兵士は何を思う
無機質でガラリとした空間の中、ローズを取り囲むようにして立ち並ぶ軍人達。
今回の任務で捕獲に動いたプロテア、テッセンを筆頭に、アナベル、アヤメ、カタバミ、ザクロ、カンナといった面々が、狭い密室に集まり、クズが記憶を探るのを見守っている。
「アナベル中将、ちょっと時間かかるけど良いかナ? ……30分くらいかかりそうダ」
「ほう、お前にしては随分時間がかかるな」
「そうだネ。今パッと見た感じ、言って良いことと悪い事の精査に、時間がかかりそうな感じなんだよネ」
「あぁ? 精査ってどういうことだよ」
「ふっふっふ……デリカシーのないプロテアには分からないかもだけどネ。人の記憶を覗くなんて、普通はやっちゃいけないことなんだヨ。プライバシーに関わるからネ。だから慎重に吟味する必要があるのサ。今回みたいな身内の場合は特にネ。そんなことをしない奴は、相当頭がイカレてるヨ」
苦言を受けたプロテアは歯軋りをしている。
後で覚えてろよと目で訴えかける彼を他所に、淡々と自分の仕事を進めていくクズ。
丁度時計の針が半周した時、記憶の海に潜っていた彼は、息継ぎをするために外の世界へと顔を出した。
「お待たセ!! んじゃ早速、収穫してきた記憶を順に伝えていくヨ!! まずネ……ゴルウェーに派遣された時なんだけど、部下の3人……ローズが殺しちゃってるヨ」
「あぁ!? 3人って……ソテツちゃん達の事か!?」
「そうだネ」
「……続けてくれ、クズ」
「了解だヨ、アナベル中将!! 何故か部下達を灼き殺したローズ。理由はそこで出会った少女が、死の言葉を使えるからってのが、犯行の動機みたいだネ。火傷の銀髪美女……俺っちは結構好みだネ」
「……あ、あの……その女性って、ローズ少佐と一緒にいた、タクススって方ですか……?」
「そうだヨ、カタバミ。あの子だネ」
「そんな……」
「俺も実際に、マリガンで交戦している際に、タクススが死の言葉を使って、仲間を殺しているのを目撃しました。クズ少将の言っていることは正しいです」
「おっ!! テッセンの援護射撃が来たネ!! そんでサ……タクススにローズは協力をお願いしたんだよネ。ここから大事だから、ちゃんと聞いてネ!! ……どうやらローズは、対岸国のエレーケスと戦争がしたいみたい。まあそんな感ジ」
「……は? 戦争? おいクズ!! ローズちゃんは何でそんなことを!?」
「あ~……動機が知りたいんだネ? ……ちょっと今は言えないナ」
「何でだよ」
「う~ん……同情してもらいたくないからかナ……アナベル中将、ローズは始末するんですよネ?」
「……仲間を手にかけている時点でそうするつもりだ。マリガンで仲間と交戦したと聞いた時点で、決めてはいたよ。今の話を聞いて、決意はより強固になったがな。お前ら、この裏切り者を処刑室に連れていけ!! すぐさま始末するんだ!!」
「ぐぅ……マジかよ……」
「庇おうとしてたんだよネ、プロテア? ローズの記憶の中で見たヨ。けどこれは流石に厳しいヨ」
「うぅ……アヤメ少将!!」
「無理だ、諦めろ。クズは嘘を言わない……だろ?」
「俺っちの事をよく分かってるネ!! 流石同期って奴だヨ!!」
「ふんっ」
「ん~じゃあ、僕とカンナ君が連れて行こうか。カンナ君、いいね?」
「Yes、了解しました」
「んじゃ、そういうことで……クズ君、後でしっかり説明してね~」
「了解ですヨ、ザクロ中佐!!」
「お前ら、しっかり頼むぞ」
口数少なくその場を後にするアナベル。
かつての仲間がこれからいなくなることに、心を痛める者もいれば、仕事だと割り切って連行する者など、三者三様の反応である。
「あの……プロテア大佐、これからどうしますか?」
「あー……これからね……仕事部屋に戻るわ。書類仕事が残ってるしな……気が乗らねーけど」
「そうですか。あの、俺、タクススの所へ行ってきます」
「あぁ? ……何しに?」
「一応、ローズのことついて伝えておこうかと。タモアラで助けられたので」
「真面目だねぇ……多分だが、タクススちゃんも死刑だぜ? 今は檻の中だけどよ……死の言葉を使う人間の殺し方、覚えてる?」
「……えっと」
「焼殺」
「ああ……確か、あの言葉の使い手って、生き返るんでしたっけ。蘇りを防ぐために、肉体を完全に灰にする。座学以来なので忘れてました。まあ……何と言うか……やることはやっておこうかと」
「……分かったよ。場所は分かってんな? そんじゃ」
「あ、あの!! 私も行きます!!」
「カタバミもか?」
「私も一応、アスロンで色々あったので!! その……話しておこうかと」
「何か……よそよそしいな」
「むぅ……!! そういう所ですよ!! この老害!!」
「んな!?」
「元気だねぇ……そんじゃテッセンちゃんに、カタバミちゃん。気をつけてな」
「はい」
「了解です!!」
「……はぁ」
「おい貴様、このくらいで落ち込むな」
「んだよアヤメ。そういうお前は、もう少し病んでもいいんじゃねぇか?」
「ふんっ!! いつ死ぬか分からん職場だ。仲間が死んだくらいで取り乱したりはせん」
「おー……強い強い」
「お~う2人とモ!! 喧嘩かイ? 仲いいネ!!」
「煩せぇよ」
「クズ、貴様後で殴られたいのか?」
「ゴメンだヨ。んじゃ、俺っちはもう一仕事あるから、じゃ~ネ~」
「おう。んじゃ」
「サボるなよ、コイツみたいに」
最後まで室内に残っていたプロテア、アヤメ、クズの3人も、この場を後にしそれぞれの仕事場へと戻って行く。
人気がなくなった尋問室。
その静かさは、嵐の前の静けさのように見えた。




