華の裏には罪がある
木々が無造作に生い茂る獣を道を、慌ただしく進んで行く一同。
一刻も早くこの街から離れたい彼女達は、自然と口数が少なくなる。
互いの呼吸だけが聞こえる中、開放的な空間が姿を現す。
不自然な程に整備された岩々が取り囲むその中で、一息つくタクスス達。
先頭で案内するフィオーレによれば、もうすぐ郊外へと辿り着くそうだ。
「はぁ~……皆さん、付いて来てますか~?」
「……はい、大丈夫です」
「良かったです~この辺には殺人鬼が居るとか居ないとかで大変なんですよね~逸れたら危ないんですよ~」
「……昨日、カガチさんが言っていたことですね」
「んだよタクスス、アタシの言う事を信じてなかったのか?」
「……いや、殺人事件なんてどの場所でも起きているので」
「はっ!! ここの殺人は一味違うぜ? 死体から植物が生えてんだよ」
「……植物?」
「はい~ツルみたいな植物がうねうねと生えていて、とっても気味が悪いんです~」
「お陰で街じゃ、その噂で持ちきりなんだよ」
呆れたようにため息を吐くカガチ。
うんざりするほど耳にしていたことが、彼女の態度でなんとなく感じ取れる。
「おやおや、そのツルとはコレですか?」
「そうそう、そんな感じで赤くて……なんでこんな場所にあるんだ!?」
辺りをキョロキョロとしていたローズが偶然発見した物。
それは大木の根っこに生えているような、丈夫でしなやかな自然の紐。
唯一の違和感を感じる部分以外は、普通の細長いツルである。
「……ツルってこんな真っ赤でしたっけ」
「さあさあ? こんな種類の物もあるのではないですか」
「どうだったか……フィオーレ、どうなんだ?」
「さ、さあ……ワタクシ、植物ならなんでも知っているわけではないんですけど」
「だよなぁ~……ん? 誰だっ!!」
微かに聞こえて来た雑草を踏みしめる足音。
いち早く気が付いたカガチとローズは、互いに狙撃銃とナイフを構えて臨戦態勢を取っている。
「はっ……はっ……!! 逃げなくちゃ……っ!? 誰だっ!!」
「あぁ? テメェは……」
「カガチ、アナタが昨日撃ち抜いた男ではないですかねぇ」
タクスス達の元へ突如姿を現した男性。
てっきり軍人が近づいて来たのだと警戒した彼女達は、張り詰めた糸が次第に緩んでいく。
「あ……お前ら……ひぃ!?」
「おやおや、カガチ。アナタのせいでトラウマになっているではありませんか」
「あぁ? うるせぇな……」
「人殺し……」
「あ"ぁ"!? そこまで言う必要ねぇだろ!! そりゃ~街中でぶっ放したけどよぉ……」
「違う違う違うっ!! お前だよお前っ!!」
凍えているかのように身を震わせる彼は、姿を隠す悪魔を恐る恐る指差す。
カガチでもない。
ローズでもない。
男から人差し指で刺された女性は、上ずった声を上げる。
「ワタクシですか~? どういう意味で……」
「惚けるなよっ!! お前……そんななりしてんのも、相手を油断させるためかっ!?」
「……? フィオーレ、アタシに今の状況を説明してくんね~か?」
「説明と言われましても~……」
「ぐぅ……!! ならよ、証拠を見せてやるよっ!! 『砕けろ』!!」
パニックになっているが、嘘を吐いているようにも見えない。
そんな彼が突きつけた証拠は、フィオーレに対する疑心を深めていくものになる。
周囲に存在した岩々を砕く彼。
影に隠れていた数々の人の死体が、化石のように掘り起こされていく。
そしてそれらには、見覚えのある花々が、体の表面から咲いていた。
「……赤い花」
「おやおや、昨日店で見た花と似ていますねぇ」
「どうだっ!? そいつはな、人を殺してその血液で植物を育ててたんだよっ!! 昨晩のことだ。俺達2人は、仕返しするためにそいつの秘密を探ってたんだよ。後で脅すためにな!? そしたらここで、その女がコソコソしてんのを見たんだよっ!! 帰ったのを確認して、何をしてたのか見てみたら、この死体の山が有ったって訳だっ!!」
「いや~あの~……」
「今朝そのことについて問いただすために、店に乗り込んだら……相棒がそいつに返り討ちに遭って……途中で軍人達が来たから、その女は逃げ出して……!!」
「はぁ~……『咲け』」
「……っ!! うあぁ!? がぁあぁっ!?」
肩を落とし憂鬱に言葉を発するフィオーレ。
彼女の言葉の影響を受ける目の前の彼は、体の至る部位から、肉を蝕むように植物が生えて来る。
腕、腹、太もも、眼球……
体中のあらゆる水分を吸いつくされた男性は、ミイラのように干からびて動かなくなってしまう。
「……おい、フィオーレ。テメェ今までアタシを騙してたのか?」
「だって~仕方がないじゃないですか、こうなるって分かり切ってましたし~」
「ねえちょっとさ……これ不味いんじゃない? ローズさん」
「シャガ、狼狽えるのではありません。冷静に対処しますよ」
「直ぐに倒さないと軍人に追いつかれるんだよぉ!!」
「あら~要らない心配はしなくて良いんですよ~? 知ってしまったからには、ここで口封じをしますので~」
「……アタシらを倒しても、軍人に捕まんじゃねぇ~か? テメェ」
「どうでしょ~?」
「……はっ!! 大した自信だな。分かった分かった……んじゃ~取り合えずだ、フィオーレ……とっととくたばりやがれっ!!」




