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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
22/102

遺言

 永遠とも思える数時間の逃走劇が幕を下ろす。

 肩で息をするタクスス達。

 一心不乱に進んだ結果、アウレラの街から離れた山岳地帯へとたどり着いていた。

 背負っていた荷物を下ろし、地面に腰を下ろす面々。

 アドレナリンが切れたのだろうか。

 疲れがどっと押し寄せ、息が整うまでそれなりの時間を必要とした。


「……こ、ここまで、来れば……大丈夫でしょうか……」


「ですかねぇ……ふぅー久々に疲れましたよ」


「はっ……はっ……はっ……お、俺も……」


「この場所は……どうやらアウレラではありませんねぇ……街の外に出ちゃいましたか」


「……これだけ走れば……そうなりますよ……げっほげほ」


「大丈夫ですか? ……はい、水です」


「……い、今は要らないです……」


「顔面蒼白なのにですか? 脱水症状で倒れると困りますよ。どれ、私が口移しで……」


「……じ、自分で、飲みます……」


 差し出された水筒を受け取るタクスス。

 他のメンバーも、各々休息を取っている。

 そんな中、胸を撫で下ろす面々のとは対照的に、シャガ1人だけが浮かない表情をしている。


「……お父さん」


「おやおや、今更心配をしているのですか? ストレートに言いますが、今頃は死んでいるんじゃないですか? あそこまで本気で戦っているのなら」


「……ローズさん、少し言い過ぎじゃ……?」


「いや、良いんだ、タクススお姉さん。多分その通りだからさ」


「ほうほう?」


 周囲にいた山賊の感情に熱が帯び、ローズに抗議の眼を向ける中、シャガ1人は冷静に言葉を発する。

 てっきり逆上でもするのだろうと考えていた彼女は、肩透かしを食らった。


「あの人達が只者ではないってくらい分かるよ」


「そりゃ~1人、私より階級が2階級上の人がいますからねぇ」


「……そうなると、そうだね……お父さんがいつも言っていた言葉通り動かなくちゃね」


 下を俯いていたシャガは、山賊達の方を向きなおすと、何かを決心したような表情になる。

 それを見た山賊達もまた、何かを察したのだろう。

 表情が一段と険しくなる。

 

「皆、分かっていると思うけど、俺達は今日限りを持って解散するよ。これからは……真っ当に生きて。償えると思えないけど、今までの罪を償って生きてね。それがお父さんの遺言だから」


 日々クシノヤから言われていた言葉なのだろう。

 山賊達もこれといった反論がない。

 ただ……解散することになるとは思ってもいなかった。

 現実を素直に受け止めきれない。

 彼ら山賊達は無言で訴えかけている。


「……ちょっと外すね」


 重苦しい沈黙を破ったシャガは、何処かへと歩きだす。

 1人で逸れるのは危険と判断したのだろう。

 普段よりも一層小さな背中の彼を追って、タクススは進みだす。

 止めようかどうか迷ったローズであったが、これからやることがあるので、何も言わずに黙っている。

 口を開かないまま、当てもなく歩くタクススとシャガ。

 先に開いたのは、弱弱しい口ぶりになったシャガからであった。


「なんか……ゴメンね、俺達のゴタゴタに巻き込んじゃって……」


「……いや……私達が勝手にシャガ君達に会いに行った結果だから……自業自得だね……」


「自業自得か……」


 今まで貴族相手に行って来た、数々の悪行を思い出しているシャガ。

 自業自得とは言え、あんな連中に今までの平穏を乱されたことに、納得していない様子である。

 彼は言葉を紡ぐ。


「俺の母さんさ、ブリダンって港街に住んでるんだよね。知ってる? この街」


「……ええ……貿易が盛んで……私達が今目指している場所だね」


「そう……お父さんが軍人を辞めた時に離婚してね。それからは、その街に住んでるんだって」


「……お母さんの元へ行くの?」


「そうだね……他に行く当てもないし……ねえ、タクススお姉さん」


「……何?」


「お姉さん達もブリダンに行くんだよね?」


「……ええ。そこから船に乗って対岸国に行く予定だわ」


「……もしよかったらさ、ブリダンまで俺も一緒に行っていい?」


「……え?」


「ここから1人で行くのは……結構危険そうだからね。お姉さんたちが居るなら心強いよ」


「……私は良いけど……ローズさんが何て言うか……」


「無理にとは言わないよ」


「……」


 ガラスのように脆く儚い空気纏うシャガ。

 ステラ家で亡霊のように生きていた、あの時間と同じ空気。

 自身が悪かったとはいえ、貴族に人生を壊された者同士、嫌と言うほど彼の心は理解できるものであった。

 タクススはシャガを無言で引き寄せ、強く抱きしめる。


「ちょ!? タクススお姉さん!?」


「……貴族なんて皆、死んじゃえば良いのにね」


「……そう、だね……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 タクスス達が居なくなって数分後、山賊達は今後の方針について話し合っていた。

 その会話へ参加するローズ。

 彼女もまた、彼らに話したいことがあるようだ。


「どもども皆さん。これからの予定についてのお話ですか?」


「ああ。クシノヤさんの遺言には従わないとな。 ……納得はしないけどよ」


「そうですかそうですか。 ……あー1個質問良いですか?」


「ん? 何だ?」


「私の名前って分かります?」


「名前? さっき、顔に傷のある女が言っていた、ローズじゃないのか?」


「そうですかそうですか……知ってしまったのなら仕方がないですね。皆さん『灼けて』頂きましょう」


「……は? おい、ちょ!!」


 彼女は問答無用で目の前の山賊達全員を焼殺していく。

 塵となった彼らを思い浮かべながら、煙草を取り出し火を点ける彼女。

 一仕事終えた後は格別なようだ。


「口封じ完了っと……途中、アウレラで捕まった山賊達は仕方がない。口を割らないように願いましょう。いやはや……灼く言葉を使えるのが、この国で私しかいないって言うのも考え物ですねぇ。火力を見れば速攻でバレますし……トラブルが起きるのは刺激があって面白いのですがねぇ」


 濃厚な煙を味わいながら、ローズは1人、不気味な笑みを浮かべていた。

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