訪れた時間
会って間もないカガチには、タクスス達の行動の癖は少しも分からない。
だが、今の彼女達はどう考えても可笑しな動きをしている。
何者かに追われているかのように逃走していくタクスス達。
原因は恐らく先ほどの狙撃だろう。
「仲間……ってわけじゃねぇんだな? ……何処から狙撃してきやがった?」
岩々が積み重なる高台から周囲を見渡すカガチ。
弾丸の軌道から、ある程度の場所を推測する彼女は、目ぼしい場所を隈無く探していく。
「……あれか? 周囲の木々に擬態してやがんな……あの白い服……軍人? マジかよ……あぁ?」
息を潜める2人の狙撃手を発見したカガチ。
すぐさまタクスス達と合流しようとした彼女の目に、護送車に乗った何者かが、彼女達へと近づいているのが映り込んで来た。
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「やれやれ……今度は正真正銘、ザクロ中佐とカンナ准佐ですかねぇ」
視界に映り込まないように、木々の間を縫うように進んで行くタクスス達。
考えられる最悪の事態が、目の前まで迫って来ていた。
「……ローズさん、その人達は何者なんですか……?」
「ぶっちぎりで腕のある狙撃手2人ですよ」
「えぇっ!? そんな人達がここに来てんのっ!?」
「はいはい。応援を呼んだか、偶々近くで任務にあたっていたか……弱りましたねぇ」
「うぎゃぁぁぁ!! ヤバいんがよぉ!!」
「アムネシア、死にたくなかったら姿を見せないことですよ」
「うぇ?」
「特にザクロ中佐に見られたら終わりですよ。必中の狙撃が飛んできますのでねぇ」
「ひぃ!?」
「……早く追っ手を撒かないと」
「ですです。何処かに姿を隠せる場所がないも……」
「『爆ぜろ』っ!!」
誰にも見つかりたくなかったタクスス達。
そんな彼女達が今一番見つかりたくない男が、強引に道なき道を進んで来た護送車から飛び降り、タクスス達の前方に立ちはだかる。
「……よぉ~ローズちゃん」
「これはこれは、プロテア大佐……しつこい人ですねぇ、女性に嫌われますよ?」
「もうとっくに嫌われてるよ。んで……時間が空いてさ、考え直したりしてくれた? 俺達と来る気になった?」
「すみませんねぇ……コチラは用事があるので」
「……なぁ、かなり情けをかけてるの分かってる? 俺はさぁー……仲間を何度も攻撃したくないんだよ。知ってんだろ? こっちはクシノヤさんまで相手にしてんだよ」
「……お父さん」
「あぁー……シャガ……で合ってるな? ……約束する。クシノヤさんには昔世話になったからよ……お前の事は俺も出来るだけ擁護する。だから頼むよ……今は大人しく連行されてくれねぇか?」
「うぅ……」
「……シャガ君」
「ローズ、やるしかないよぉ……」
「はいはい……仕方がありませんねぇ……軍と正面からかち合うのは、もう少し後にしたかったのですが」
「……はぁー……分かった。分かったよっ!! ……後悔すんなよ? ちょっと本気出すぞ」
「くっくっく……望むところですよ」
「……ローズ、それにお前ら……唯で済むと思うなよっ!! 『裂けろ』っ!!」
腹を括ったプロテアの苦渋に満ちた言葉を皮切りに、軍との衝突が始まる。
彼の言葉により、周囲にそびえ立つ大木が、根元の方から何かで斬られたように切断され、バランスを崩しタクスス達へと覆い被さっていく。
「……うぅ!? ローズさん!!」
「『灼けろ』!! ……皆さん、無事ですか!?」
「無事だけどさぁ……戦うのは良いけど、どうするんだよぉ!?」
「皆さん、ここからは言葉を積極的に使っていきましょう。殺しても良いです。ここまで騒ぎになったので、仕方がありません」
「……私も使って良いんですか?」
「はいはい。遠慮なく殺しましょう」
迫りくる数々の大木を一掃するローズは、戦う意思を周囲に促す。
呼吸が浅く、心臓の音が早くなる彼女達。
いつか戦う時が来るとは思っていたが、こうも急にその時が訪れるとは思っていなかったようで、緊張で体が強張る3人。
その中で、いつも通りに戦闘態勢に入るローズは、手始めに近寄ってきた軍の雑兵向けて、殺意に溢れる言葉を発していく。
1人飛び出し、注意を自分へと向けるかのように、彼らの身体を焼き焦がしていく彼女。
回避しそびれた雑兵達の腕や足を、骨すら残すことなく奪い取っていく。
「『灼けろ』!! ……数が多いですねぇ……おっと!?」
「……よそ見すんなよ!! ローズ!!」
拳銃をホルダーから抜いたプロテアは、威嚇射撃を行いローズの動きを止める。
射線から外れるように、周囲の大木に身を隠す彼女。
それを見たプロテアは、盾にしている大木ごと爆破させ、残骸をローズの頭上へと山雨のように降らせていく。
「『灼けろ』っ!! ウザったいですねぇ……ぐぅ!?」
「ローズよぉ~俺だけが相手じゃないんだぜ? ちょっと分が悪いんじゃねぇの?」
彼の言葉通り、周囲には風景に溶け込んでいる何人もの軍人達が、じりじりとローズを追い詰めに来ている。
時折襲い掛かる彼らの言葉。
服を燃やされ、足場を崩され、銃撃により体が傷ついていく中、彼女の耳にタクススの悲鳴が聞えてくる。
「……きゃぁ!?」
「タクススっ!? ぐぅ……」
「……よそ見すんなって言ったよな? 大丈夫だよ、向こうの担当はテッセンちゃんだからさ……俺よりは荒っぽくないと思うぜ?」




