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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
30/102

眠り続ける令嬢

 人々に恵みを与える恒星が活発に動き出している。

 応急手当を施し、一晩中看病していたローズとシャガは、深い眠りにつくタクススのベッドに突っ伏している。

 死人のように眠る3人。

 そんな彼女達の耳に、若々しい男性の声が届いて来た。


「……さん? ルマヴェスさーん!! アレ? 居ない?」


「……うぅ、何? 今の声……」


「……おやおや、客人でしょうか。シャガ、行ってきなさい」


「えぇー……俺がぁ?」


「私はタクススの警護に当たるので」


 寝起きの2人は、疲労が抜けきっていない体をゆっくり動かし起床する。

 頭の回っていないシャガは、言い返す気力もなく、面倒ごとを押し付けてきたローズに渋々従う。

 激戦の後が残る館内を進み、入口のドアを叩く来訪者に顔を出す彼。

 外には、白髪のウェーブが特徴的で、右目が隠れている男性が姿勢良く立っていた。


「はーい……誰ですか?」


「……アナタこそ誰ですか? 私、ルマヴェスさんに用があるのですが……」


 人は思いもしない出来事に遭遇すると、どのような行動を執ってしまうのか。

 その答えは彼らが教えてくれる。

 昨晩殺害したルマヴェスの名を聞いたシャガは、動じないフリをしつつも、目線は明後日の方角を向いている。

 対する彼、奴隷を届けにはるばるやって来たコルスも、依頼主以外の人間が屋敷から出てきたことで、体中から冷汗が止まらずにいた。


(ルマヴェスって……この人、あの人の知り合い!? やっべぇ……この世に居ないのにどうすんだよ)


(何だこのガキ……何でルマヴェス以外の奴が出て来てんだよ……!!)


「えっと……ルマヴェスさんは、今朝、用事があるからって言って、何処かに行っちゃったよ?」


「本当ですか? 私、お昼ごろに商品をお届けに参るとお伝えしていたのですが……」


「ほ、本当? ……まだ帰って来そうにないからさ。商品の受け取りなら俺がやっておくよ。どの商品なの? 見せて見せて」


「代わりにやると言われましても……見ず知らずの方にお渡しするのは、色々と問題あるのですが……」


(やっべぇ……あの人そんな約束してたのかよ!! 適当についた嘘の辻褄合わせどうしよう!?)


(お前にあの奴隷を見せれるわけねぇだろ!? 速攻で面倒なことになるわっ!!)


 作り笑顔で会話を続ける2人。

 お互いにこれ以上は時間の無駄だと察したのだろう。

 ぎこちない表情のまま、強引に会話を切り上げようとする。


「……うん、分かった。ルマヴェスさんが帰ってきたら伝えておくね」


「そうですね。コチラも一旦出直しましょうかね。ルマヴェスさんによろしく言っておいてください」


 物腰柔らかな態度を崩すことなく、深々とお辞儀をすると、見送るシャガに手を振りながら、馬車へと戻り帰路に就く彼。

 荷台から乱暴に取り出したワインを開けると、待機していた馬に指示を出し、この場を後にしていく。


「……ぷはぁ!! ったくよぉ……ルマヴェスの野郎どこ行きやがった? 骨折り損のくたびれ儲けだよ、クソが……」


 直接瓶に口を付けてラッパ飲みするコルス。

 商品を渡すのは諦めて、貰うだけ貰ってバックレようか。

 よこしまな事を考える彼の背中には、悲壮感が漂うのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうでした?」


「うん……なんか商人っぽい人が訪ねて来てた。直ぐに帰ったけど」


「商人ねぇ……分かりました。ご苦労様です」


 シャガが寝室へ戻って来る間に一服済ませていたローズ。

 室内には、鼻にツンと来る臭いが充満していた。


「……また吸ったの?」


「ええ、考え事をする時の必需品ですので……直ぐに次の街に行くかどうかを悩んでいるのですよ」


「次って……アスロン?」


「はい。本当なら直ぐにでも出発したいのですよ。ルマヴェスを訪ねて来る人間が増えそうなので」


「さっきみたいに?」


「そうですねぇ……そこそこ金を持っている人間が急にいなくなれば、それなりに騒ぎになるでしょうしね。……最悪、軍隊を呼ばれるかもしれませんねぇ」


「マジで? それは勘弁だよ」


「私もですよ。ただ……彼女の容態がねぇ……」


 未だに目を覚まさないタクススに視線を移す彼女。

 身体のあらゆる部位に巻かれた包帯は、至る所が血で滲んでいる。


「死んでないよね?」


「ええ。呼吸はしてますし、心臓も動いていますよ。……普通ならありえませんが」


「……タクススお姉さんって、不死身なの?」


「自己申告ではそうみたいですね。現にあの怪我で生きていますし……不思議なものですよ、銃弾がまだ体内に残っているのにねぇ」


 治療を行っていた時の事を思い出すローズ。

 軍隊で培った知識を総動員し、手際よく処置していったが、体内に残る弾丸だけは取り除くことは出来なかった。

 彼女は軍人であって、医師ではないからだ。

 そんな医療知識・技術に乏しいローズでも、弾丸が体内に残り続けることの危険性は十分に理解している。

 しかも、重要な臓器が密集している下腹部にだ。

 普通なら死んでいてもおかしくない。

 彼女の体が普通なら。


「……決めました。ここを出てアスロンに向かいましょう」


「結局出発するの?」


「ええ。時間が過ぎれば、私達の今後が不利な状況になりそうなので。この街の医者に頼っても良いのですがね……軍隊と鉢合わせしたくありませんので」


「……俺達、移動手段はどうするの?」


「この屋敷の中を探して、丁度いい物を見つけましょう。なかったら……歩きですね。その時は、私がタクススを担いでいきますよ」


 今後を憂いる彼女は、肺の空気を大量に吐き出す。

 昨晩の探索を思い出し、十中八九歩きだろうと、頭を悩ませるのであった。

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