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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
64/102

死線を超えて

 プロテア達が裏で動いている中、一段と熱を帯びていく闘技場。

 観客達の視線の先には、不満そうに首を鳴らしている本日の主役と、それを輝かせる脇役が地面に倒れ込んでいる。

 ナイフを片手に握りしめ、蹲るタクスス。

 かび臭い空気を吸い込みながら咽かえる彼女は、よろよろと立ち上がると小型の得物を構える。


「……期待外れだねぇ、弱すぎる」


「……げっほ、う……げほげほっ……おぇ……」


「鳩尾に一発蹴りを入れただけでその様……アンタ、喧嘩したことあんのかい? ここへ何しに来たんだい」


 灼熱の戦場と化していく中、冷たい視線を浴びせ続ける目の前の女。

 女同士が殴り合いをする光景が、観客達の歪んだ喜の情緒を満たすようで、対戦相手の名前を意味も無く叫ぶ人たちで溢れ返っている。


「いいぞぉ!! カルナラぁ~!!」


「ぶっ殺せ!! やっちまえっ!!」


「……はっ!! ご覧……アイツらはアンタがいたぶられるのを楽しみにしているよ!!」


「……タクススです」


「あん?」


「……私の名前」


「はっ!! タクススね、可愛らしい名前じゃないか。それで? このまま大人しくボコられ続けるかい?」


「……そんなわけないでしょ」


 ふらつく足取りのまま、一直線にカルナラの元へ走り込んでいくタクスス。

 でたらめにナイフを振り回し、何とか反撃を試みようとする彼女。

 だが……


「……遅いっ!!」


 カルナラの左手の甲で、ナイフを持つ腕を内側からいなされたタクスス。

 続けて槍のように穿ち貫く右手の手根が、タクススの腹部へとめり込んでいく。

 胃の中の物が逆流していく感覚に襲われる彼女。

 糸が切れた人形のようにその場へ崩れていく。


「……かはっ……おぇぇぇぇ!!」


「興覚めだね。こんなんじゃ、私の実力を示せないじゃないか。さっさと終わらせようかね」


 試合を終わらせる決意を固めたカルナラ。

 右手の拳に力を込めると、タクススの頭部目掛けて振り下ろす。

 鈍い音と共に、脳天からもろに衝撃を受けたタクスス。

 何も言葉を発せないまま体を硬直させる彼女を見て、勝ちを確信したカルナラは、背中を向けて早々にこの場を後にしようとする。


「……」


「呆気ないねぇ……賞金を受け取って、シャワーでも浴びて帰ろうかね」


「……………………ネエ」


「……?」


「ドコニイクノ?」


「……っ!?」


 背中に纏わりつく重苦しい瘴気。

 人間が発している物とは到底思えないそれにより、思わず振り返ってしまうカルナラ。

 そこには、先ほどまで地を舐めていたタクススの顔が、息のかかる距離まで迫って来ていた。


「う、うわぁ!? ぐぅ……!?」


 反射的にタクススの体を突き飛ばしたカルナラ。

 その際に、タクススが右手に握っていたナイフで右手首を切りつけられる。

 汗のように滴れ落ち始めた血には気にも留めず、大勢を崩した人物へと目を向ける彼女。

 そこには虚ろな瞳をした、姿変わらないタクススがいた。


(何だい、今のは……? ……血が止まらない、早く手当しないと不味いねぇ)


 冷静に今の状況を整理するカルナラ。

 先ほどの不可解な現象が気になるが、今は自分のことが優先だ。

 放っておくと手首の出血により、命を失う可能性がある。

 相手が立ち上がるなら再度叩きのめせばいいと言わんばかりに、猛追をかけるカルナラ。

 拳を振るうたびに血が雨の様に互いに降り注ぎ、衣服を真っ赤に染め上げていく。

 加えてタクススは、成す術もなく暴力の雨にも晒され続ける。

 だが――――全く倒れる気配を見せない。

 

「ぐぅ……? どうなってんだいアンタ!? しつこいっ!!」


「……じゃあ、アナタからも頼んで下さいよ。もう起こすなって」


「はぁ!? 誰に!?」


「……夢の中に出て来るアレ」


 体力のペース配分にまで頭が回っていないカルナラは、殺意が込められた両手を一心不乱に動かし続ける。

 これだけの打撃を浴びれば、本来なら気絶しているはず。

 それでもなお、立ち上がり続けるタクススを目にし、首が絞めつけられる感覚に陥り始めたカルナラ。

 やがて彼女はこう思い始めた。

 この女は化け物の生まれ変わりだと。

 あまりに異様な光景に、先ほどまでカルナラを応援していた観客達の声援は、どよめきへと変わっていく。


「お、おい……どうなってんだ?」


「カルナラ~!! 手加減せずに早く殺せぇ!!」


「……お、おい、シャガ……タクススは不死身なのか?」


 観客達と同じような感想を抱き始めたテッセン。

 今起きている現象に多少の心当たりがあるシャガは、はぐらかすことしか出来ない。

 

「わ、分かんなよ……こんなの……それより、アレ!! 対戦相手の女の人、段々動きが鈍くなってない?」


「……出血の影響か? にしては……顔が引きつり始めているが……」


「それはだねぇ!!」


「うわっ!? アムネシア!?」


 男2人の会話に割って入ってきたアムネシア。

 失った自信を短時間で取り戻した彼女は、得意げに話し始めた。


「タクススがさっき傷をつけた影響なんだよぉ!! いや~ナイフに塗った毒の症状が上手く出るか不安だったけど、無事に成功したんだよぉ!!」


「毒? アムネシアさん、何処でそんな代物を手に入れたの!?」


「そこの汚いトイレの便器」


「……え?」


「つまり……ウ〇コのことだよぉ!!」

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