共犯者
劣勢だった状況は一変した。
アムネシアによって記憶を好き勝手に弄られた信者達は、洗脳されていない別の信者達に襲い掛かっている。
外野で観戦していたら、スポーツでも行っているのではないかと錯覚するほどの賑わいを見せる礼拝堂。
誰が敵で誰が味方なのか、識別不可能な程にもみくちゃになっていた。
「……人の心が無いんですかね、あの人」」
「期待する方が馬鹿ですよ」
物陰に隠れて騒ぎを見守っている2人。
騒ぎを引き起こした張本人は、タクスス達の苦言など聞こえるはずもなく、誇らしげな表情でシャガと会話をしていた。
「流石我輩!! ねぇシャガ!! さっさと我輩を褒めるんだぉ!!」
「うわぁ……想像以上に酷い……悪党がやる戦い方じゃんこれ」
「悪党じゃないんだよぉ!! ってかシャガも割とノリノリだったんだよぉ!!」
「……ここまで酷いことになるとは思わないじゃん普通。記憶を消したのは教会に来る前に見たけどさ」
「おい!! そこを動くな!! 見つけたぞ!!」
「ん?」
「んん~? 何だ信者か。 ………………はぐれ信者が居るんだよぉ!!」
気の抜けた掛け合いを行っていた2人の元へ、正気を保っている様子の男性信者が詰め寄って来た。
手にナイフのような刃物を握り、今にも襲い掛かろうとしている。
「役立たず!! 出番だよ!!」
「ア・ム・ネ・シ・ア!! 口の利き方に気を付けるんだよぉ糞ガキ!! おいそこの信者!! ちょっと記憶を『覗く』のさ!!」
「……!!」
アムネシアの一声で、一瞬虚ろな目になる信者の男。
再び瞳に生気が戻る頃には、アムネシアの仕事は殆ど終わっていた。
「すぐ出来そう!?」
「我輩を誰だと思っているんだよぉ!! 問題ないのさ!! まずは……『失え』!!」
「……うぅ!? アレ……何で俺、こんな所に……?」
「お次はこの記憶さ!! 脳裏に『刻む』んだよぉ!!」
「……アレ? シャガにアムネシアじゃないか。こんな所で何をしてるんだ?」
「えぇーと……実は」
「我輩達の仲間が暴れ出して大変なんだよぉ!! 下下!!」
「……おいおいおい、これはヤバいな!!」
「そうなんだよぉ!! 直ぐに駆けつけて欲しいんだよぉ!!」
「おう分かった!! お前ら気を付けろよ!!」
「了解なのさ!!」
「……行っちゃったね」
「ふー……危なかったんだよ」
造作もなくピンチを切り抜けた2人。
一仕事を終えた彼らは、ルール無用の殴り合いを見学する、観客のようになっていた。
「……記憶を弄れるなら門番の時もやれば良かったのに……」
「あの時は人が多すぎるんだよぉ!! 1人1人記憶を覗く手間ある以上、仕方がないのさ!! それに……安く見られるのは御免なんだよぉ!!」
得意げになるアムネシアの強調される胸部に、目のやり場が困るシャガは、慌てふためいている教祖の方へ視線を移す。
周囲に屯していた肉壁は、見るも無残に解体されており、今なら言葉が教祖の元へと届きそうである。
「後はあの2人に任せよっと……叫び過ぎて喉が枯れそうだし……もう休んで良いよね」
「あれあれ~? シャガはもうギブなのかい? 情けないんだぉ~!!」
「……あー疲れた」
「……無視は辞めてくれる? 心に来るからさ……」
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遊撃者達が一仕事を終えた中、彼女達も一仕事を終わらせようとしている。
人混みに紛れ教祖ムナムナを捕らえると、壇上袖の待機室へと連れ込んだ2人。
光なき世界で救いを求めるムナムナ。
そんな彼に冷たい視線を送るタクススとローズは、お目当ての会員証を無理やり奪い取ると、どう処分するのかを相談していた。
「……どうします?」
「焼き殺しますよ。証拠が残ると面倒なので」
「殺す? 神を殺すのですか……? 分かっているのですか? そんなことをすればルバンが……」
「『灼けろ』」
「……っ!! 『祝え』……」
まともに弁明する時間さえ与えられず、塵尻に焼かれるムナムナ。
散々逃げ回った彼の最後は、何とも呆気ない物であった。
「これで終了です。ちょっと疲れましたね」
「……ローズさん、腕……」
「ああ、これですか。大したことないですよ」
皮膚が焼け、真っ赤に腫れ上がっている右腕を見せびらかせるローズ。
何も問題ないと言っているのだろうが、直ぐに手当てをした方が良さそうだ。
勝利を収め気が緩んだ2人。
そんな彼女達へ向けて投げかけられた言葉が、容赦なく牙を向いた。
「『萎えろ』」
差し迫る危機に直前の所で気が付いたローズ。
言葉での迎撃は時間的に無理だと判断した彼女は、タクススを庇うように身を乗り出すと同時に、取り出したナイフを、待機室の入口で佇む人影に投げつける。
思わぬ反撃を受け、頬に深い傷を負った人物。
2人同時に気力を奪おうとしていた声の主は、舌打ちすると、待機室から慌ただしく逃げ出していく。
「……ローズさん!!」
「タクスス……緑色の髪をした女を覚えていますか……?」
「……ムナムナの近くにいた?」
「ええ……この言葉の主はアイツです……信者達の後処理をする際に……邪魔になります。追いかけて消してください」
ぐったりとしたまま指示を出すローズ。
小さく頷いたタクススは、傷を負った人物の血痕を頼りに、速やかに追跡を開始した。




