ムナムナ様とニステプロン
正面玄関から侵入を果たしたタクススとローズ。
周囲に人の気配は今のところない。
静まり返った教会内部には、2人の足音が微かに響き渡っている。
「……誰も居ないですね」
「そうですねぇ。騒々しい昼間とは打って変わって静かなことで」
「……先を急ぎましょうか」
「ええ、そうしま……ちょっとコチラへ!!」
「……え、うぁ」
タクススが羽織る黒いローブの袖を引っ張り、チャーチチェアの影へと身を隠すローズ。
またどさくさに紛れてセクハラを始める気か?
慣れた様子のタクススは、呆れたようにローズへ注意を促す。
「……こんな時ぐらい真面目にやってくれません?」
「おやおや、どうやら勘違いしていますねぇ……あそこを見て下さい」
「……?」
恐る恐る物陰から、ローズが人差し指で示す方向を見つめるタクスス。
演台が据え置かれたその場所に、数人の信者が姿を現す。
誰かを探しているようで、忙しなく辺りを見回している彼らの会話に、2人はじっと耳を傾ける。
「いたか!?」
「いいや……やっべぇ、早く侵入者を見つけないと!!」
「ああ……ムナムナ様に叱られちまうぜ、俺ら……」
「あの人、今は何処にいるんだ?」
「さあ……? この時間だと……ニステプロン中じゃねぇか?」
「ああ、ニステプロンか……じゃあ、いつもの場所だよな」」
「そうだな。うっかり近寄らないように気をつけようぜ。女達が煩くて仕方がねぇからよ」
「……やっべ、想像してたら勃起してきちゃった……ほら見て見て~」
「うわ、え、来るなよこっちに!!」
昼休みに騒ぐ男子中学生のようにじゃれ合う2人。
深夜テンションのまま走り去っていくと、室内が再び静寂に包まれていく。
「侵入者……シャガ達のことでしょうねぇ。早速役割を果たすとは……関心関心」
「……あの、そろそろいいですよね。距離を取りましょ……?」
「さてと……肝心の教祖は、ニステプロンでしたっけ? 意味は分かりませんが取り込み中のようですねぇ……」
「……凄いこの人、全く聞く気がない……」
「さあタクスス……やることやって、こんな所さっさとおさらばしましょうか」
心の中で、深いため息を吐くタクスス。
ローズと会ってからというもの、いつもいつも過剰なスキンシップを受ける日々が続く。
(……ローズさん、何で私をこんなに気に入っているのかな……)
たった数日程度の付き合いにも関わらず、熟練夫婦でも持ち合わせることが難しい、好意の感情を向けて来るローズ。
思い返せば、初めて会った時もこの上なく友好的に接してきた彼女。
戦争を引き起こすのに、私の力が丁度いいからみたいに言っていたけど……
この人、本当にそれだけなのかな。
何か他にもあるんじゃないかな。
チャーチチェアの影から離れ、天井が湾曲に形作られた、薄暗い通路を進んで行く2人。
並走して走るローズの横顔を見つめるタクススは、数日前に、彼女と湖の畔で交わしたある会話を思い出していた。
(はみ出し者同士……ね……)
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教祖の居場所を探し続ける2人。
教会内のめぼしい場所は殆ど調べつくしたが、一向に見つからないまま時間だけが過ぎていた。
「……いないですね」
「そうですねぇ……地下室でしょうか?」
「……それっぽい場所ありましたっけ……?」
「いえいえ、全くですねぇ」
「……隠し部屋……とかどうでしょう」
「考えられますねぇ……はぁー……ただでさえ無駄に広いのに、その可能性も考慮しないといけないとは……ちょっと失礼」
頭を悩ませるローズは、自然な手つきで上着のポケットから煙草を取り出すと、ライターで火を点け口へと運ぶ。
そよ風に乗った白煙は、辺りに鼻に突き刺さる刺激臭をばら撒いていく。
「……ローズさん、潜入中は煙草を吸わないんじゃ……」
「考え事をする時は別ですよ」
「……」
「いや~定期的に吸わないとね、頭から白いモヤモヤが晴れないのですよ~そんな状態で考え事なんてねぇ……? しょうがないしょうがない」
煙草の魔力に取り憑かれた中毒者は、今日も変わらず言い訳をする。
この人もう手遅れなんじゃ……?
彼女のこれからの人生に哀れみを抱いてしまうタクスス。
ローズが一服し終えるのを待つ間、少しでも手掛かりがないか周囲を見回す。
「…………ん?」
「おやおや、どうしました?」
「……煙が……壁の中に入って行きましたよ」
部屋と部屋の間と思わしき場所。
2人が立ち尽くす外の通路からは見えないが、隣接する内部の部屋を区切る壁が位置する場所に、風に煽られ広がった煙が、糸のよう収束して吸い寄せられている。
言わず語らず足を止めず。
違和感のある壁の近くまで歩を進めると、何か仕掛けがないか両手で壁を触って行く2人。
念入りに探っていくが、それらしき物は見当たらない。
……せめてこの先に何があるのかだけでも知りたい。
耳を壁へ当てると、内部の様子を物音から見抜こうとするタクスス達。
そんな彼女達に、性行為中と思わしき女性の喘ぎ声が、壁を伝って聞こえて来た。
「おやおや……」
「……今の声……教祖のムナムナと、信者の女性……でしょうか?」
「あの男達が言っていたアレって……そういうことですか」
「……ええ、ニステプロンはセックスの隠語みたいですね……」




