眠り続ける令嬢
人々に恵みを与える恒星が活発に動き出している。
応急手当を施し、一晩中看病していたローズとシャガは、深い眠りにつくタクススのベッドに突っ伏している。
死人のように眠る3人。
そんな彼女達の耳に、若々しい男性の声が届いて来た。
「……さん? ルマヴェスさーん!! アレ? 居ない?」
「……うぅ、何? 今の声……」
「……おやおや、客人でしょうか。シャガ、行ってきなさい」
「えぇー……俺がぁ?」
「私はタクススの警護に当たるので」
寝起きの2人は、疲労が抜けきっていない体をゆっくり動かし起床する。
頭の回っていないシャガは、言い返す気力もなく、面倒ごとを押し付けてきたローズに渋々従う。
激戦の後が残る館内を進み、入口のドアを叩く来訪者に顔を出す彼。
外には、白髪のウェーブが特徴的で、右目が隠れている男性が姿勢良く立っていた。
「はーい……誰ですか?」
「……アナタこそ誰ですか? 私、ルマヴェスさんに用があるのですが……」
人は思いもしない出来事に遭遇すると、どのような行動を執ってしまうのか。
その答えは彼らが教えてくれる。
昨晩殺害したルマヴェスの名を聞いたシャガは、動じないフリをしつつも、目線は明後日の方角を向いている。
対する彼、奴隷を届けにはるばるやって来たコルスも、依頼主以外の人間が屋敷から出てきたことで、体中から冷汗が止まらずにいた。
(ルマヴェスって……この人、あの人の知り合い!? やっべぇ……この世に居ないのにどうすんだよ)
(何だこのガキ……何でルマヴェス以外の奴が出て来てんだよ……!!)
「えっと……ルマヴェスさんは、今朝、用事があるからって言って、何処かに行っちゃったよ?」
「本当ですか? 私、お昼ごろに商品をお届けに参るとお伝えしていたのですが……」
「ほ、本当? ……まだ帰って来そうにないからさ。商品の受け取りなら俺がやっておくよ。どの商品なの? 見せて見せて」
「代わりにやると言われましても……見ず知らずの方にお渡しするのは、色々と問題あるのですが……」
(やっべぇ……あの人そんな約束してたのかよ!! 適当についた嘘の辻褄合わせどうしよう!?)
(お前にあの奴隷を見せれるわけねぇだろ!? 速攻で面倒なことになるわっ!!)
作り笑顔で会話を続ける2人。
お互いにこれ以上は時間の無駄だと察したのだろう。
ぎこちない表情のまま、強引に会話を切り上げようとする。
「……うん、分かった。ルマヴェスさんが帰ってきたら伝えておくね」
「そうですね。コチラも一旦出直しましょうかね。ルマヴェスさんによろしく言っておいてください」
物腰柔らかな態度を崩すことなく、深々とお辞儀をすると、見送るシャガに手を振りながら、馬車へと戻り帰路に就く彼。
荷台から乱暴に取り出したワインを開けると、待機していた馬に指示を出し、この場を後にしていく。
「……ぷはぁ!! ったくよぉ……ルマヴェスの野郎どこ行きやがった? 骨折り損のくたびれ儲けだよ、クソが……」
直接瓶に口を付けてラッパ飲みするコルス。
商品を渡すのは諦めて、貰うだけ貰ってバックレようか。
よこしまな事を考える彼の背中には、悲壮感が漂うのであった。
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「どうでした?」
「うん……なんか商人っぽい人が訪ねて来てた。直ぐに帰ったけど」
「商人ねぇ……分かりました。ご苦労様です」
シャガが寝室へ戻って来る間に一服済ませていたローズ。
室内には、鼻にツンと来る臭いが充満していた。
「……また吸ったの?」
「ええ、考え事をする時の必需品ですので……直ぐに次の街に行くかどうかを悩んでいるのですよ」
「次って……アスロン?」
「はい。本当なら直ぐにでも出発したいのですよ。ルマヴェスを訪ねて来る人間が増えそうなので」
「さっきみたいに?」
「そうですねぇ……そこそこ金を持っている人間が急にいなくなれば、それなりに騒ぎになるでしょうしね。……最悪、軍隊を呼ばれるかもしれませんねぇ」
「マジで? それは勘弁だよ」
「私もですよ。ただ……彼女の容態がねぇ……」
未だに目を覚まさないタクススに視線を移す彼女。
身体のあらゆる部位に巻かれた包帯は、至る所が血で滲んでいる。
「死んでないよね?」
「ええ。呼吸はしてますし、心臓も動いていますよ。……普通ならありえませんが」
「……タクススお姉さんって、不死身なの?」
「自己申告ではそうみたいですね。現にあの怪我で生きていますし……不思議なものですよ、銃弾がまだ体内に残っているのにねぇ」
治療を行っていた時の事を思い出すローズ。
軍隊で培った知識を総動員し、手際よく処置していったが、体内に残る弾丸だけは取り除くことは出来なかった。
彼女は軍人であって、医師ではないからだ。
そんな医療知識・技術に乏しいローズでも、弾丸が体内に残り続けることの危険性は十分に理解している。
しかも、重要な臓器が密集している下腹部にだ。
普通なら死んでいてもおかしくない。
彼女の体が普通なら。
「……決めました。ここを出てアスロンに向かいましょう」
「結局出発するの?」
「ええ。時間が過ぎれば、私達の今後が不利な状況になりそうなので。この街の医者に頼っても良いのですがね……軍隊と鉢合わせしたくありませんので」
「……俺達、移動手段はどうするの?」
「この屋敷の中を探して、丁度いい物を見つけましょう。なかったら……歩きですね。その時は、私がタクススを担いでいきますよ」
今後を憂いる彼女は、肺の空気を大量に吐き出す。
昨晩の探索を思い出し、十中八九歩きだろうと、頭を悩ませるのであった。




