表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
81/102

なんでどうして

 以前なら自然に振舞えたであろう相手。

 だが今は違う。

 彼の笑顔の裏を覗いてしまったシャガは、幽霊に遭遇したかのように恐怖で引き攣っていた。

 一方の商売人コルスも、酔いが回って気持ちよくなりながらも、自分を見つめる2つの目に違和感を感じていた。

 自分について何かを知ってしまったと、嫌でも目が訴えかけてきている。


「……私の今までの所業を知ってしまいました?」


「えっ」


「……あー……もういい、大体分かった。そうかそうか……んじゃ~()()()()()()()()()?」


「あ、あの誤解……」


「どこで俺のことを知ったんだか……まあいっか……どうだ? お前も飲むかワイン」


「……いらない」


「そう警戒すんなって!! 今日は人を攫う気なんてね~よ」


「……」


「はぁ~……まあいいさ。んで、何でお前がここにいるんだ? お仲間はいないのか?」


「……色々あって、俺だけ先に来た」


「ほ~ん? 子供1人でこの街にねぇ……」


 ワイン瓶の注ぎ口に直接口を付け、ラッパ飲みするコルス。

 今まで見てきた紳士的な態度は幻だったのだろうか。

 あまりに以前とかけ離れた空気を纏う彼に、シャガは怖気づいてしまう。


「……この街は似てんだよなぁ~エレーケスの街に」


「え?」


「上っ面は煌びやか。だがよ……ちょっと脇道に反れたら、嫌でも見えてくる巨大な影。隠すことも取り繕うこともしない醜悪な欲望の数々……お前さ、この街になんか用があんのか?」


「お母さんを探してる」


「この街に住んでんのか? へぇー……この街にねぇ……」


「何だよ、悪いのかよ!!」


「そう怒んなって。そうだな……知らない仲じゃないんだ、取っておきに出血大サービスで教えてやろうか。お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「は? 何言ってんだよ……おちょくってんのか!?」


「いいや? 本当の事を言ったまでだよ。ん~……説明するの面倒だな……酔いで頭が回んね~し」


「……それじゃ」


「あ? おいおい!! 俺、そこそこお前の事を評価してんだぜ!? そんな奴に嘘なんて言わね~よ!! ……行っちまった。はぁ~……何でこうもガキは聞き分けがないんだ……ん? げぇっ!? 雨降って来やがった!! ふざけんなよ糞がっ!!」


ー------------------------------


 空から涙が無数に落ちてくる。

 これから起こる悲劇に心を痛めているのだろうか。

 服が濡れて肌にへばりつく。

 だがそんなことは気にも留めていない。

 心のざわつきが治まらないからだ。

 コルスと別れたシャガは、聞き込みで得た情報を頼りに、賑わう中心街を離れていく。

 情報によれば、シャガの母親らしき人物は、繁華街から少し離れた船着き場の近くに住んでいるようだ。

 期待と不安が入り混じる中、歩を進めるスピードが徐々に上がっていく。

 辿り着いた場所は、住居から灯りが漏れ出している。

 深呼吸するシャガ。

 震える手で住居のドアを3回ノックする。

 中で女性の声が聞えた。

 足音が近づいて来る。

 ゆっくりと開けられたドアの向こう側から、一瞥して以前よりやせ細ってはいるが、記憶の中で生き続けていたシャガの母親が姿を現す。


「お母さん……?」


「……お前、シャガかい……? どうしてここに……」


 信じられない物を見たように、困惑するシャガの母親。

 びしょ濡れの我が子を家の中に招き入れると、乾いたタオルを渡す彼女。

 素直に受け取ったシャガを訝しみながら、シャガの母親は口を開いた。


「シャガ、どうしてお前がここに来たのか説明してくれるかい?」


「お母さん、あのね……お父さんとはもう会えなくなっちゃって、行く当てがなくなったんだ。だから俺、アウレラからここまで来たの」


「アイツが……姿を消したってこと?」


「……うん。まあ……そんな感じ」


「……はっ!! 軍を辞めて山賊になった奴なんて、今更どうとも思わないよ!!」


「……」


「ふー……それで、これからどうするんだいお前。ここに住もうってのかい?」


「……うん」


「随分都合がいいもんだね。私を選ばずに、アイツに付いて行ったクセにさ……」


「お~い、どうした? ……誰そいつ」


「ああコイツかい。昔話したじゃないか……私の子供だよ」


「……あー!! 思い出した思い出した。そう言えば結婚する前に言ってたね」


「……お母さん、その人誰?」


「あん? 今の夫、ヴィス・プワゾンだよ。私がアイツと離婚した後、この街に行くって言っただろ? 実際にこの街に辿り着いてから途方に暮れてた時に、良くして貰ってさ……今では同居している仲だよ。名字もクシノヤから、プワゾンに変えたんだ。これからはレクト・プワゾンだよ」


「どうも~!!」


「ど、どうも……」


 居間の方から顔を出した見知らぬ男性。

 シャガとレクトとの間に割って入った彼は、険悪な雰囲気を放つ2人をなだめていく。

 体の至る所に入れ墨やピアスを開けている男性。

 黒い髪を刈り上げ立たせている彼は、光のない真っ黒な瞳をコチラへと向けていた。


「ん~取り合えず話し合いは明日にして、今日は飯にしようぜ? 俺、お腹すいちゃったしさ。君も一緒に食べようよ、ご飯食べてないでしょ~その感じ」


「ま、まあ……」


「それじゃ決まり♪ レクトそういうことで」


「はいはい……まったくヴィスったら……待っていてね。今準備するから」


 昔クシノヤにさえ向けていなかった女神のような微笑みを、今の旦那へと浮かべるレクト。

 誘われるまま食卓の前へと行き、椅子へと腰を下ろすシャガ。

 運ばれて来る料理を囲み、三人は各々料理を口に運んでいく。

 談笑をしながら過ぎていく穏やかな時間。

 その時間をシャガは、窮屈な思いで過ごすことになる。

 度々ヴィスが話を振って来るが、赤の他人の家で食事を取っている感覚に陥るシャガは、食事が中々喉を通らない。

 それに、ある違和感が脳に訴えかけている。


(お母さんに男の人、どこを見てるんだろ……こっちに目を向けてるけど……俺を……見ていない……?)


ー--------------------------------


 食事が終わると、寝室を片付けるから待っていてくれとレクトから言われた。

 再婚相手のヴィスと共に、居間を後にする彼女。

 指示通りに腰を掛けたまま、時間を潰すため家の中を見渡すシャガ。

 母親とは5歳の時以来の再開となる彼。

 今のレクトが何をして過ごしているのか、僅かな興味が湧いていた。


「……内職でもしてるのかな、あの書類の山を見ると……ちょっと部屋が汚いけど、幸せに生きてるんだなぁ……そりゃそうだよなぁ……」


 離婚する間際の家庭では、常に口喧嘩が絶えなかった。

 そんな彼女が、今ではあんなに楽しそうに生活している。

 

「……俺、ここにいない方かいいかもな……ん? 何アレ……」

 

 じわじわと疎外感を抱き始めていたシャガ。

 そんな中、書類が置かれた机の上に、身に覚えのある物体を発見する。

 シャガはそれを手に取った途端、全身の血が凍っていくような心地になる。

 白い紙の上に盛られている、よく目にした白い粉。

 山賊達が売り捌いていた薬物だ。


「これ……薬物!? 何で……まさかっ!!」


 依然と比べてやせ細っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ぱっと見で分かるくらいげっそりとしていた。

 ただの食欲不振か何かかと思っていたが、現実はそんな生易しいものではない。

 山賊達は貴族から金を巻き上げるため、違法な商売をしていた。

 貴族だけを狙って、貴族だけが被害を被るように。

 ……そんなことが可能なのだろうか。

 モンテラでは悪徳宗教団体が、薬物を貴族達から手に入れ悪用していた。

 この世は思い通りにはいかない。

 むしろ、考えられる限りの最悪な方向に進むことが多いにも関わらず、彼らはそれに気が付かなかった。

 廻り廻った因果は、愚かな人間へと平等に降り注いでくる。


「シャガ? ちょっといい?」


 レクトが声を掛けてきた。

 呼吸が浅くなる。

 彼女の側には再婚相手のヴィスが、この世の悪意を凝縮した瞳で、哀れな子供を見つめている。

 

「話があるの……聞いてくれる?」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ