危険な香り
耳を疑う提案を聞いた4人。
何事もないまま帰って欲しかった彼女達は、面倒なことになりそうだと頭を抱えている。
「……あの、急に何を」
「んだよ、アタシが仲間になるんだぜ? 素直に喜べよっ!?」
「これはこれは、大変お花畑な脳味噌で……羨ましい限りですねぇ」
「あ"ぁ"!?」
「どこの誰か分からない奴と同行するなんて、危険極まりないですよ。そんな事例はこの赤いので十分です」
「なんでこっちを見るんだよぉ。僕の事が嫌いなのローズ?」
「大方探すのを手伝えとかそんな所でしょう。コルスとか言う男はアナタが自分で探しなさい。こっちは先を急いでいるのでねぇ」
「……の割には、宿で休んでいるんだな」
「はいはい、休息は大事なので。それが何か」
「いやよ、誰かに追われているにしては、随分悠長だなぁって思ったんだわ」
「はてはて?」
「惚けんなよヤニカス。テメェらが死に物狂いで逃げてんのはちゃんと見てたぜ? そうだな……仲間にしてくれんなら、暫く匿ってやることも可能だが?」
「これはこれはお気遣いいただきありがとうございます。ですが心配ご無用で……」
「誰か居ないか!? 少し聞きたいことがあるんだが」
ローズとカガチの小競り合いが繰り広げられる中、宿の入口から男性の声が聞こえてくる。
会話を切り上げ、壁に耳をつけ、会話の様子を探るローズ。
内容を聞けば聞くほど、彼女の表情が険しくなっていった。
「……これはこれは、軍人ですねぇ」
「……え?」
「参りましたねぇ……こんなに早く追いつかれるとは。あの髭を相手にするのは本当に面倒なことで」
「おっ!? 何だテメェら、軍人から逃げてんのか。よっぽど悪い事したんだなっ!! んでどうする? 提案を受ける気にはなったか!?」
げんなりしているタクスス達とは対照的に、カラッとした笑顔を見せるカガチ。
ため息を吐く彼女達は、しぶしぶ新たな仲間を迎え入れるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここだここ。狭いけど文句言うなよ?」
日はとっくに暮れ、人々が寝静まる時間。
宿を出発したタクスス達は、街中をうろつく軍人の目から逃れるように、山の中にひっそりと佇む小屋の前まで移動していた。
ドアの鍵を施錠していくカガチは、タクスス達を中へ招き入れる。
室内には狩りで使用する猟銃や獣の皮、狩ってきたばかりの獣の生肉が無造作に置かれていた。
「じゃ~ん!! どうだ!? 感想をどうぞっ!!」
「……なんか臭いです」
「獣臭ですねぇ」
「部屋が汚いよ」
「汚物なんだよぉ!!」
「うるせぇ死ねぇ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
感想を正直に伝えたタクスス達。
機嫌を損ねたカガチの右手の拳が、アムネシアの顔面へと振り抜かれる。
血を吐きながら壁へと叩きつけられるアムネシア。
その勢いの良さに、流石に心配になったシャガは彼女に駆け寄る。
殴り足りないカガチは追い打ちを掛けに行くが、間にシャガが割って入り、今以上の暴行は受けずにいた。
「……煩い……凄く」
「ですねぇ……始めは私とタクススの2人だけだったのに、こうも人が増えるとは……」
「……まあ、もう慣れましたけどね」
「ですです。さあ、今は休息の時間に当てましょう」
散らかった部屋から物を搔き分け、寝床の確保を行うタクスス達。
空いたスペースに腰を下ろし、彼女達は使い込まれた木製のテーブルを囲っていく。
「テメェら、ちょと待ってな~!! 飯を持って来るからよ」
台所へと移動したカガチは、作り置きの鍋を温め直すとタクスス達の元へと運んできた。
湯気が立ち込めるそれは、新鮮な野菜や狩りたての獣肉が入っており、山の幸がふんだんに使われていた。
「……美味しそう」
「だろぉ~? 遠慮せず食えよ」
「アナタ、料理が出来るのですねぇ~その風貌で」
「あぁ!? どういう意味だよ!!」
「さぁ? どういう意味でしょうねぇ」
「……俺、この味好きかも」
「おお、ガキは素直だなオイ!! テメェらも見習えよ」
「う~ん、パンとかないの? 物足りないんだよぉ」
「……テメェはさ、遠慮って言葉知ってるか? だからそんなだるんだるんの体してんだよ!!」
「はぁ!? 心外なんだよぉ!! 脳殺ボディって言うんだよぉ!!」
「……えっとカガチさん、それは気にしなくていいので、幾つか話したいことがあります」
「あん?」
「……私達は対国のエレーケスに向かっているんですよ。港町のブリダンから船に乗って。無駄足になるかもしれないんですけど大丈夫ですか?」
「エレーケス? あー……心配ねぇ。コルスの野郎もそこが出身だって話してた気がするからよ。探すならそこかなとは思ってたんだ」
「……あの人が向こうの出身」
「ああ。偶にこっちに来て、人を攫って売ってるんだとよ。テメェらよく遭遇できたよな」
「……偶然ですよ」
「軍隊には目を付けられてるし運が良いよな。その……悪運? 今は発揮するんじゃねぇぞ」
「……なぜですか?」
「最近よ、この周辺で殺人事件が起きてんだわ。移動する時に遭遇したら面倒だろ?」




