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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
54/102

言霊の神・アスピラシオン

 最悪だ。

 仕留めそこなった。

 ああ、頬が熱い……!!

 クソがクソがクソが!!

 傷口を抑える手の平は、新鮮な絵の具で真っ赤に染まっている。

 

「くっそ……ムナムナのやつ……!! アッサリ死にやがって……もうちょっと粘れよ」


「……その口ぶり、アナタが黒幕で間違いないんですか」


 薄暗い通路を走り回っていた彼女に、囁くようにして問いかけるタクスス。

 もう追いついたのかと驚愕する緑色の髪をした女は、火傷の痕が目を引くタクススの顔をまじまじと見つめている。


「あら……随分足が早いのね」


「……それなりに体を動かす機会が多いので。そこそこ動ける方ですよ、アナタと違って……」


「はんっ!! 嫌味かしら?」


「……事実ですよ」


「ムカつくわ……!! お前らのせいで計画が台無しになるし……あ"ぁ"!! ムカつく!!」


「……それが()ですか?」


「だったら何? 文句あるわけ? あぁ本当……ムカつき過ぎて、力が『漲って』くるわ!!」


 激情した勢いのまま、タクススへと殴りかかってくる緑髪の女性。

 やけくそになったのだろうか。

 あまりの剣幕にたじろいだタクススは、両腕で咄嗟に身構える。

 

「……あ」


 殴りかかってきたと言っても、成人女性程度の腕力だ。

 大したこは無いと高をくくっていた彼女は、側面の壁へと勢いよく叩きつけられる。

 背中を強打したタクススは、呼吸が乱れ咳き込んでしまう。


「げほげほっ!? ……うぅ……」


「はんっ!! 無様ねぇ……このアタシ、ナエロ・アビゲイルに楯突くからこうなるのよ!!」


「……『死……』?」


 このままではやられると判断したタクススは、直ぐに目の前の女性、アビゲイルを殺そうとする。

 だが全身の力が瞬時に抜け、言葉を言い切る前に地べたへと倒れ込んでしまうタクスス。


「……ナエロ、で、す……か……」


「察しが良いわね。アタシってちょ~と性格が悪いから、素直に言葉を言わないわよ。そうねぇ……()()()()()()()()()なんて、日常茶飯事だわ」


「……『死……』ぐぅ!?」


「だから言わせないって……そうね、ちょっと面を貸して貰おうかしら」


 言葉を発しようとしたタクススの顔面を殴りつけるアビゲイル。

 鼻を殴られ苦痛で身動きの取れない彼女を、アビゲイルは引きずりながら何処かへと歩いて行く。

 入り組んだ通路を進む彼女。

 再び立ち止まった時には、おどろおどろしい雰囲気が充満している隠し部屋のような空間へと辿り着いていた。

 腐敗臭が漂うその空間は酷く荒れ果てており、血がこびりついた拷問器具のような物や、人間の死骸らしきものが散乱していた。

 

「……な、に、ここ……」


「何だと思う? あれを見て見なさい」


「……?」


 虚ろな目をゆっくり動かすタクスス。

 薄暗くてよく見えないが、室内に巨大な像が祀られていた。

 どこかで見たことのある顔。

 台座にはこう書かれていた。


「……アスピラ……シオン?」


「そう。アタシ達宗教団体はね、何も一から作り上げたわけじゃないのよ。この街に存在していた既存の宗教団体を乗っ取って作られたってわけ」


「……」


「たま~にね、仕返しに来るのよ。アスピラシオンを崇めてた信者達が……そいつら、どうなったと思う?」


「……」


「自分達が崇める神の前で死んでいくなんて、信者として冥利に尽きるって話じゃない? あ、ちなみに……アタシ達の秘密を暴こうとした連中も……同じ目に遭ったわよ!!」

 

 引きずってきたタクススを地面へ押し付けると、馬乗りになって何度も何度も端正な顔を殴打するアビゲイル。

 ただでさえ全身の力が抜けている彼女は、度重なる暴行により、言葉を発することが困難になるほど衰弱していき、顔面が腫れ上がる。

 

「許さない許さない許さない。ここまでコツコツ積み上げてきた物が全部ぱーになったんだから。お前らの仲間も全員殺してやる。養分共に何をしたか知らないけど直ぐに元通りにしてやる。死ね……死ねぇ!!」


 止めを刺そうと拳に力を込めるアビゲイル。

 大きくそれを振りかぶった彼女であったが、再び振り下ろされることはなかった。

 部屋へ侵入してきた何者かによって、腕を掴まれたからだ。


「!? 何でお前、アタシの邪魔してんのさ!?」


「邪魔? 何を言っている!! そこにいるタクススは、ムナムナ様を崇める我々の仲間だぞ!! 何があったのか知らないが、喧嘩は辞めるんだ!!」


 アムネシアによって記憶を改竄された信者。

 自分が洗脳されたとは露知らず、正義感に溢れる行動で目の前の暴行を食い止めようとしている。

 力の限り暴れて拘束から逃れようとするアビゲイル。

 そんな中、彼女の脳裏にふとした疑問が過る。


(何でコイツ、こんなタイミングで隠し部屋に? 偶然なの? ……()()? ……!!)


 口をきつく結ぶアビゲイル。

 彼女は先刻起きた出来事を思い浮かべていた。

 

(ムナムナの野郎……『祝い』の言葉を()に使ったとばかり思っていたのに……!! 足を引っ張りやがった!!)


 ムナムナがローズによって殺害される寸前、物陰から隠れてタイミングを見計らっていたアビゲイル。

 死を悟った彼の置き土産は、仲間であるアビゲイルではなくタクスス達に託されたのであった。

 こんなことを思いながら。


『一緒に悪さしたのに、()()()死ぬのは御免だよ? アビゲイル』


 この世を旅立った彼の幻聴が聞こえて来るアビゲイル。

 当然彼はこの場に居ない。

 その代わり血を纏った死神が、教祖ムナムナの意思を意図せず受け継ぎ、目の前の愚かな信者2人を昇天させる。


「……『死……ね』」


 微かに残った力を振り絞り、最後まで言い切るタクスス。

 目の前の2人は忽ち死亡し、周囲の死骸と同じように力なく地面に倒れ込む。


「……はっ……はぁー……やっと、終わった……」


 徐々に生気が戻り始めたタクスス。

 体を起こし一息ついた彼女は、静かに佇むアスピラシオンの銅像に向けて呟き始めた。


「……最近こんな人ばかりと出会うなぁ……ねえ、アスピラシオン。何で言葉に力を宿したの……?」


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