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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
50/102

子の心親知らず

 命の蝋燭の火が消えていく信者達。

 全員を目に捉えることは物理的に難しかったようで、息を引き取った屍を踏みつける軍勢がタクスス達に迫る。


「……数が……何人いるんですかこれ」


「気持ちは分かりますが、い」


「……? ローズさん?」


 声がぶつりと途切れたことに違和感を抱くタクスス。

 肩を並べるローズが一切の身動きを取れずにいる様子に、シャガの顔を思い浮かべる彼女。

 信者の中に動きを止める人間がいるのか。

 思考する時間すら奪われたタクススの真紅の目に、細身の錆びたナイフをローズに突き刺すため、猛進する信者の女性が映る。

 どこか見覚えのある顔をした女。

 数時間前、自分の子供と言い争いをしていたあの母親だ。

 正気を失っているような奇声を上げ、爛れたような赤い目を向ける彼女。

 子供の泣き顔が脳裏に浮かんだタクススは、死の言葉を使用することに躊躇してしまう。

 このままでは無抵抗なローズが刺されてしまうため、2人の間に割って入り、未だに身動きが取れずにいる彼女を庇いにいく。

 

「……うぅ、辞めて……」


「とっととっ!! くたばりっ!! なさいっ!! じゃ、邪魔なの、よ!! この※■×△★〇×※!!」


 聞くに堪えない罵声を響かせる彼女。

 元々は心優しい母親だったのだろう。

 信者になる前は、子供とも上手く関係性を保っていたのだろう。

 この環境が彼女を変えてしまったのだろう。

 ……そうであって欲しい。

 そう思い込まないと、目の前の醜悪な獣を直視することは、今のタクススには出来ない。

 ナイフを持つ手を両手で掴み、必死に耐えるタクススだったが、母親の空いた手で首を掴まれると、地面へ乱暴に投げ飛ばされ、心臓目掛けて代赭色の刃が振り下ろされそうになる。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!! ……うげぇ!?」


 寸前の所で拘束から解放されたローズ。

 彼女の重たい蹴りを鳩尾に受けた母親は、ナイフの所有権を放棄しながら、信者の群れへと勢いよく蹴り飛ばされた。

 

「……げほ、うぅ……」


「申し訳ありません、タクスス。少々不覚を取りました」


「……もう動けるんですか?」


「ええ。腹いせに、あの母親を灼いても良かったのですが……タクススの意向を汲んでおきましたよ。手を」


「……どうも」


 差し伸べられた手を握り、起き上がるタクスス。

 依然として士気が下がることのない信者達は、目を光らせコチラに襲い掛かろうしている。

 

「……キリがないです」


「そうですねぇ……この数の言葉を捌くのは苦労しそうですよ」


「……逃げましょう」


「同感です。んー……なんちゃって教祖が通った場所は、あのくぼみでしょうか」


「……本棚の間のですか? ……多分」


「分かりました。タクスス、今から室内が暗くなりますので、私の手を強く握りしめて下さいね」


「……え? 暗く?」


 右手を握られたタクスス。

 何をする気なのか。

 尋ねようとした時には既に遅く、ローズは室内を照らすロウソクを片っ端から灼き尽くしていった。

 闇に鎖される世界。

 鎖で地面に繋がれたように身動きが取れなくなった信者達を他所に、ムナムナが使用した通路の入口まで移動するタクススとローズ。

 暗闇に目が慣れないタクススと違って、普段通り見えているかのように、ローズはタクススの手を引っ張りながら最短距離で進んで行く。


「……見えているんですか?」


「ざっくりとですけどねぇ。夜間訓練の賜物ですよ」


 少し誇らしげに話すローズ。

 彼女の言葉に偽りは無いようで、無事に目的の場所まで辿り着く。


「先を急ぎましょうか。その前に……」


「きゃっ!! ……何ですか、何したんですかローズさん」


「いやいや、ちょっと本棚を倒しただけですよ、時間稼ぎ用にねぇ。この暗闇の中で、早々にここまで辿り着けるとは思えないのですが……ん?」


「やった!! ランタンが点いたわ!!」


「何て偶然なの……凄いわ私達!!」


「これもムナムナ様のおかげよ!!」


 暗闇の中で表情が確認できないが、明らかに動揺しているのが手の平から伝わって来る。

 純黒の世界に広がる温かい光。

 どうやら錆びれたランタンを()()見つけ、それが()()使用できたようで、信者達は視界を次々に取り戻していく。


「……ローズさん、これ不味いんじゃ……きゃっ!?」


「失礼。ちょっと飛ばしていくので、しっかり摑まって下さい」


 タクススを横向きに抱きかかえ、通路の中を風のように駆け抜けていくローズ。

 計画が振るわなかったせいなのだろうか。

 彼女にしては珍しく、冷汗を額から流している。


「これはこれは、面倒な言葉を使いましたね……あの教祖様は」


「……もしかして、祝えって言葉ですか?」


「恐らくねぇ……ここまで都合の良い現象を起こせるのは、その言葉で間違いないですよ。そうなると……今回の戦いは面倒になりそうですねぇ」


「……()()()の間違いじゃないですか」


「くっくっく……同感ですねぇ」


 意見を交換し合っていると、出口が見えてきた。

 彼女達が昼も夜も度々目にした場所。

 信者達が集会をしていた礼拝堂へと辿り着いた。

 数多の信者と教祖が待ち構えていた、戦場と化す礼拝堂へと……

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