元奴隷の証言
「……ス、起き……さい」
泥のように眠るタクススへと呼びかける声。
意識を呼び覚まそうとするその声の主はローズのようだ。
何を言っているのか気になるが、今はとにかく眠い。
彼女の呼びかけを無視して、再び深い眠りにつこうとする。
「……だよ、アタシが……ろうか? ……しろって……の野郎を……」
(……ん? 誰……この乱暴な口調の人……)
明らかに聞いたことが無い声。
重たい瞼を無理やり動かし、世界を両目に映していく彼女は、顔を覗き込む2人の人物を目にした。
「おやおや、タクスス目覚めましたか」
「……あんなに煩かったら、流石に目が覚めますよ」
「これはこれは申し訳ないです。アナタと話がしたいとコイツが言いましてねぇ……」
「……?」
「コイツじゃねぇよ、カガチだ!! んだよ、このヤニカス!! さっき名前言っただろ!?」
「……私に何の用でしょう」
「テメェさ、コルスに会った事があるんだよな?」
「……コルス?」
「エドワード・コルス!! 胡散臭いスーツ姿の奴で……」
「……?」
「タクスス、アスロンの時のアレですよ」
「……あぁ」
タクススとシャガは数日前、アスロンの街で買い物をしている際に彼と遭遇していた。
彼女達が買い出しの様子を話していた際に、名前だけは頭の片隅に記憶していたローズ。
カガチからの質問に対して反応してしまったことから、しつこく食い下がられて、ここまで付いてこられたようである。
「……会いましたね、確か」
「マジか!! んで、アイツは今何処に居るんだ!?」
「……何処って……私にも分からないですよ。いつの間にか居なくなっていましたし」
「んだよぉー……期待して損したんだけど!?」
「……あの、アナタ何者なんですか? あの人と何か関係……」
「大有りだ!! あのクソ野郎に売り飛ばされたからな!!」
言葉を遮りながら大声を出すカガチ。
その剣幕にタクススは思わずたじろいでしまう。
「……うぇ? あ、あの……」
「うぅん? 煩いんだよぉ~……何々?」
「ふぁ~あ……ん!? ねえ、この人誰!?」
「……ちっ!! あ~煩い煩い煩いっ!! 1個ずつ話してやるから黙って聞きやがれ!!」
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起床したシャガとアムネシアも加えて、話を始めるカガチ。
部屋には、フィオーレからお礼として貰った真っ赤なバラが飾られており、各々が椅子やベッドの淵に腰を下ろしている。
「いいか!? エドワード・コルスは奴隷商人だ!! そんでもって、アタシはアイツに捕まって貴族に売り飛ばされそうだった!!分かるか!?」
「……ええ、まあ」
「左腕は脱走する時に切り落としたっ!! 死ぬほど痛かったっ!! 分かるか!?」
「僕、自分以外の体を切ってばっかだから、よく分かんないんだよぉ~」
「死ねっ!!」
「何でぇ!?」
「えっと……俺達が会ったあの人は、ヤバい人だったってことでいいの?」
「ヤバい超えてるぞアイツ。人を商品としか見てねぇ!! 次会ったら言語道断で射殺してやるよ!!」
過去の事を思い出したのか、火にガソリンが注がれたように燃え上がっているカガチ。
話を聞いたタクススとシャガは、お互いに眠そうな顔を合わせ、アスロンでの出来事を思い出している。
「……あの人、そんな事をしてたんだね」
「知らなかった……ああ、だからか!!」
「……何? シャガ君」
「ほら、ローナバリスのあのおじさん!! 地下に奴隷がいたじゃん!! あれって、コルスさんから買った奴なんじゃ……」
「……かもね」
「あのクソ野郎、アタシ以外にもアホみたいに売ってんのか……あぁ!! 思い出しただけでムカついてきたっ!!」
「も~煩いんだよぉ~!! っていうか、奴隷商人に捕まるなんて、カガチは抜けているんだよぉ」
「あぁ? しょうがねーだろ!! あのクソ野郎、変な言葉を使いやがったからよ!!」
「……変な言葉?」
「なんかこう……幻を見せるっていうか? 正気に戻った時には檻の中でよ……他の連中が歯を抜かれている時に、ギリギリ逃げ出せたんだよ」
幻を見せるという言葉にも心当たりがあるタクススとシャガ。
あまりに唐突な発言も、過去の出来事を照らし合わせて聞いていく、どうやら嘘ではないと判断できる。
「なあ、本当にあの野郎の居場所を知らないのか? 頼む、知ってる事があるなら教えてくれ!!」
「……頭を下げられても、知らないものは知らないとしか答えられないですよ」
「そっか……分かった。悪かったな、急に押しかけちまって」
情報交換を終えた面々。
タクスス達は話し合いからやっと解放され、時間が惜しいからと2度寝しようと決意する。
その前に、せめてカガチの事は見送ろうと、彼女を見つめていた4人。
だが、当の本人はその場から動こうとしない。
何も無い空間を見つめて考え込んでいる様子である。
「……あの、どうかしましたか?」
「あのさ、すげ~急な事言っていいか」
「……はい?」
「アタシもテメェらに付いて行っていいか?」




