好奇心の赴くままに
何の前触れも無しに、旅への同行を志願してきたアムネシア。
タクスス達は思わず、口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
噎せ返る3人へ交渉を続ける彼女。
提案を受け入れられると思っていたのだろう。
彼女の誇らしげな顔から判断ができる。
「!? どうしたんだよぉ!? 何で驚いてるの!!」
「……何で付いて来るんですか。頭が更におかしくなったんですか……?」
「何だよその言い方!? 僕が元から狂ってるみたいじゃないかっ!! ……君、タクススの体に興味が湧いたんだよっ!!」
「……ひっ!?」
「違うよぉ!! 性的な意味じゃない!! そこの奴と一緒にするなよぉ!!」
ローズと同じ仕打ちを受けると勘違いし、身構えたタクスス。
縄で縛られたままのアムネシアは、表情豊かな顔を更に煩くする。
「ほら、これから体に異常が起こるかもしれないだろぉ? 不思議な体なんだからさ。そんな時、この僕ならちょちょいと解決できるじゃないか!! 昨日みたいにさっ!?」
「……嫌です、来ないでください」
「即答するくらい嫌なの!? ちょ、僕は役に立つよぉ!! 自分で言うのもアレだけどさ、結構有能だと思うよぉ!? 治療から改造までちょちょいのちょいだよぉ!!」
「……ローズさん、シャガ君。もう行こっか」
「待って待って待って!! 頼むからさぁ!! 一緒に連れてってよぉ!!」
どんな言葉を投げかけても、無関心な彼女達の心には全く響かない。
ジタバタとその場で暴れるアムネシア。
家を出発する際に、拘束を解こうと考えていたタクスス達だったが、急遽予定を変更。
縄で縛ったままの状態で、彼女の住処を後にしていく。
「何か変な人だったね」
「……うん」
「そうですねぇ……彼女の事は記憶から消しましょうかね、2人共」
ローズの言葉に無言で頷くタクススとシャガ。
彼女達はアムネシアのように、記憶に関する言葉は使えない。
にも関わらず、疲れ切ったタクスス達の脳味噌からは、騒々しい彼女の記憶が奇麗さっぱり消え去る。
取り残されたアムネシアは、珍しい実験対象がまんまと逃げていく様を、血涙を流しながら見つめていたのであった。
「おぉぉぉい!! 置いて行くんじゃないよぉ!! 返事ぐらいしてくれよぉ!! うぅ……!! 僕は絶対に諦めないぞぉ……!! 科学者を舐めんじゃないぞぉ!!」
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アスロンを出発し、次の街であるモンテラへと向かう3人。
山道を進む彼女達に、束の間の静穏が訪れていた。
病み上がりのタクススに歩調を合わせながら、そよ風に吹かれつつ、次の街へと進んで行く。
「……はぁ……はぁ……すみません、2人共。まだちょっと……痛むので」
「いえいえ、お構いなく。ゆっくり行きましょうか」
「そうだよ、俺達に気を遣わなくて大丈夫だからさ。確か次の街も、そんなに遠くないし……昼過ぎぐらいには着くでしょ!!」
「……次の街……モンテラって……確か有名な宗教団体がある街でしたよね……?」
「はいはい。世界中で広まっており、イルドアランでも有名なアレですねアレ……えぇ……と……?」
「……アスピラシオン」
「そうそう、それですよ~……私、宗教に興味がないので、いまいち分からないんですよねぇ……何を崇めているんでしたっけ?」
「……私達が使う言葉。それに力を宿した女性……だった気がします。アスピラシオンも、その人の名前ですね」
「あ!! 俺も知ってるそれ。信者っぽい人も見たことがあるよ」
「ほうほう。それは興味深い。時間があれば、チラッと見物でもしていきましょうか」
定期的に休憩を取りつつ、次の街について話し合う3人。
宗教に興味の無さそうなローズでさえ、辛うじて覚えていた団体がこの先にあるらしい。
胡散臭いならともかく、この国含めたその他の国々でも広く知られている有名な宗教団体。
まともな人間に遭遇することが少なかった彼女達にとって、やっと巡って来た機会。
これは神の祝福なのだろうか。
なるべく不審人物とのトラブルを避けたいタクスス達にとって、まともな人間が多そうな地域は大歓迎だ。
そう考えていた彼女達は、街に到着すや否や、噂の宗教団体の構成員らしき人物達と遭遇した。
神の使徒と言われるのに相応しい、純白の修道服を身に纏う彼ら。
目と目が合うと、気さくな様子でこう話しかけてきた。
「おや? もしやアナタ方は、キルムーチョムナムナに入信したい方々ですか?」




