神の街・モンテラ
始めは聞き間違いだと思った。
一文字もかすらない名前を言われたタクスス達は、思考が止まってしまう。
「……きるむーちょ、え? ……何ですかそれ」
「キルムーチョムナムナですよ~知らないんですか?」
「……知らないです。そんな名前」
「そうですか~いや、失礼しました。比較的最近になって出来た宗教でしてね……アスピラシオンは知っていますか?」
「……はい、その名前は知っています」
「あ、それなら話が早いです!! キルムーチョムナムナはですね、アスピラシオンから派生した宗教団体になっているのですよっ!!」
「……はぁ……」
「この世界の言葉に力を与えたアスピラシオン。その子供であるキルムーチョムナムナ様を祀る団体……それが私達なのです!!」
親切に丁寧に、そして決して馬鹿にする様子もなく、真実を淡々と話しているような様子の男達。
タクススは、記憶の図書館を隅々まで探し回っても、キルムーチョムナムナなんて名前を見つけられなかった。
小声でローズに話しかけるタクスス。
渦巻く疑念が彼女の心を支配している。
「……ローズさん、どう思います?」
「そうですねぇ……アスピラシオンに子供がいたこと自体、初耳なのですがねぇ……臭い臭い、胡散臭いですねぇ」
「……ですよね」
「どうしましょうか……付いて行くと確実に面倒事に巻き込まれそうですねぇ」
「……だからと言って、このまま大人しく帰ってくれるのでしょうか……」
「ちょっとだけ覗いて行きます?」
「……そうですね。危なくなったら帰りましょう」
打ち合わせが終わった2人は、修道服を纏う彼らに再度向き直す。
ほんの少しだけ興味がある。
入信するかどうかは分からないが、見学させて欲しい。
言葉を選びながらそう伝えると、信者達の表情が一段と明るくなる。
「そうですかっ!! では行きましょう!! ささ、コチラです……」
ぞろぞろと足早で向かう彼らの後を追うタクスス達。
彼女達の頭上で滞空するズキンガラスは、その集団を見てせせら笑っていた。
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街の中央にそれがそびえ立っている。
本物と見間違う、なんなら本物以上に立派な造りをした教会が、タクスス達を出迎える。
何も知らずに連れて来られた人間は、身のすくむようなそれに圧倒され、今までの疑惑は何処かへと消えてしまうだろう。
中へ入ると、神秘的な空間があらゆる人々を出迎える。
息が詰まるような感覚。
広大な空間と反して、そのような感覚を覚えてしまうのは、それだけのエネルギーがこの空間に充満しているのだろうか。
「……凄い」
「うわぁ……俺、こんな場所始めて来たよ。なんか……落ち着かない感じ」
「これはこれは……少し考えを改めた方が良いかもしれないですねぇ……」
十中八九、悪徳宗教だと思っていた彼女達。
場合によっては、派手に交戦することも想定していたが、考え過ぎだったかかもしれない。
自分達の見識の狭さを恥じていると、最前列の空間に、教祖と思わしき男性が現れた。
黒の修道服を纏い、髪は長く、髭も異常に伸びている男性。
小汚い風貌が、返って厳かな雰囲気に拍車をかけている。
そんな中、場内を埋め尽くす信者達のどよめきに紛れて、彼の名前が聞こえて来た。
「ムナムナ様だ……」
「ムナムナ様よ!!」
ムナムナ。
それが彼の名前らしい。
哀れ慈しんでいるその目は、世界中の全ての人間を愛しているかのようだ。
「……皆さん、どうもラ・ナー」
「ラ・ナー!!」
「エルピョ。皆さんに会えたことを嬉しく思います」
「……あの、何ですかアレ」
「アレと言いますと?」
「ら・な-……? エル……エル……」
「エルピョですよ。これはこの教団で使われている言葉であり、感謝を伝える言葉です。ちなみにラ・ナーはおはよう、こんにちは、こんばんはの挨拶を現す言葉ですね」
「……へ、へぇー……」
「あっ!! 教祖様が話しますよ、耳を傾けましょう」
説明を受け、全てを察したタクスス達。
集団の後方で、筆舌に尽くしがたい有様を見学する彼女達は、繰り広げられる喜劇を無心で眺めながら、早く終わらないかなと思っていた。
だが、どうやら幕はまだまだ下りないようだ。
「皆さんがパパ―リンを行うことで得られる、ゴディバ……これが無ければ、神の祝福である、キルムーチョも大したことがありません。ただ一心に、パパ―リンを行うことが大切です。ですが、多大な祝福を受けたいのであれば、時間がいくらあっても足りません。そこで皆さんが次に行うことがあります。何だと思いますか? ……そこの緑髪の女性」
「はい……私達は、ラ・クール・ゼタを行う必要があります」
「エルピョ。その通りです。この世界を支配する考え……資本主義の思想。これによって生み出された金は汚らわしい物です……欲が渦巻いています。皆様も見たことでしょう……景気の悪化に伴い、金を得ようと犯罪を犯す人々を……」
「おぉ……!!」
「確かに」
「あ……あ……!!」
「凄い……凄いっ……!!」
「エルピョ。金を捨て去ること……罪深き世界の代物から解き放たれる事こそが、徳を得るために必要な事なのです……さあ、皆さん……金を捨てましょう……ラ・クール・ゼタを行いましょう……!!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
「教祖様バンザイ!! 教祖様バンザイ!!」
「ムナムナっ!! ムナムナっ!! ムナムナっ!! ムナムナっ!!」
一斉に宙へ飛び交うお札の数々。
紙吹雪のようなそれはひらひらと舞いながら、教祖や信者達を祝福しているようだ。
タクスス達を連れて来た男は、涙を流しながらその光景を見ている。
心の琴線に触れたようだ。
滝のよう流れる液体を手で拭い、赤くなった目をコチラに向けている。
「うっ……くっ!! やっぱ凄いよ、ムナムナ様は……!! さあ、君達もキルムーチョムナムナに入信したくなったかい!? なったよねっ!?」
「……あ、やっと終わったんですね……」




