ちやがって……つーか何で貫通してんだよ!? 軍用車両だろコレ!?」
「物質の硬度を変えてしまう言葉、使用者はカンナさんです。彼女にかかれば、こんな鉄板は意味がありませんよ。それとどうでした? 弾丸が追尾してくる感想は」
「……ずり~ぞ流石に。アレが言ってた必中狙撃か?」
「はいはい。ザクロ中佐と言うイケおじが使用しますのでお気をつけて」
「やってらんね~……普通に狙撃の腕もあるしよぉ……タイヤパンクさせたのもそいつら2人だろ、どうせ」
「でしょうねぇ……」
煙草を取り出しながら先っぽに火を点けようとするローズ。
だが湿ったそれに熱が灯ることは無く、口に咥えたまま手持ち無沙汰になっていた。
「アムネシア、ブリダンまではあとどれくらいで到着しますか?」
「ううん……? 2時間くらい? パンクしたタイヤのせいで、予定よりも進みずらいんだよぉ!!」
「マジかよ……どっかで追手を撒いた方が良いんじゃねぇか? 軍人どもに追いつかれるぞ」
「いえいえ、多分大丈夫ですよ。勘ですが」
「勘かよ……タクスス、どうすんだ? このまま進むか、何処かで待機して軍人どもを先に行かせるか」
「ではでは、タクススどうします?」
「タクスス、早く決めるんだよぉ!!」
「……私がですか? ……そうですね」
3人の視線を一点に浴びるタクスス。
このまま進むか一旦何処かに身を隠すか。
2択を迫られた彼女の脳裏に、マリガンで別れたシャガの顔がちらついている。
「……先に進みましょう。シャガ君が待っているかもしれないので」
ー---------------------------------
街の活気はそのまま風景に現れる。
雨が降り続いているにも関わらず、街には傘をさした住人で溢れ返っており、騒ぎ声が静まる気配がない。
郊外で車を降りたタクスス達は、軍用車両をローズの言葉で灼ききった後、天然のシャワーを浴びながら都心へとやって来た。
カガチが待ち合わせ場所に指定した、船着き場へと歩を進める彼女達。
都心とは打って変わって物静かなその場所には、木製の梱包容器に包まれた商品が奇麗に並べられており、雨に打たれながら出荷の時を待っている。
近くには小型のボートがいくつも停泊しており、異様な存在感を放つ貨物船には、輸出用の荷物が次々と運び込まれている。
「……カガチさん、ここですか?」
「そうなんだが……ん~……いねぇぞ、シャガの野郎」
「……まだ着いていないんですかね」
「それはないんだよぉ!! 多分……」
「多分ねぇ……これはこれは参りましたね、どうしましょうか」
「……ちょっと探しましょうか」
1人先行してこの街に向かっていたシャガと合流するため、雨中の港を探し回るタクスス達4人。
だが、一向に手がかりが掴めないまま、いたずらに時間だけが過ぎていく。
分厚い雲に覆われた空からは、依然として大量の粒が落ちてくる。
倉庫の雨除けに入り、探索の結果を報告し合う4人。
収穫は、貨物船の出航時刻や輸入品についての情報ぐらいで、シャガに関する目ぼしい情報は1つも得ることが出来なかった。
「……ダメですね」
「はいはい。まったく……何処に行ったのでしょうねぇ」
「悪るいなテメェら……もうちょい分かりやすい場所にすれば良かった」
「まったくだよぉ!! カガチったら頭が回らない……いただだだっ!! 胸が千切れるんだよぉ!!」
「んでよ、どうする? シャガの野郎と会わずにそのまま出発するか?」
「……それは……」
「船の出発時刻はおよそ1時間後。その間に軍隊が追い付く可能性もありますねぇ……これはこれは悩ましい状況ですよ」
「……ローズさんならどう判断しますか?」
「はいはい、そうですねぇ……私なら一旦隠れ場を探しますねぇ。それを見つけたうえで探査に移りますよ」
「アタシも同じだな。あの軍人どもに見つかるのは御免だぜ」
「あ、じゃあ僕も……」
「……分かりました。何処か……安全な場所を探しに行きましょうか」
「……タクスス、不安に思う気持ちも分かります。ですが、シャガはそう簡単に捕まるような子じゃないですよ」
「……そう……ですよね」
鉛色の空と同じ気持ちになるタクスス。
仲間の励ましを受け、一旦シャガの事を後回しにする彼女。
だがこの世界は、タクススの胸中になど一切配慮しない。
嫌でも彼の事を思い出してしまう話し声を聞いてしまう。
港を離れ街のメインストリートへとやって来た4人。
安地を探す彼女達の目に、シャガのことを話す2人の夫婦が、すぐそばを横切っていくのが映りこむ。
その瞬間、シャガとの会話を思い出すタクスス。
この街には母親が住んでいると、彼は前に話していた。
目の前の人物がその母親かもしれない。
眼鏡を掛け、茶髪の癖毛が目立つ女性。
頬が痩せこけている彼女と、横にいる全身入れ墨だらけの男性は、シャガの名前をタクススが咄嗟に口にすると、途端に目の色が変わりコチラに視線を移す。
歩みを止めタクスス達に正対する2人の夫婦。
彼女達の挙動不審な動きを不思議には思いつつも、呼び名が分からないタクススは、母親の名前を聞いてみることにした。
「……えっと、少しお話があるのですが……お名前は……?」
「え? ……レクト・プワゾンだけど……」




