奇々怪々
割れんばかりの拍手に出迎えられる追跡者の2人。
昼日この教会に案内した男、演説に積極的に参加していた黒緑色の髪をした女性、演説に心を奪われていた教信者達の数々……
その集団を壁にする形で、教祖ムナムナは佇んでいる。
彼は、加工前の会員証を見せびらかしながら、悠然とした態度でタクスス達に語り掛けてくる。
「皆さん……今宵もまた、新たな仲間が増えることになりました。ですが……喜びで気が高ぶっているのでしょうか……少々取り乱し気味のようです」
「……奪いに来たことを分かってますよね、あの人」
「確信犯でしょうねぇ……タクスス、目だけを2階に向けてくれません?」
「……2階?」
小声で言われた通り、指定された場所を肉眼でさりげなく見つめるタクスス。
そこには、物陰に身を潜めコチラに合図を送るシャガと、彼から口を押えられているアムネシアの姿があった。
少年は口をパクパクと動かすと、空いている方の手で自分の目を隠す動作を行う。
これから何を行うか。
即座に理解した彼女達は、教祖の長話に耳すら貸さず、その時を固唾を飲んで見守っている。
「……ババ―リンを行いし者は、ルバンが溜まってしまいます。そうなってしまっては大変で……」
「むぅぅぅ~!! 我輩の口から手を放すんだよぉ!! ……あ」
「……!? 2階!? まだいたのですか!?」
澄ました顔で、アムネシアに言論の自由を与えるシャガ。
騒々しい抗議の声は、閑静な教会内にこれでもかと響き渡る。
虚を突かれた信者と教祖ムナムナは、予期せぬ侵入者の方向に視線が釘付けになる。
シャガが待ちに待った展開だ。
「『輝け』!!」
空間を侵食していく眩い光は、視力を一時的に奪う。
再び鮮明な光景を取り戻した時には、タクスス達4人の姿が神隠しにでもあったかのように消え去っていた。
「……!! アイツら……ゴホンっ!! 皆さん、2階にいた人間も含めて、手荒な手を使ってでも連れてきて下さい。あのままでは……ルバンが溜まりすぎて恐ろしいことに……うぅ」
「……っ!? ムナムナ様が泣いている……皆さん、急いでください!! よく分からないですが、恐ろしいことが起きるかもしれません!!」
いち早く教祖の異変に気が付いた黒緑髪の女性は、狼狽える信者達に指示を出す。
深く考えず条件反射で動いた信者達は、追いかけるため通路へ向かおうとする。
「……取り合えず『灼け』なさい」
てっきり彼女達は、礼拝堂から逃げたと思っていた。
だが実際は、チャーチチェアの物陰に隠れて迎撃する準備をしていたのだった。
またしても不意を衝かれた信者達。
度重なる奇襲を受け、自分で考える脳味噌を持っていない彼らは、その場で右往左往している。
「さあ、残りもやりましょうか。『灼……』」
「……ローズさん!? ……大丈ぶぅ……」
膝から地面に倒れ込む2人。
急遽襲い掛かって来た脱力感により、地面を舐めるように突っ伏すことになる。
「おや……おや」
「……うぅ……力が抜ける……」
「おぉ……やはりルバンのせいで……」
「大変だわ、早く捕まえてムナムナ様に見てもらわないと……」
その場で慌てふためいていた信者達は、タクスス達が力なく倒れ込んだことに動揺し、哀れみの目を向けてくる。
彼、彼女達は、この現象を神の裁きか何かだと思っているだろう。
よろよろと立ち上がった2人。
手を差し伸べる信者達の善意を振り払うと、即座に敵を視界に捉える。
だが、彼女達はまたしても全身の力を奪われ倒れ込んでしまう。
「……これ……誰の言葉……なんですかね」
「さあ……? しかし……こう何度も……やられると……かないませんねぇ……シャガ!!」
「はいはい、妨害頑張ってるよ!! けどさ……数が多すぎるんだよ!!」
「うわ~大変そうなんだよぉ」
「ちょっと役立たず、煩い!! ってかまだ来ないの!?」
「役立たずって言われたよぉ~……心傷ついた、本当に無理……」
「アムネシアさん!!」
「うぃ!! あれだけ記憶をいじくりまわしたんだよぉ!! 目を覚ますのに時間がかかっても仕方がないんだよぉ……!!」
一時的に姿を隠していたシャガは、信者達の動きを止めるため、2階の手すりから身乗り出し妨害を行っている。
その証拠に、目の前の信者達は一時的に動きを止めており、タクスス達が起き上がる時間を稼いでいた。
相方のアムネシアも何かをやってきたようだが、彼女の言葉をそのまま受け取るなら、まだ時間がかかるらしい。
「はぁー……あの騒音機の声、ここまで聞こえて来ますね」
「……本当に煩い人……」
「シャガと何か話していましたねぇ……時間がかかると」
「……何してきたんでしょうか」
「さあ……? ちょっと時間稼ぎでもしますか」
地面を這いずり物陰に姿を隠すタクススとローズ。
力を奪われる現象も加わり、この人数を相手に正面から戦っても、無傷で勝てそうにない。
シャガ達のやらかしにかける2人は、反撃のチャンスを見計らっていた……




