染み込む穢れ
「すみませんすみません!! もう少し待って頂けないでしょうか……
「ねえ、今回で何回目だと思ってるの? 支払い日はとっくに過ぎてるけど
「そ、それは……
「……お宅とは、いい商売が出来てたんだけどね。残念だよ
「あ……ちょっと、待って下さい!! くっそ……
「あ、あの……店長……相談があるんですけど……これ
「ん? 何だ……辞表……?
「家の急用でちょっと働けなくなったって言うか……これからはちょっと厳しいって言うか……すみません!!
「あ……ちょっと!!
「ふ~……危ない危ない……こんないつ潰れるか分からない店で、いつまでも働けるかってんだよ……次探そっと
「……くぅ……!! 何とかしないと……
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「お父さん……飲み過ぎだよ……お酒
「……あ"ぁ"!? ……いいから持ってこいっ!!
「で、でも……
「お前な……誰のお陰で飯が食えてると思ってんだっ!?
「……っ!! わ、分かったよ
「くっそ……こんなはずじゃなかったんだよ……なんでなんだよ……くそくそくそっ!!
「……大丈夫、今だけだから……今だけ……
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「お帰りお父さん。ご飯できてるよ
「……ああ、そこに置いておいてくれ
「……え、冷めちゃうよ? 良いの……?
「良いって言ってんだろ? 何度も言わせんなよ
「ご、ごめん……
「はぁ……母さんが生きてればな……
「……え?
「何で母さんは、あんなに早く死んだんだろうな
「……
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「お父さん、今日は……仕事良いの?
「あー……休みだから問題ない……
「そ、そう……煙草の吸殻、捨ててくるね
「ああ……ついでに買い出しに行って来てくれ
「うん、分かった
「……母さんに似てきたな
「え?
「……何でもない
「ゴミ、捨ててくるね……あっ……吸いかけの煙草…………っ!! げほっげほっ!! 何これ……不味い……こんなのを吸ってるの? お父さん……
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「買い出しから戻ったよ……アレ? お父さんがいない……!? あっ……お父さ……ぐぅぅ!? んー!!
「母さん、母さん……母さんっ!!
「ぐぅぅ!? 服を……んんんんっ!!
「はぁ……はぁ……温かいよぉ!! 母さん!! 母さんっ!!
「んんんんんっ!! 痛っ!! 出さなっ!! うぅう"う"う"!! ……んっ!!
「痛っ!? この……
「『灼けろ』っ!!
「!? うわぁぁ!!
「……はぁ……はぁ……中、出され、た……う"っ!! お"え"っ……ごっ!! ごぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! ……嘘……つき。守るって、言ってたのに……約束したのに!! 口だけの嘘つきっ!!
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煙を吐き、ぼんやりと遠くを眺めながら歩くクズ。
先ほど覗いた彼女の記憶を、苦い顔をしながら脳裏に浮かべ、自分専用の仕事場へと足を進めていく。
(……俺っちはその場にいたわけじゃないシ、あくまで記憶の断片を覗いているだけに過ぎないサ。だから、彼女の気持ちまでは正直分からない。世界を恨む気持ちも、全てを壊したいと言う八つ当たりの気持ちもネ。けどネ~……)
途中すれ違う部下達に軽い挨拶を交わす彼。
仕事場に置いてある使い込まれたソファーに背中を預けると、灰皿に煙草を押し付け、灰の中の空気を出し切るように吐いていく。
「……やっぱサ、それで戦争を起こしますってのは、ちょっと違うんじゃないかナ?」
「クズさんっ!!」
「おわっ!? 急に何サ!? ノックしてヨ、驚かさないでヨ!!」
「逃げました」
「ん?」
「檻の中にいた、死の言葉を使う女が脱走しましたっ!!」
「……やばくネ?」
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「カンナ君、テッセン君とカタバミ君の連絡聞いたね」
「Yes、現場に向かいましょう」
「うん、そうしよう。じゃあ3人とも、ローズの処刑を頼むよ!! 僕達は向こうに加勢するから!!」
「……了解しました」
「了解だよぉ!!」
「了解だっ!!」
「よし……早速なんだけどカンナ君……ん?」
「what? どうしましたか? 早く向かわないんですか?」
「……何か引っかかるような……気のせいか? ……気のせいかな」
ローズを処刑室へと連れて来たザクロとカンナ。
無線で連絡を受けた2人は、1秒でも早く到着するように、他の事は一旦置いて走り出す。
処刑室の中で、棒立ちさせられたままのローズ。
後は処刑台に頭を入れられ、首が斬られるのを待つばかりである。
(……ここまでですか。いやいや、何ともあっけない幕切れですねぇ……不完全燃焼ですよ。しかし……なんでしょうね……やたら煩いですが……んん?)
耳の中に侵入する音。
先ほどから続いているこれは、本当に処刑担当の軍人なのか首を傾げたくなる。
「やっばいよぉ!! もう見つかってるんだよぉ!!」
「テメェの細工がイマイチだからだろっ!? ぶん殴るぞっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「……あの、もう拘束を解いちゃいますね」
軍人の手とは思えないか細く繊細な指が、ローズの自由を奪っていた拘束を1個1個解いていく。
黒一色だった景色に光の雫が落ち、目の前の人物を鮮明に映し出した。
「……大丈夫ですか? ローズさん」




