偶然
無我夢中で街の中心地までやって来た4人。
肩で深く息をしながら道路に尻を付ける3人とは対照的に、既に息が整っているローズは、しきりに辺りを気にしている。
建物や大木の影に入っているので、そう易々とは狙撃されないだろう。
それでも警戒心を緩めない彼女は、眠気覚ましに煙草を加える。
「……ひゅー……ひゅー……げほげほっ!! おぇ……」
「タクスス、大丈夫ですか? それに他の皆さんも」
「無理ぃ……俺、水、み、うぅ……」
「うぅ……おぇ!! おぇぇぇ……!! げぇぇぇえ!!」
「何処かで休息を取りましょうか。私は外で見張っておくので」
「……ひゅー……ローズ、さん。大丈夫……げほげほっ!!」
「皆さんよりは遥かに大丈夫ですよ。煙草の量が増えますがねぇ……」
よろよろと立ち上がろうとするタクスス達3人。
自力で起き上がるのも困難な彼女達に、ローズは煙草を加えながら手を貸していく。
そんな様子が目に留まったのだろうか。
この街の住人らしき人物が声を掛けてきた。
「あの~大丈夫ですか~? 何か飲み物でもお持ちしましょうか~?」」
「いえいえ、お気遣いなく。先を急いでいるので」
「あら~そうですか~これも何かの縁ですし~また時間がありましたら、ワタクシ、フィオーレの花屋にいらして下さいね~えぇっと……大体あの辺ですので~」
ふらふらと歩いて来た薄緑髪の女性。
長髪を頭部の後ろでウェーブさせ、柔らかい印象を与えるようにセットしている彼女。
細い目をした肉付きの良いメリハリのある体は、同性からは嫉妬され、異性の視線を釘付けにしている。
軽くお辞儀をすると、自分の店へとゆったり歩いて行くフィオーレ。
凹凸のない体に一種のコンプレックスを抱いているローズは、先ほどから不自然に口数が減っているのであった。
「……げほげほっ……ローズさん、行きましょう」
「……そうですね」
「……どうしました?」
「いえいえ、大したことはないですよ。行きましょうか」
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街の宿へと移動した4人。
ここで明日を迎える気はなく、少しの休息を取った後に出発する予定である。
着くや否やベッドへと倒れ込むローズ以外の3人。
服に汚れが付いているにも関わらず、お構いなしといった感じである。
「これはこれは……随分とお疲れのようで。 ……ふっふふ、皆さんの寝顔は可愛いですねぇ。どれどれ」
邪魔する者も遮る者もいない空間。
その中で1人活動を辞めないローズ。
タクススが寝入ったのを確認すると、未だに痣が癒えきっていないタクススの肌へと顔を埋め、彼女の匂いを堪能する。
一瞬起きそうな気配が感じられたが、直ぐに安らかに眠る彼女。
その間にもローズは、汗と泥が混じったタクススの匂いを味わっていく。
「あー……」
(やはり良い匂いですねぇ……これだから女の子といちゃつくのは辞められない。 ……男なんてゴミみたいなものですしねぇ……)
このままタクススが起きるまでこうしていようか。
マヌケにも見える格好のまま、時が過ぎるのを待とうとしていた彼女。
その時、外が急に騒がしくなる。
軍隊が来たのか?
ローズはすぐさま立ち上がると、宿の外へ警戒しながら顔を出していき、騒ぎの様子を探る単独行動に移る。
宿から店5つ分離れた場所。
騒動の渦中は割かし近場に存在した。
そこでは、先ほど声を掛けてきたフィオーレが、観光客と思わしき男性2人にいちゃもんを付けられている最中だった。
「こ、こまりますよ~……値下げ交渉なんて~……」
「いいじゃね~か、姉ちゃん!! こんだけ花が売っているんだぜ? ちょっとくらい安くしてくれよ!!」
「そーだよ!! つーか姉ちゃん、結構いい体してんな……今晩どう? 一夜を共にしちゃう?」
(はぁー……やれやれ、何処も彼処もこう荒れているのですねぇ……ゆっくり休ませて欲しいものですよ)
ポケットに入れていた煙草に火を点けると、煙を周囲にまき散らしながらフィオーレの店の前まで歩いて行くローズ。
ちょっと裏路地に連れ込んで、灰になるまで焼いてやろう。
戦う気満々の彼女は、静かな殺意を滲ませながら歩み寄っていく。
「んだぁ~? てめぇ俺達に……ぐぁ!?」
「……!? これはこれは……」
近づいて来たローズの胸ぐらを掴んできた男。
今にも殴り合いが始まりそうな一触即発な空気が流れる中、男の右腕に弾丸が突き刺さる。
彼がローズから手を離すと同時に、周囲に遅れて響き渡る狙撃音。
ちょうどこの街に到着する前に聞いた、あの音と似ている。
口の中が急速に乾いていくローズ。
軍の人間に見つかったのかもしれない。
僅かに抱いた焦りにより、迷いなく腰のホルダーに収納しているナイフに手を掛ける彼女だったが、フィオーレが見つけた人間は、どう見ても軍服姿ではなかった。
「……あっ!! カガチさんだ~!! お~い~!!」
「はぁ……昼間からゴミ共がギャーギャーと騒いで動いて……燃えるゴミの日は今日じゃねーぞ? あぁ?」
「ぐぅ……おい女!! お前がやったのか!! その狙撃銃で!!」
「そうだが? 分かんない? 理解力赤ちゃんかよ……」
「舐めやがって……!! 『痺れ……』」
「いただきます」
目視でギリギリ確認できる遠方にいた女と、大声で口論する狙撃されなかった方の男。
彼は激情に身を任せて、遠くの彼女へ言葉を使おうとする。
言い終えるまで、時間にして僅か1秒足らず。
その間に女は狙撃銃を構えると、正確無比な昇順で、男の肩を狙撃していく。
撃ち抜かれた彼は、炎で焼かれたような痛みが肩から全身へと広がっていき、情けなく地面へと倒れ悶えている。
「ぐぁ!! 痛ってぇ!?」
「はっ!! どうすんだクソ野郎ども!? 今度は眉間にぶち込んでやろうか!?」
「うぅ……!!」
逃げの一手を選ぶしかなくなった男たちは、一目散にこの場から去っていく。
仕事を終えた彼女は、銃を背中に担ぎ直すと、フィオーレの元へとやって来た。
「フィオーレ……アタシが居なかったらどうする気だったんだよ……」
「ん~……? ん~……」
「おいおい……」
「まあいいじゃないですか~結果オーライですよ~」
「ったくよ……んで、テメェは何だ? アイツらの仲間か? ……いや、見覚えがあるぞ? ……あぁ!! 必死に逃げてたアイツらか!? こんな所で会うとは奇遇だなっ!! テメェらのあの顔、傑作だったぜ!!」
(この下品な女……灼き殺されたいのでしょうか? ……どうやら軍隊ではないようですが)
眉をひそめ不快感をあらわにするローズ。
そんな彼女を気にしないカガチと言う女は、短パンからボロボロの写真を取り出すと、ローズへと見せつけた。
「……何がしたいのでしょうか」
「テメェは街の人間じゃないだろ? そういう奴らに聞き込みしてんだよ、コイツの事をよ」
「誰ですかコイツ」
「アタシがぶち殺したい男……エドワード・コルスって言うんだよ」




