百花繚乱
薄暗い地中から顔を出す植物達は、生の喜びを体全体で表現している。
フィオーレの全身を覆うように生え続ける草木たち。
常人の半分ほどしかない左腕に長銃を添えると、躊躇いもなく引き金を引こうとするカガチだったが、彼女の右腕に絡みつくツル状の植物が、その行為を妨害してくる。
「あ"ぁ"~!? くそっ鬱陶しいな……このっ!!」
「うふふ~……腕が一本しかないと、色々と大変ですよね~……」
「とっとと離しやがれって言ってんだよっ!! この〇×※■◎△ッ!!」
いつにも増して口が悪くなるカガチ。
言葉にもならない罵詈雑言を言い放つ中、虎視眈々と命を狙う元軍人と元山賊が、フィオーレの背後へと回りこんでいた。
「これはこれは……口が汚すぎますねぇ、あの女」
「本当だよ、流石に聞くに堪えないんだけど……ん? 何これ……種!?」
何か使える得物がないかポケットを弄っていたシャガ。
そんな彼が手に取り出したのは、新鮮な数個の球根であった。
ローズへと目で訴えかけるシャガ。
彼女も試しに自分の上着のポケットを弄ってみると、シャガと同じように数個の球根が中に入っていた。
手に持つそれを眺めながら記憶を探る彼女。
球根からは生き物のように蠢くツルが伸び始め、ローズとシャガの体に絡みついていく。
「……今朝、彼女から上着を受け取ったあの時ですかねぇこれ」
「ちょ、ローズさん!! そんな悠長にしてる暇ないんだけどっ!?」
「シャガ、ちょっと我慢しなさい」
「え?」
「『焼けろ』」
「……っ!? あっつ!!」
人体まで高熱が届かないように、これでもかと加減して表面のツルを焼いていくローズ。
衣服が所々煤になるが、拘束から解放され自由の身になる彼女達。
やられた腹いせも兼ねて、フィオーレを周囲の草花もろとも灼いていくローズだったが、ミルフィーユのように何層にも木々の壁を作っており、本体である彼女には届いていない。
背後からの奇襲は無駄そうだと悟るローズは、周囲の植物を灼き払いながらタクスス達と合流していく。
「いやいや、大変お待たせしました……『焼けろ』」
「……うぅ、すみません、助かりました……」
「うわぁぁ!! 熱いんだよぉ!!」
「我慢しなさい、そのくらい」
「……それで、どうでした?」
「いやいや、ダメでしたねぇ~……これでもかと姿を隠してますよ、対照的にコチラは……おっと?」
「危なっ!! ……これ俺達、じり貧じゃない……? そにれ……カガチさんは何処に行ったの?」
「……えぇっと、あの人は……」
「『ここじゃ集中出来ねぇ!! その辺の高台に移動するからテメェら囮よろしくなっ!!』って言って何処かに行ったんだよぉ!!」
あまり似ていない声マネを披露しながら、隻腕の女狙撃手の行方を伝えるアムネシア。
一同は、意思を持ったように動く植物達の猛攻を躱しながら、目の前の障害をどう乗り越えるか考える。
「さてさて、私が灼くので皆さんは逃げ回って下さい。密集した植物の壁を薄くして、そこを灼き払います」
「……任せました」
「ローズさんお願い!!」
「よろしくだよぉ!!」
「ではでは……『焼け』なさい」
散り散りに逃げ回るタクスス達を追う木々。
フィオーレの周囲を覆っていたそれらは、次第に厚みが薄れていく。
脆くなった部分を狙って消し炭にしていくローズ。
勢いよく燃えていく木々だったが、肝心のフィオーレの姿は一瞬見えただけで、雲隠れするように植物の影に姿を隠していく。
……はずだった。
「いただきます」
再生していく木々の壁。
穴が開いたその隙間は弾丸1発分が丁度通るくらいの大きさであり、コンマ1mmでもズレれば、狙いの的まで到達することはない。
穴が開いている時間はほんの僅か。
その一瞬に一発で針の穴を通しにかかるカガチは、寸分狂うことなく隙間を通過させ、木々のカーテンに身を隠すフィオーレの頭部を狙撃していく。
すると間もなくして、生き生きと暴れ回っていた植物達は、電池が切れたように地面へと横たわっていく。
「……やったの?」
「みたいですねぇ……あのカガチって女、腕はかなりのものですねぇ」
「……そうですね」
「ちょっと待つんだよぉ!!」
「おやおや? なんですかアムネシア」
「この遺体……血が出ていないんだよぉ!!」
「……!? タクススお姉さん、後ろ!!」
「……え? あ……」
ドーム状に覆っていた木々が無くなり、中身が露になった。
そこにはフィオーレらしき物体が倒れているのだが、狙撃された部分から血が流れ出していなかった。
遺体の異変に気が付いたアムネシアが注意を促そうとした時には既に遅く、草木に紛れてタクススの背後へと回りこんでいたフィオーレが、栽培用の鋏をタクススの首元へと当てている。
体をこれでもかと密着させ、彼女を盾代わりにするフィオーレ。
穏やかな口調を崩さないまま、タクスス達の仲間へと語り掛ける。
「うふふ~……カガチさんは相変わらず狙撃するのがお上手で~……危うく殺されるところでした~」
「これはこれは……それは植物で作った身代わりですか?」
「はい~上手に出来てますでしょ~? ぱっと見では分からないくらいです~」
「『灼け……』」
「あら~? 良いのですか~? この子も燃えちゃいますよ~?」
互いの心臓の鼓動が聞こえるくらいギュ~と纏わりつくフィオーレ。
ツルの様に絡みつく彼女へ向けて言葉を発しようものなら、タクススにも危害が加わってしまう。
それに加え狙撃にも警戒している彼女は、周囲の木々に背を付けるように、カガチの射線からは外れるように動いていく。
「……ザクロさん」
「うん、先ずはあの女からね」
「Yes、攻撃に移ります……Shot」
その場の全員が予想だにしていなかった2つの銃口から放たれた2つの弾丸が、フィオーレの両太ももを貫いていく。
力なくずり落ちていく彼女は、何が起きたのか理解が追い付いていない。
この場で唯一、未知の狙撃手達のことを知っているローズ。
彼女の顔からは、珍しく焦りの色が出ているのであった。




