代償
「……子宮が……無い?」
親友に挨拶をする気軽さで、タクススへ衝撃の言葉を投げつけたアムネシア。
おちょくられているような感覚になったタクススの心に、小さな焔が宿る。
無言で近づき腰を落とすと、静かに燃える灯をアムネシアへと向ける。
「……ひぃ!?」
「……アナタ、さっきから聞いてたら……ふざけてるんですか……?」
「ちちちち違うんだよぉ!! 本当なんだよぉ!! 信じられないかもしれないけどさっ!?」
「おやおや、タクススが珍しく怒っていますねぇ。アナタ、本当に殺されますよ?」
「何で本当の事を言ってるのに殺されるんだよぉ!?」
「タクススお姉さんさー……病み上がりで疲れてるんだよね。冗談とか言わずさ、もっと気を遣おうよ」
「子供に諭されてるよぉ!? 違うんだよぉ!! 僕はちゃんと見たんだよぉ!! 何か……何か自覚症状でもないの!?」
「……自覚症状?」
「そうそう!!」
「…………あっ」
1つ心当たりがある。
彼女が抱える悩み。
10代後半の女性なら必ず訪れる、アレがまだ来ていないのだ。
「……生理が来ていない」
「生理!? そうそれそれ!! まさしくそれだよぉ!!」
「え、生理が来ない? え……」
「シャガ、耳を塞ぎなさい。男が聞く話ではないので」
会話に混じらないようにシャガへと促すローズ。
彼女の見立てでは、これから生々しいワードが飛び交う事だろう。
いくら子供とは言え、シャガも男だ。
配慮するのに越したことは無い。
気を遣ったローズの言葉に従うシャガ。
両手で耳を塞いだのを確認すると、2人の会話に耳を傾ける。
「……いやでも……それだけで判断するには……」
「血生臭い感じは? 生理が来ないって言っても、臭いとかであるじゃない? それはどうなんだよぉ」
「……無臭ですね」
「イカ臭くない?」
「……無臭です」
「ストレスは?」
「……溜まっていないです。むしろ清々しい気分です」
「……セックスした?」
「するわけないでしょ!!」
「じゃあ、やっぱり子宮が無くなっていたのは見間違いじゃないね。ふふん!! 我輩の目に狂いはないのだ!! 散々批判を浴びせた君達!! 何か言うことは無いのかね!?」
「……ちょっと煩いんで、黙っててくれませんか?」
「僕の尊厳は何処に行ったんだよぉ……」
縛られたまま顔から床に倒れ込むアムネシア。
両目から大量の液体を流し続け、めそめそと泣いている。
そんな彼女の奇行がどうでもいいくらい、今のタクススは別の事を考えていた。
(最近生理が来るのが遅かった理由て……私の子宮が……何で? 何時から? ……もしかして、あの時の言葉って……)
お腹を摩りながら、記憶の糸を手繰るタクスス。
ステラ家で毒殺された数日前。
意識が闇の中に沈んでいったあの時のこと。
黒いモヤがかかった、謎の人物が語り掛けてきた言葉を思い出す。
『ダイショウハイタダキマスガ』
代償。
たった二文字の言葉に背筋が凍るタクスス。
死から逃れられたとは言え、取り返しがつかない状況に陥ってしまった。
そう実感するには、十分なほどの心当たりが存在した。
「……」
「えー……タクスス、今晩はもう寝ませんか?」
「……そう、ですね」
日も暮れて時間が経っている。
昼間に散々な目に遭った彼女の脳味噌は、疲労で殆ど動いていない。
嫌な現実から逃げるように、ベッドへ体を預けるタクスス。
深いため息と共に、彼女は眠りについていった。
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翌朝、いつもより早い時間帯に目が覚めてしまったタクスス。
床で眠るアムネシアを起こさないように、椅子に腰をかけて就寝していたローズとシャガを起こす。
「……おはようございます」
「おやおや……今日は早いですねぇ……昨日の事が尾を引いていますか?」
「……そうですね」
「タクススお姉さん、大丈夫?」
「……うん、体はだいぶね。気分はまだちょっと……」
「そうですかそうですか。何か飲みます?」
「……そうですね。何か頂けますか?」
タクススの返答を聞いたローズは、昨日彼女達が街で購入した商品の中からコーヒー豆を取り出し、アムネシアの家のキッチンへと向かう。
リュックの中から専用の機材を取り出すと、慣れた手つきで豆を炒っていき、部屋中に香ばしい匂いを充満させる。
「……ん? コーヒーの匂い……君達、僕の家を実家だと思ってない!?」
「おやおや、煩い人間が目覚めましたね」
「おはようの一言もない!?」
「そう文句を言わないで下さいよ……タクススとシャガ、どうぞ」
手渡された小さなコップに注がれた黒い液体。
火傷に注意して口の中へ運ぶ3人を、何も出来ないアムネシアはただただじっと見ていた。
「うぅ……僕の分すらないのかよぉ。あんまりだよぉ……」
「……すみませんねぇ。素で忘れていました」
「もういいよぉ……君らの扱いの雑さには慣れたからさ……あ、そうそう」
「ん? 何でしょう?」
「僕さ、君達に同行していいかな?」




