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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
37/102

風を統べよ

 軍人2人と謎の男コルス。

 総勢5人が、すし詰め状態でタクスス達の舟に乗り込んでいる。

 船首に陣取る軍人のアヤメ、中心で腰を落としたままのタクススとシャガ。

 船尾に立ったまま、先ほどの飲食店でテーブルに掛かっていたと思わしき、白のテーブルクロスを左右から掲げるカタバミとコルス。

 後方から吹く強風を布の全面で受け止め、手漕ぎでは考えられないスピードで、対象を追跡していた。


「カタバミ!! まだ行けるか!?」


「ひぃぃぃぃ!! た、多分!!」


「対象の逃げ足が想定より早い!! よってギアをもう一段階上げる!! 火傷女とガキは、カタバミと白いのの足を抑えておけ!!」


(あ"あ"あ"あ"あ"!! あのアヤメって糞女ふざけんなよ!?)


「……は、はい。分かりました……」


「りょ、りょ~か~い……」


 流れに身を任せているタクススとシャガは、言われた通りに、悲鳴を上げ続ける後方2人の足を強く抱きかかえ、吹き飛ばされないように抑えている。

 自分たちの呼ばれ方については、この際スルーしたほうが良いだろう。

 暗黙の了解が、タクスス達の中で作られていた。


「ひぃぃぃぃ!! ご協力感謝しますっ!!」


「……何で私、こんな事を……」


「しゃ、シャガ!! 知らない顔じゃないだ!! あの人を説得してくれませんか!?」


「……ゴメン、コルスさん……言っても辞めないと思うよ……ああいうタイプ」


(んなこと分かってんだよ!! そこをどうにかしろって言ってんだよ糞ガキ!!)


「よしっ!! いくぞ貴様ら!! 風よ……『煽げ』!!」


 ボリュームのある黒紫色の長髪が、風で舞い上がる。

 アヤメの発した言葉は、成人程度なら容易く吹き飛ばすであろう。

 烈風の力を受ける小さな舟は、見違えるくらいに速度を上げ、水路を驀進して行く。

 住宅を壁走りで逃走を図る男は、猛追に気が付いたのか、入り組んだ道へと進路を変更していく。

 だが、アヤメの巧みな先導には、そのような小細工は通用しない。

 向かい風、追い風、横殴りの風……

 変幻自在に風位を操る事で、水路を直進している時と同じ速度を保ったまま、差をグングンと縮めていく。


「ナニ!?」


「貴様、その状態でも話せるのか……ならば良い声を聞かせて貰おうっ!! 『漂え』!!」

 

 軍服のポケットから鉛を取り出したアヤメ。

 空気中にばら撒くと、彼女の周囲に次々と浮遊していく。

 間髪入れずに第2の言葉を発する彼女。

 拳銃では太刀打ち出来ない威力で打ち出された鉛達は、逃亡する男を蜂の巣にしていく。


「『飄れ』!!」


 鉛によって体を打ち抜かれた男は、カエルが潰されたような声と共に、水の中へずり落ちていく。

 当然、タクスス達も無傷とはいかない。

 目の前で突如発生した暴風にバランスを崩す舟。

 声にならない悲鳴を上げるアヤメ以外の4人は、原因を作った彼女諸共、水路の水の中へ叩きつけられていく。

 大きな水飛沫を周囲の建物にまき散らす彼女達。

 雨でも通り過ぎたかのように、辺りの建物は潤いに満ちていく。

 

「……しまった、やり過ぎた」


「ア~ヤ~メ~さぁぁぁぁぁん!! 加減って言葉知ってますか!?」


「すまんすまん……それで……他の奴らは無事か?」


 水中でタクスス達3人を探すアヤメ。

 幸い彼女達は、既に近くの歩道に体を這い上げていた。

 ……酷く息切れしているようで、決して無傷だったとは言えないが。


「無事……と言うことにしておこう。カタバミ!! 私達は、身柄の確保に移るぞ!!」


「りょ、了解!!」

 

 今にも水路の底に引きずり込まれそうな瀕死の男。

 アヤメとカタバミは、彼の両腕を片方ずつ手分けして握ると、岸へと泳ぎながら運んでいく。

 力づくで陸へと上げると、アヤメによる手洗い歓迎が行われた。


「さあ、盗人君……少しお喋りしようか」


「ガ、ガウガウ……グェ!?」


「今更誤魔化すな!! ……盗んだ物は回収させてもらう。それで貴様、()()()はどうした?」


「ドウシタッテ……」


「誰から改造されたんだ!? この地域で違法な人体実験が行われていると聞いてな……お前のそれは、そういう事だろう!?」


「ウゥゥゥ!!」


「さっさと吐け。隠しても無駄だぞっ!!」


「ウゥゥゥゥ!! ワ、ワカッタ………………ナンテイウカヨ、バカメ!!」


 観念したかに見えた男性。

 瀕死の怪我を負っている状況で、どう動こうと助からない。

 それなのに、彼の目から希望の光が消えることは無い。


「あぁ!? ……何だこれは」


 彼が発した言葉の意図に気が付くアヤメ。

 ただ闇雲に逃げていたわけではなく、ある場所を目掛けて逃げていた彼。

 タクスス達はいつの間にか、アスロンのゴーストタウンと化した区域に迷い込んでいた。

 彼女達を出迎えるかのように、1匹……また1匹と、この世の生き物とは思えない姿形をした化け物達が、姿を現し歓迎していく。

 様々な動物の特徴を繋ぎ合わせた嵌合体。

 恐らく彼の体を改造した人間が行ったのだろう。

 わざわざ案内してくれた盗人にある種の感謝をしながらも、臨戦態勢に入るアヤメ。

 遅れてカタバミも周囲に目を光らせる。


「クックック……ヤロウドモ!! マヌケナヤツラヲ、ヤッテシマエ!!」

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