崇めよムナムナ
侵入を拒んでいた障壁をローズの言葉で焼き払い、姿を現した隠し通路の中を、足音を殺して進んで行く2人。
前進するにつれ熱がこもり、耳障りになっていく喘ぎ声に、タクスス達は不快感を覚える。
「おやおや、随分とお盛んなようで」
「……ここまで聞こえてくるって……どんだけ騒いでるんですか……」
「さあ? 実際に見れば分かるのではないですかねぇ」
小声で話す2人。
警戒心を高める彼女達の元に、広間のように開けた空間が現れる。
掃除が行き届いていないのか、ロウソクの光に反射したオーブが空中をゆらゆらと舞っているそこでは、現在進行形である儀式が行われていた。
「あっ……あぁ、ムナムナ様ぁ……」
恍惚な表情で、教祖のムナムナと肌を重ね合わせる女性。
周囲には今か今かと順番待ちを行う、生まれたままの状態の女性が数十人も存在した。
「これはこれは……何ですかこの乱交パーティーは」
「……うぅ……臭いが……ハチミツみたい……」
性行為によって発生し、室内に充満した甘ったるく蒸れた臭いに、思わず鼻をつまんでしまうタクスス。
薄暗い室内に身を溶け込ませながら、広間への入口付近で事の成り行きを見守っていると、服が乱れている教祖のムナムナは、片手で信者の女を抱きながら、空いた方の手で器に盛られた白い粉を手繰り寄せた。
「はい、ニステプロンを頑張ったアナタへ……キルムーチョ」
「き、きるむーちょ……あ、あはっ!! ひ、う」
少量の粉を口から摂取した女性。
たちまち肩を振舞わせた彼女は、焦点の合わない目を天井へと向けると、白目をむいて気絶する。
火照った体は首を落とした魚のように、時折ビクンと痙攣している。
「……あの白い粉って……薬物か何かでしょうか」
「そうですねぇ……どうやって入手したのかは分かりませんが……山賊達が売っていた物ではないですかねぇ」
「……信者の皆さんは気が付いているのでしょうか」
「さあ……妄信していて、目がやられているのでは? 食い物にするには、打ってつけの連中ですからねぇ」
シャガの仲間であった山賊達の顔を思い浮かべる2人。
彼らが売買していた品が、巡り巡って目の前で悪行を働いていた。
思わぬ所でシャガを虐める材料が1つ出来たと、ローズは意地の悪い笑みを浮かべている。
そんな彼女達には気が付かず、甘美な光に誘われて、集い蠢く虫達。
それが毒だとも知らずに餌を奪い合う光景は、何とも醜く愚鈍である。
「ん~……会員証は……何処かにないですかねぇ……」
「……ローズさん、あれじゃないですか?」
「教祖の後ろにある棚の……アレですか? あー……そうかもしれないですねぇ」
「……隙を見て盗み取りましょう」
「ええ、そうしましょうか」
「……ちょっと、アンタら何してるの?」
背後の通路から声を掛けられた2人。
目の前にしか注意を向けていなかった彼女達は、背後から迫る裸の信者に呆気なく見つかってしまう。
「……私達、入信するためムナムナ様に会いに来た者です」
「ええ、偉大なるムナムナ陛下様を崇め奉る……」
「……ここに来れるのは、既に入信している人間だけだ。例外はないよ」
「……」
「おやおや……」
「みんな!! 不届き者が居るよ!!」
女性の甲高い言葉に、無数の視線がタクスス達に突き刺さる。
異変に気が付き、乱れた衣服を整えたムナムナは、侵入者がここに来た理由を察したのだろう。
即座に信者達へ的確な指示を送る。
「皆さん、どうやら邪魔者が入ったようです。今すぐにこの場から追い出しなさい」
「おぉ!!」
「分かったわムナムナ様!!」
「やってやるわよ!!」
「エルピョ……皆さんの今後を『祝わせて』頂きますので、よろしくお願いします」
タクスス達が目を付けていた棚から、加工前の会員証らしき物が入ったケースを手に取ると、裸婦の群れに姿を溶け込ませ、非常口のような場所から逃亡していくムナムナ。
直ぐに追おうにも、数多の信者達に行く手を遮られるタクスス達。
じりじりと部屋の隅に追い詰められていく。
「……ローズさん、どうします?」
「そうですねぇ……下手に暴れると面倒になるのですが……ここは人目につかない場所ですし、殺っていいでしょ」
「……久々に2人で戦いますね」
「ローナバリス以来なので、数日ぶりですかね」
「……殺し漏れがないように……ですよね」
「はいはい……まあ最悪、アムネシアに記憶をいじらせればいいですし、気楽にいきましょう、気楽に」
「……あの煩い人、記憶を覗くだけじゃなかったんですよね……何で言わないのかな……」
「騒音機の考えることなんて、分からなくて当然ですよ……ん、それではいきますか」
「……ええ」
腰の収納ケースからナイフを取り出すローズ。
数多の敵に囲まれながらも、その表情から笑みが崩れることはない。
頼もしいボディーガードへ合図するかのように、タクススは開戦の言葉を信者に告げる。
「……皆さんに恨みはないですけど……敵対するなら仕方がありません……『死んで』下さい」




