風を統べよ
軍人2人と謎の男コルス。
総勢5人が、すし詰め状態でタクスス達の舟に乗り込んでいる。
船首に陣取る軍人のアヤメ、中心で腰を落としたままのタクススとシャガ。
船尾に立ったまま、先ほどの飲食店でテーブルに掛かっていたと思わしき、白のテーブルクロスを左右から掲げるカタバミとコルス。
後方から吹く強風を布の全面で受け止め、手漕ぎでは考えられないスピードで、対象を追跡していた。
「カタバミ!! まだ行けるか!?」
「ひぃぃぃぃ!! た、多分!!」
「対象の逃げ足が想定より早い!! よってギアをもう一段階上げる!! 火傷女とガキは、カタバミと白いのの足を抑えておけ!!」
(あ"あ"あ"あ"あ"!! あのアヤメって糞女ふざけんなよ!?)
「……は、はい。分かりました……」
「りょ、りょ~か~い……」
流れに身を任せているタクススとシャガは、言われた通りに、悲鳴を上げ続ける後方2人の足を強く抱きかかえ、吹き飛ばされないように抑えている。
自分たちの呼ばれ方については、この際スルーしたほうが良いだろう。
暗黙の了解が、タクスス達の中で作られていた。
「ひぃぃぃぃ!! ご協力感謝しますっ!!」
「……何で私、こんな事を……」
「しゃ、シャガ!! 知らない顔じゃないだ!! あの人を説得してくれませんか!?」
「……ゴメン、コルスさん……言っても辞めないと思うよ……ああいうタイプ」
(んなこと分かってんだよ!! そこをどうにかしろって言ってんだよ糞ガキ!!)
「よしっ!! いくぞ貴様ら!! 風よ……『煽げ』!!」
ボリュームのある黒紫色の長髪が、風で舞い上がる。
アヤメの発した言葉は、成人程度なら容易く吹き飛ばすであろう。
烈風の力を受ける小さな舟は、見違えるくらいに速度を上げ、水路を驀進して行く。
住宅を壁走りで逃走を図る男は、猛追に気が付いたのか、入り組んだ道へと進路を変更していく。
だが、アヤメの巧みな先導には、そのような小細工は通用しない。
向かい風、追い風、横殴りの風……
変幻自在に風位を操る事で、水路を直進している時と同じ速度を保ったまま、差をグングンと縮めていく。
「ナニ!?」
「貴様、その状態でも話せるのか……ならば良い声を聞かせて貰おうっ!! 『漂え』!!」
軍服のポケットから鉛を取り出したアヤメ。
空気中にばら撒くと、彼女の周囲に次々と浮遊していく。
間髪入れずに第2の言葉を発する彼女。
拳銃では太刀打ち出来ない威力で打ち出された鉛達は、逃亡する男を蜂の巣にしていく。
「『飄れ』!!」
鉛によって体を打ち抜かれた男は、カエルが潰されたような声と共に、水の中へずり落ちていく。
当然、タクスス達も無傷とはいかない。
目の前で突如発生した暴風にバランスを崩す舟。
声にならない悲鳴を上げるアヤメ以外の4人は、原因を作った彼女諸共、水路の水の中へ叩きつけられていく。
大きな水飛沫を周囲の建物にまき散らす彼女達。
雨でも通り過ぎたかのように、辺りの建物は潤いに満ちていく。
「……しまった、やり過ぎた」
「ア~ヤ~メ~さぁぁぁぁぁん!! 加減って言葉知ってますか!?」
「すまんすまん……それで……他の奴らは無事か?」
水中でタクスス達3人を探すアヤメ。
幸い彼女達は、既に近くの歩道に体を這い上げていた。
……酷く息切れしているようで、決して無傷だったとは言えないが。
「無事……と言うことにしておこう。カタバミ!! 私達は、身柄の確保に移るぞ!!」
「りょ、了解!!」
今にも水路の底に引きずり込まれそうな瀕死の男。
アヤメとカタバミは、彼の両腕を片方ずつ手分けして握ると、岸へと泳ぎながら運んでいく。
力づくで陸へと上げると、アヤメによる手洗い歓迎が行われた。
「さあ、盗人君……少しお喋りしようか」
「ガ、ガウガウ……グェ!?」
「今更誤魔化すな!! ……盗んだ物は回収させてもらう。それで貴様、その体はどうした?」
「ドウシタッテ……」
「誰から改造されたんだ!? この地域で違法な人体実験が行われていると聞いてな……お前のそれは、そういう事だろう!?」
「ウゥゥゥ!!」
「さっさと吐け。隠しても無駄だぞっ!!」
「ウゥゥゥゥ!! ワ、ワカッタ………………ナンテイウカヨ、バカメ!!」
観念したかに見えた男性。
瀕死の怪我を負っている状況で、どう動こうと助からない。
それなのに、彼の目から希望の光が消えることは無い。
「あぁ!? ……何だこれは」
彼が発した言葉の意図に気が付くアヤメ。
ただ闇雲に逃げていたわけではなく、ある場所を目掛けて逃げていた彼。
タクスス達はいつの間にか、アスロンのゴーストタウンと化した区域に迷い込んでいた。
彼女達を出迎えるかのように、1匹……また1匹と、この世の生き物とは思えない姿形をした化け物達が、姿を現し歓迎していく。
様々な動物の特徴を繋ぎ合わせた嵌合体。
恐らく彼の体を改造した人間が行ったのだろう。
わざわざ案内してくれた盗人にある種の感謝をしながらも、臨戦態勢に入るアヤメ。
遅れてカタバミも周囲に目を光らせる。
「クックック……ヤロウドモ!! マヌケナヤツラヲ、ヤッテシマエ!!」




