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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
27/102

招かれざる災い

 入浴を済ませた3人は、寝室で時間を潰していた。

 ソファに背中を預け、衣服に付いた毛玉を取るタクスス。

 ベッドに大の字になり体を休ませるシャガ。

 室内で煙草を吸い続けるローズ……

 口から吐いた煙が、室内に薄い雲を作り出すほど際限なく吸い続ける彼女に、タクスス達は苦言を呈し始める。


「……あの……ローズさん」


「はいはい? 何でしょう」


「……ちょっと……煙草吸い過ぎじゃないですか……?」


「そうだよ!! ってか何で室内で吸ってんだよ、外で吸えよ!!」


「雨が横殴りになってきたのですよ。外ではおちおち吸えたものではありません」


「うぅヤニ臭い……せっかく風呂に入ったのに……俺、病気になっちゃうよ!?」


「ふっ……この程度、何の悪影響も引き起こしませんよ。安心してください。全細胞に行き届いたニコチンは、癌にも効きますよ。きっと」


 禁煙する気のないローズ。

 シャガを煙に巻きながら、煙草を短くしていく。


「この洋館に人って居ましたっけ?」


 脈絡もなく会話を切り出した煙を吸う彼女。

 返答に困る2人は、記憶を頼りに言葉を絞り出す。


「……人……ですか?」


「ルマヴェスのおじさん以外に居なかったよね?」


「……そうね……多分……」


「そうですかそうですか。さっき外で煙草を吸ってる時に、人の呻き声が聞こえてきたのですよ。聞き間違いでしょうかねぇ」


「それ幽霊じゃないの?」


「まさか」


「……探して見ます? その発生源……」


 ふと提案をしてみたタクスス。

 軽い気持ちで言ってみたのだか、乗り気になってしまったローズとシャガは、上着を羽織ると探索の準備に取り掛かる。

 今更無しとは言えない、言い出しっぺのタクススも、白いワンピースの上に、乾いた墨のようなローブを羽織る。

 支度を終えた彼女達は、ローズの記憶を頼りに謎の呻き声を探しに行く。

 一つ一つ虱潰しに探索する3人。

 誰の目にも明らかに不自然に映る場所が現れるのは、出発してから30分後。

 流し見では見落としてしまう、2階へと続く階段の影にある扉。

 地下へと続いているのだろうか。

 目の前の扉だけが、鉄で出来た頑丈な作りをしている。

 まるで逃がしたくない何かを閉じ込めるために。


「……ローズさん、これ……」


「怪しいですねぇ、凄く」


「猛獣でもいるのかな」


 不気味な魅力に手招きされるまま、扉を開け地下へと続く階段を進んでいく3人。

 壁にかかるロウソクの光が、じっとりとした空気を演出している。

 地下へ進むにつれ、呻き声が大きくなってきた。

 ローズが聞いた謎の声。

 その正体が幽霊なら、まだマシだったであろう。


「……人間……なの?アレ……」


 かつてタクススが連れていかれた、地下牢獄のような場所。

 衛生観念を殴り捨てたようなこの場所に、鎖に繋がれ助けを求めているような数人の奴隷が横たわっていた。

 歯を全て抜かれ、上手く話せずにいる奴隷達は、酷く衰弱しており、飢餓の影響か腹だけがポッコリと膨らんでいる。

 ある奴隷は幻覚でも見ているかのように錯乱し、またある奴隷は、右足を根本からナタのような物で切り落とされている。


「何だよこれ……」


「奴隷の収容所でしょうかねぇ。これはこれは中々の物で……」


「……そう……ですね……うぅっ……」


「タクスス、大丈夫ですか? 顔色が……」


 かつて毒殺された場所と酷似しているこの場所。

 未だ忘れることか出来ないあの出来事は、タクススに消えぬトラウマを呼び起こす。

 胃の中の物が逆流するような感覚に襲われる彼女。

 口に手を当て、必死に抑え込んでいる。


「……すみません。この場所……はっ……むか、えぇ……」


「シャガ、戻りますよ」


「う、うん!!」


 異変をいち早く察知したローズ。

 タクススに肩を貸すと、すぐさま引き返そうとする。


「……まっ……で……」


 足を止めざるを得ない声。

 瀕死の奴隷達が力を振り絞って、同じ言葉を訴えかけてくる。


「ご…ろじ……て……ご…ろじ……て……」


「これ……」


「シャガ、足を止めずに行きますよ」


「でも……!!」


「……『死んで』下さい」


 虚ろな目で奴隷の方向を振り向くタクスス。

 弱々しい声で彼、彼女達の人生に終わりを告げさせる。


「あ…り……がど……」


「アイ……ツ……をころ……」


 苦痛から解放されていく奴隷達。

 切れ切れになりながらも、タクスス達に言葉を託す。

 ピクリとも動かなくなった独房に、静寂が流れ始める。


「タクスス、あまり無理をしない方が……」


「……気にしなくて大丈夫です……」


「分かりました。直ぐに地上へ運びますので、もう少し我慢を」


 狭い通路に息を反響させ、出口を目指す3人。

 走っている最中、時々体をビクッと震わせるタクスス。

 鮮明に体が、過去の出来事を覚えているのだろう。

 地下から離れても離れても、一向に治る気配がない。


(横にさせたいですね……エントランスに着きましたし、早く寝室へ……!?)


「……僕の秘密を知っちゃったね」


 階段を駆け上がった彼女達。

 体を休ませたいローズの目論見は、早くも挫かれた。

 飼い犬を引き連れ、待ち構えていたルマヴェスによって……

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