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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
29/102

傷だらけ

 頭を過るローズの言葉。

 噛み砕いたそれを何度も咀嚼するシャガは、未確認生命体が真横を通り過ぎたかのように、彼女の顔を二度見する。


「特攻っ!? この数相手にっ!?」


「文句はタクススへとお願いしま~す」


「……タクススお姉さんっ!! 本気なの!?」


「……ええ……本気よ。シャガ君は、合図をしたら目くらましの言葉をお願いね」


「マジか……マジか!?」


 青白く光る小振りな凶器を握りしめ、獣畜達を直視するシャガ。

 彼の前に立つ女傑達は、互いに相槌を行う。


「……行きましょうか」


「ええ。道を切り開きましょう」


「……『死ね』」


「『灼けろ』」


 彼女達の目的はただ1つ。

 姿を隠したルマヴェスへの最短経路を作り出すこと。

 傀儡と化した獣達に、優しさの欠片もない言葉をかける2人。

 糸が切れたように地面に倒れ、煤の臭いを発する数多の魑魅。

 顔を出したエントランスの顔を踏みつけ、怪鳥のベールを破りにかかるタクスス達。


「……やれやれ、僕には理解できないな。君たちの行動が」


 危機が迫ってきているにも関わらず、以前として心を乱さないルマヴェス。

 それもそうだろう。

 彼は言葉だけには頼らない。

 地位と金、それらによって構築された独自のネットワークにより、あらゆるものを手に入れる彼は、いざという時のために、当然のように武装をしている。

 街中では気軽に出すことが出来ない()()を、懐から取り出すと、飛び交う飼鳥に構わず銃口から幾多の弾丸を発砲する。

 技量は素人同然だが、的が自分から近づいて来ている現状、普段よりも格段に当たりやすくなっており、数発の銃弾の内の1つがタクススの下腹部に赤い穴を開けた。

 体内に留まった弾丸は、周囲の臓器を引き裂き、死んだ方がマシな程の激痛を味わわせている。

 小さな呻き声と共に、膝を付くタクスス。

 血の臭いに誘われて、猛獣達が襲い掛かって行く。


「……シャガ、君……お願い」


「分かった!! 『輝け』!!」


 今にも肉を食いちぎられそうなタクススの合図により、影を打ち払う眩い閃光が洋館内に広がる。

 これから何が起きるのか認知している彼女達と違い、瞼を開ききっていたルマヴェス達の視界は、真っ白なキャンバスで埋め尽くされていく。


「ぐぅ……これくらいで……!! みんなの嗅覚を甘く見ないでもらおうか!!」


 目を擦り必死に視界の色を取り戻そうとする彼。

 動物たちも一瞬たじろいだが、人よりも格段に発達している優れた嗅覚により、タクススとシャガの居場所を正確に突き止める。

 捌ききることの出来ない物量が彼女達を襲い、シャガを庇うように抱きしめるタクススは、体全体を噛みつかれていく。

 彼女の白いワンピースは、ワインを浴びたかのように赤く変色しており、血の海が床に出来ている。

 喉が潰れそうな悲鳴を発する彼女。

 その声を聞いたルマヴェスは、勝ちを確信する。


「酷い声だ……このような結果になってしまって残念だよ……可哀そうに」


「本当ですよ。愛しのタクススを傷つけたからには、覚悟していただきますよ?」


「……は? 何故お前がここに!? 僕の飼い犬達は、なぜお前を襲っていないっ!?」


 視界を取り戻したルマヴェスの目の前に現れるローズ。

 多少の切り傷を負ってはいるが、周囲の猛獣達の大多数が彼女だけを無視したかのように、大怪我を負っている様子はない。

 

「いや~愛煙家の私は、相当動物に嫌われていましたからねぇ……ニコチンに理解が無い方々で助かりましたよ」


 シャガが周囲を照らす言葉を使った後、ひたすら目の前の生物を焼き払いながら進んできたローズ。

 タクススの助言通り、煙草の臭いが嫌と言うほど体に染みついている彼女に、嗅覚便りの動物たちは殆ど寄って来なかった。

 

「ぐぅ……!! 貴様ぁ!!」


「おやおや? 言葉が荒くなりましたよ、アナタ」


 拳銃を握りしめる彼の右手に力が入る。

 だが、それは引き金を引き抜くことが出来ず、銃や飼い犬、はたまた人の肌でもない、冷え切ったエントランスの床を触ることになってしまった。


「……っ!! 私の、右手……がぁぁぁぁぁ!? この……外道がぁぁぁ!!」


「やれやれ、外道はお互い様ですよ……『灼け』死になさい」


 血がへばりついたナイフを収めながら、命を刈り取るローズ。

 地獄の業火に焼かれた彼がこの世から消えると、周囲の猛獣達は理性を取り戻し、1匹また1匹と大人しくなっていく。


「タクスス!! 生きていますね!?」


 本来の姿を取り戻した獣達は、ローズの大声に反応し、一目散に散らばって行く。

 戦いが終わったにも関わらず、以前として蹲るタクスス。

 幸い生きているようだが、いつ失血死してもおかしくない血の量が確認できる。


「タクススお姉さん!! ちょ、これヤバいよ!?」


「……だ、だい、じょうぶ……ただ……ちょっと、やすむ……ね……」


「いやいやいや、死んじゃうってこれ!! ローズさん!!」


「静かに!! ……傷を焼きますよ、今すぐに」


 常に冷静なローズは珍しく狼狽える。

 それもそのはず。

 本来なら拳銃で撃たれただけでも死に直結する大怪我になる。

 それに加えて、鋭利な牙によって幾つもの穴が色白の肌に出来ている現状、生きているのが不思議な状況なのである。


(彼女が自己申告で死なないと言っていたので、それを信じてみましたが……本当に大丈夫なのですよね? これ……)


 俄には信じがたい彼女の言葉を信じるしかないローズ。

 気絶した彼女を抱え、怪我の手当てを行いに寝室へと急ぐのであった……

  

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