監獄の街・フォングロード
深い深い海の底から意識が浮かび上がってくるタクスス。
周囲は夜の山道のように、光り無き世界が広がっている。
それもそうだろう。
布袋を頭に被せられているため、周囲の景色はおろか物音まで遮断されている彼女。
両手は体の後方で鉄製の手錠によって拘束されており、一切の自由を奪われている。
周囲に話しかけようにも、布を嚙まされているため、呻き声を上げることしか出来ない。
もぞもぞと上体を起こしていく彼女。
時折体に伝わって来る振動が、タクススに思考のためのヒントを与えてくれる。
(……ここは……? テッセンさんに気絶させられた後なら……軍人達の拠点に連れていかれている途中……? 車かなこれ……皆はあの後どうなったのかな……)
捕まったにしては、思ったより取り乱していないタクスス。
ここ最近のくぐってきた修羅場の数々が、彼女の精神力を強くしたのだろうか。
淡い自信が後に消え去るとは思いもしない彼女。
今はひたすら思考を絶やさず、事態が好転するのを待ち続ける。
体内時計で1時間ほど過ぎた頃。
小刻みに揺れていた床が制止したことから、何処かに着いたようだ。
恐らくここは……
(……軍人達の拠点……フォングロードって名前だったかな……? 噂でしか聞いたことないけど……)
巨大な湖の中心にそびえ立つ巨大な城のような監獄。
気の遠くなるような一本橋を渡りきると見えてくるそれは、侵入不可、難攻不落の要塞とも呼ばれており、悪人達の中では、神に見捨てられた場所と呼ばれているそうだ。
本で読んだ内容を思い出していると、誰かに右腕を掴まれ無理やり立たされる。
そのまま引っ張られるようにして何処かへ連れていかれるタクスス。
そよ風が頬を撫でるのを感じつつ、無風になった室内に入った彼女は、重苦しい重圧と共に、全身の細胞が恐怖に震えていく。
(……何ここ……急に雰囲気が変わった……? どうなってるの……)
頭部を覆っていた袋が乱雑に取られる。
遮断されていた情報が、一気にタクススへと押し寄せてくる。
薄暗い一本道の左右全てが檻となっており、閉じ込められている数多の罪人の両腕が、鉄の棒の隙間から伸び出ている。
何かを叫んでいる彼ら。
それらの顔をよく見ると、舌が半分以上欠けており、まともに言葉を発音できずにいる。
歯の抜けた老人のようにしか喋れない彼らを横目に、通路を進んで行くタクススと軍人達。
空いている檻の扉を開けて、乱暴に中へと放り込まれるタクスス。
軍の人間は扉を施錠すると、やっと仕事が終わったと肩を下ろし、談笑しながらその場を後にする。
「これで終わりっと……はぁ~……最近多すぎねぇか? 収容人数の限界が近いぞ?」
「分かってるよ……けど、こうも悪さする奴らが増えたらなぁ……それに聞いたか? ローズの野郎」
「ああ。これから尋問だとよ。まあ、クズ少将が記憶を覗くから、そんなに時間がかかんねーだろ」
「……殺されるよな」
「だろうな。軍に対する裏切り行為みたいなもんだしよ。エリート街道まっしぐらだったのに、勿体無いよな。何考えてんだアイツ」
(……ローズさんが殺される? ……脱出したいけど……どうすればいいのこれ。それに独房は……うぅ……)
狭い空間が過去のトラウマを思い出させる。
動悸が激しくなるタクスス。
虚ろな目で周囲を見渡すも、彼女に出来ることは一切残っていないのであった。
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誰もが今後の人生を嘆くこの場所で、罪人ではない人間が、かつての同僚との別れを嘆いている。
常に日を浴びれるようにと、監獄の頂上に建築された埋墓。
ここには戦死した数々の軍人達の遺骨が埋められており、任務から帰還したプロテアが、今は亡きクシノヤの遺骨を埋葬し、手を合わせ祈りを捧げている。
「……らしくないネ、お前がそんなことするなんテ」
「うっせーよ……俺にもいろいろあるんだよ。つーかクズ、なんの用だ」
「も~……プロテアはいっつも俺ちゃんに冷たいんだかラ!! ……ローズの記憶を覗く時間になったから、呼びに来たのサ」
「ああ……分かった、今行く」
呼びに来たクズの元へ歩を進めるプロテア。
場内へと続く階段を下りながら、黒髪のドレッドヘアーに整えている黒人の男性と、いつも通りに言葉を交わす。
「しかし俺ちゃん驚いちゃったヨ? まさかローズが敵対するなんてネ。セクハラしたノ?」
「ふっ……男嫌いのローズちゃんにそんなことしたら、灰になるまで灼かれてるよ」
「だよネ~……信じられないって人間が大半でサ。皆ざわついているヨ」
「……だろうなぁ」
「あ、ちなみにアナベル中将も同席するってヨ。凄い大事になってきたネ」
「……そんな中、記憶を覗いてアレコレ調べるんだろ? 嫌な仕事してるよお前」
「なんだイ……俺ちゃんの心配? 珍しイ~」
同期であるアヤメ、そして横を歩いているクズを前にすると、軽口が絶えない関係であるプロテア。
そんな彼の軽口が、普段にも増して切れ味がないことを察しているのか、深くは突っ込まないクズ。
無言で歩き続ける2人は、四肢を尋問用の椅子に拘束され、世界を目視し話す権利を奪われているローズの前に顔を出すのであった。




