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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
31/102

水の街・アスロン

 ぬかるんだ山道を徒歩で進む2人。

 1人は力なく眠る女性を背負い、もう1人はリュックサックを背中と体の正面にそれぞれ携えている。

 

「はっ……はっ……まだ着かないの……?」


「もうちょっとですよ。……多分」


「多分って……もう日が暮れそうなんだけどさっ!?」


 思わず天を見上げるシャガ。

 火点し頃になった橙黄色の空がコチラをじっと見つめている。


「安心しなさい。テントがあるので野宿する分には問題ありませんよ」


「くぅ……野宿かぁ……昨日はフカフカのベッドだったのに……」


「まあ、夜行性の動物に襲われる可能性があるので、気を緩めることは出来ませんがねぇ」


「……もう動物は見るのはこりごりなんだけど」


「私もですよ。出来ることなら穏便に……」


 ローズの足が止まる。

 空耳だろうか。

 落ち葉を踏む何者かの足音が聞こえて来た。

 辺りを警戒し始める彼女は、薄暗くなり始めた茂みの中を、目を凝らして注意深く探っていく。


「……何? まさかマジで出たの?」


「気のせいであって欲しいですがねぇ……どうやらお出ましですよ」


 2人が会話する間にも、足音が徐々に大きくなる。

 恐らく野良犬だろう。

 そんな彼女達の予想を、斜め上に飛び越えていく生物が現れた。

 野良犬には違いない。

 だがその首は……


「ねえローズさん。犬って首が3本もあったっけ?」


「そうですねぇ……仮にあるのでしたら、それは犬ではなくケルベロスですよ」


「そっかー……はぁ!? ケルベロス!?」


 姿を現した生物。

 それは、現実に存在しない空想上の生き物。

 いよいよ疲労で幻覚でも見てるんじゃないかと狼狽えるシャガ。

 何度目を擦っても、そこには威嚇するそれしかいない。


「俺、頭がおかしくなったのかな……変な生物が見えるし……」


「安心しなさいシャガ。アナタの頭は元からおかしいですよ」


「そうだよねー……ちょっと待って!! どういうことそれ!? ……げぇ!? 来たっ!!」


 疲れ切った脳味噌で会話を続ける2人に狙いを定めたケルベロス。

 猛獣は3つの口を大きく開き、彼女達の肉を食いちぎろうと襲い掛かる。


「『止まれ!!』……ローズさん!!」


「ではでは……『灼け』なさい」


 すかさず拘束したシャガに続いて、躊躇いもなく塵にするローズ。

 奇妙な生物は、おとぎ話の世界へ旅立っていった。


「……何だったのアレ……? えぇ……この地域、怖い」


「アスロンの周辺には来ているのですがねぇ……こんな土地でしたっけ、ここ?」


 過去に訪れた際の記憶を引きずり出してくるローズ。

 どれを思い出しても、先ほどの珍獣の姿が無い。

 

「……ちょっと待ってください。もう1個音がしませんか?」


「えぇ!? まだいるの!?」


「いや……今度は……人ですかね」


 一難去ってまた一難。

 度重なる脅威に愚痴を吐くシャガは、再び臨戦態勢を取る。

 茂みの奥底から現れた姿は、人の影をした物体であった。

 今度は幽霊か?

 そんな2人の心配は杞憂となるが、正直、杞憂になった方がマシだった事態に遭遇することになる。

 紅色に染められた、だぼだぼの白衣を身に纏う女性。

 髪もズボンも爪の色も、全てが真っ赤っかの彼女は、大袈裟に振る舞い始める。


「やあやあ君達!! 我輩のモルモットを見なかったか? ここに来ていたはずなんだよぉ!? 首が3つ付いた奴だよぉ!!」


「いいや、来ていないですね。見てもいないです」


 面倒な空気を感じ取ったのだろう。

 即答で嘘をつくローズ。

 口裏を合わせるシャガも後に続く。


「そうだね……見てないよ」


「えぇっ!? そんな筈は無いよぉ!! 我輩は見たんだよぉ!! この近くに逃げるのをさ!?本当のことを……」


「あー煩いですねぇ、ぶっ殺しますよ?」


「ひぃぃぃぃぃ!?」


 普段の言葉使いがうっかり乱れてしまうローズ。

 早くタクススに治療を施したい彼女にとって、目の前の女性は粗大ゴミ同然である。

 有無を言わさず焼いてくれようか。

 そんなことを考えていると、先程まで大袈裟かつ強気に振舞っていた彼女は、急に態度がしおらしくなる。


「な、何だよぉ……うっう、急に、怒らないでよぉ……僕が、悪かったから、さぁ……うぇぇぇぇん!!」


「えぇ……」


「あー……ローズさんが泣かした……いって!?」


 軽口を叩くシャガを躾けると、突然子供のように泣き出した彼女に困惑するローズ。

 大量の涙を流し続ける赤い生物は、未だに泣くのを辞めない。


(何ですかこの人……子供ではないですし……20代前半くらいでしょうか……いけませんねぇ。疲れが溜まっているのでしょうか)


 これは悪い夢で、本当は何処その辺で気絶しているのではないか。

 微かな希望を胸に頰をつねるローズであったが、どうやらこれは現実らしい。

 せめて目の前の人物が誰なのかハッキリさせよう。

 事態が進まない中、彼女は腫れ物に触るかのように話し始める。


「これはこれは……すみません、まずアナタはどちら様ですか?」


「うっう……ひっく……」


「……ちっ、答えて下さればこちらも正直に話しますので」


「うっう……ライラック・アムネシア……エレーケス出身のしがない科学者だよぉ……」

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