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死へと誘う転生令嬢  作者: ✰✰✰死語遣いのサンシロウ✰✰✰
イルドアラン編
13/102

迫りくる影

 虫のさざめきが夜の湖を支配する。

 人気のないほとりを一歩一歩踏みしめる2人。

 折れた大木を見つけると、背負っていた荷物を地面へと置き、そこへ腰を下ろしていく。


「この辺なんてどうでしょう。一息つけそうですよ」


「……そうですね」


「いや~偶然見つけたのですがね、中々いい景色ですよここ。……煙草吸いますね」


「……どうぞ」


 タクススへ一言声を掛けると、煙草を口に咥え火を付ける彼女。

 煙を肺へと送り込み、タールの濃厚な味を楽しむ。


「ふー……この景色を見ていると思い出しますねぇ~駆け出しの頃を。キャンプで似たような光景を見ていましたよ」


「……駆け出しって……軍人のですか?」


「ええ。みっちり扱かれましたね~まあ……今となっては、ギラついた面白い時間でしたよ」


 感傷に浸る彼女。

 煙草の火を大地へと落としながら、会話を続ける。


「ハゲ頭に堅物な男、チャラいオヤジに毎度構って来る女……次に会う時は、敵になっているかもしれない……ふっふふ……人生何が起こるか分かりませんねぇ」


「……良いんですか? 仲間だったんでしょ?」


「良いんですよ。元々軍隊には、合法的に人殺しが出来そうだから入隊しただけなので。これ言いましたっけ?」


「……多分……言っていないと思いますよ……数日前に会ってから1回も」


「そうですかそうですか。いや~あの時は舞い上がっていたのでねぇ私……大して話もせず、申し訳ないですよ」


「……本当です……いきなり遭遇して戦争を起こそうなんて……頭おかしいですよアナタ」


「よく言われます。まあ、気にしたら負けですよ」


「……はぁ……」


「そうですね……折角ですから、タクススの昔話でも聞きたいですね」


「……あまり話したくないです」


「無理にとは言いません」


「……色々言われて育ちました。言葉の力が使えなかったから」


「色々?」


「……期待の言葉、感謝の言葉、失望の言葉、批判の言葉……最後は何も言われなくなりましたけどね」


「ほうほう」


「……今でも頭の中で声が聞こえてきます。それ以外の……私がこの世界に生まれる前の声も……煩いんですよね……皆いなくなれば、この声が静かになるかもしれない。だから私はアナタに協力してるんです……」


 湖を眺めつつ、儚げに呟くタクスス。

 長い年月をかけて壊れてしまった彼女を、ローズは優しく抱きしめる。


「……!? 何ですかローズさん、急に……!! 煙草臭いですよ……」


「そんなタクススからは肉の匂いがしますねぇ……ステーキでも食べました?」


「……うぅ……そうですけど……何ですか、またセクハラですか?」


「ふっふふ……そうですねー……はみ出し者同士、がんばろーのハグとか?」


「……意味が分かりません」


 定期的に抱き付かれてきたタクスス。

 ここまでハッキリと人の温もりを感じたのはいつぶりだろか。

 始めこそ拒絶していた彼女だったが、今ではこの時間も悪くない。

 そう思えるものになってきていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「テッセンちゃ~ん、まだ着かないの~? もう夜だぜ? 俺、野宿とかしたくないよ!?」


「ちょ、気が散るんで静かにしてください!! プロテアさん!!」


「プロテア()()!! プライベートでは良いけどさ~? 今は仕事中だから!! そこんとこよろしく!!」


 タクスス達が寝静まった頃、アウレラへ近づく幾つもの軍用車両が群れを成していた。

 その先頭を突き進む車両内では、顎髭を奇麗に整えた金髪の男性プロテアと、ハンドルを握り車の操縦に勤しむ赤毛のテッセンが車両内で揉めていた。

 彼らの白い軍服は、暫く洗っていないかのように、薄黒く汚れている。


「……元はと言えば、街中で女を引っ掛けてたのが悪いんですよ!? プロテア大佐!!」


「あぁ~? しょうがないだろ、気が乗らないんだからよ。女の子とイチャイチャしね~と、やる気なんて出ねーよ!! あっ……煙草いる?」


「……じゃあ、一本頂きます」


 差し出された煙草ケースの中から一本取り出し、口へと運ぶテッセン。

 プロテアのライターの火に顔を近づけると、車両内には白煙が蔓延する。

 

「はぁ~任務サボろっかな……」


「……サボったら上にチクりますからね?」


「へいへーいっと……違法飼育を行っている名家への調査と、山賊達の確保ねぇ……何でいっぺんに2つも仕事を割り振るかねぇ?」


「しょうがないっすよ、人がいないんですし」


「ビバ✰人手不足ねぇ……嫌な世の中だよ、全く……」


 背もたれに深く腰を落とし、気だるそうに窓の外の景色を眺めるプロテア。

 野宿か車内泊か。

 確実に今夜は宿泊施設に泊まれないと察する彼。

 その憂さ晴らしに、後部座席に置いてある、常温まで温くなった缶ビールに手を伸ばした。


「やってられね~や」

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