記憶を覗く者
アムネシアと名乗る女性。
彼女の出身はエレーケス。
そう、タクススとローズが戦争を引き起こしに行く国の名前である。
唾を飲み言葉を選んでいる様子のローズ。
場合によっては味方に引き込むことで、今後の展開を大きく左右するかもしれない。
「エレーケスですか……これはこれは、遠い所から遥々と……ご苦労様ですよ」
「そ、そうでしょ? 僕、ご苦労しまくりなんだよぉ!! いつの間にか、こっちの国に島流しされてたしさぁ……散々だよぉ……」
(島流しねぇ……)
「それでそれで……アムネシア。アナタはここで何をしていたのですか?」
「それはね……ご自慢の知識を活かして、ちょっと研究してたんだよぉ。凄いんだよぉ!! 我輩の研究成果は!! 人類の100年先を先取りしているのさ!!」
一人称が初めて話した時のものに戻った彼女。
気分によって変わるのだろうか。
今のアムネシアは、強気そのものである。
「研究ですか」
「そう!! 例えばさっき我輩が追いかけていたアレ!! 空想上の生き物を生み出してみたい一心で完成させた生き物なのさ……ってああ!?」
「うるさっ……何ですか急に」
「我輩ばかりベラベラ喋っているけどぉ!! 結局、我輩が探しているアレはどこに行ったんだよぉ!?」
調子を取り戻してきたアムネシアは、突然本題に入って来た。
彼女が探しているケルベロスらしき生物は、もうこの世にいない。
正直に言っても、騒ぎになるだけだろう。
嘘を混ぜつつ、はぐらかしていく。
「ああ、それなら向こう側の茂みの奥に行きましたよ」
「……」
「どうしました?」
「怪しいんだよぉ。嘘をついてない? 勘だけどさ」
「そんなわけないでしょ」
「……ああ!!まどろっこしい!!始めから使えば良かったんだよぉ!!」
「はい?」
「記憶を『覗かせて』貰うよ!!」
コンマ0秒にも満たない時間、ローズの意識は霞がかかったようにボンヤリとなった。
再び意識がはっきりし始めると、明らかに機嫌が悪くなったアムネシアの顔が写り込んでくる。
「……いけないなぁ君達、嘘はさぁ!! 躊躇いもなく殺しているじゃないか!!」
「……」
「それに……タクスス? その背負っている子、死の言葉が使えるんだね!!」
「は? 何でこの人、タクススお姉さんのそんな事を知ってるの!? ……あ」
長い沈黙を破り、思わず反応してしまったシャガ。
彼の咄嗟の言葉で、彼女が探り出した情報は、ほぼ確定的なものとなる。
「ふふん!!子供は正直なんだよぉ!!」
「……ローズさん、何なのこれ。何であの人……」
「記憶に関する言葉ですよ。かなり珍しいですがねぇ」
舌打ちをする彼女。
まさか目の前の人間が、そんな言葉を使えるとは思っても見なかったようだ。
「はっはっはー!! そうなんだよぉ!! 我輩は凄いんだぞぉ!!」
「……アナタ、何処まで私の記憶を覗いたんですか?」
「さあね!! 教えて欲しいなら、頼み方ってものがあるんじゃないかい!? それよりも殺した賠償は……ひぃ!?」
胸を張り凄んで見せるアムネシアの首元に、片腕でタクススを担ぎ直すと、空いている方の手でナイフを突きつけるローズ。
余程見られたくない記憶を覗かれたのだろうか。
表情は変わらないが、語気がいつもより強い。
「ぼぼぼぼ、僕に何するのさ!? 君の記憶を消しちゃうんだよぉ!?」
「……その前に首を掻き斬りますよ。いやね……タクススの治療を行うために、早くアスロンの街に行きたかったのですがね。その必要がなくなりました」
「なななな、何で……?」
「アナタ、アノ生物を作り出すぐらいですから、手術なんてお手の物でしょう? 私の記憶を覗いた罰です。アナタが治療をしなさい」
「……何で僕がっ!? い、意味が分からないよぉ!! って言うか!! 僕は被害者……」
「煩い黙れ。記憶を覗いた罰です。それとも……ここで死にますか? アナタ……」
突き付けられたナイフに一段と力が込められる。
それとは別に、ローズの研ぎ澄まされた殺意もぶつけられているアムネシア。
全身真っ赤な彼女の首元からは、赤い白衣と同じ色の液体が滴れている。
「ひぃぃぃぃぃ!? すみませんでしたぁぁぁぁ!! やります!! やらせていただきます!! 無料で!! やるんだよぉ!!」
脅しに屈した彼女は、全身が震えすぎて今にも泣き出しそうになっている。
それくらい今のローズには鬼が宿っている。
威圧感で地中に埋まりそうなアムネシアにナイフを突きつけたまま、彼女の住処へと進んで行く彼女達。
最後尾でついて行くシャガは、今までの一連の流れを見て、口には出さずに心の中で呟いていた。
(ローズさんがあんなにキレてる所……俺、始めて見たよ……よっぽど知られたくない記憶がある……? のかな)




