9.リリシェラの悪巧み
俺は悩んでいた。
リリシェラはミューリナのブラコンに気付いている。それは間違いない。
知っていながらの行動が理解できないのだ。ミューリナのブラコンを煽るような事をする割には、近付き過ぎないよう牽制もする。
果たしてその真意は何処にあるのか、と。
「なんで、ミューリナを変にけしかけたりしてるんだ?」
考えても分からないので、直接本人に聞いてみる事にした。
「それは彼女が……」
「ブラコンなのは知ってる。それだけじゃなくて、時々牽制してるだろ?」
「何でだと思う?」
リリシェラは俺の顔も見ずに聞き返した。
こういう反応をするのは、理紗にとって都合が悪い質問をされた時だ。そこは前世から変わらない。
「……分からないなら、もう少し考えてみたら?」
横顔で分かりにくいが、半分怒っているように見える。これ以上を聞いても無駄だという事は、兄として《《知っている》》。
ならば、ミューリナに聞いてみようと思い立ったのだが。
「兄様に《《誰も》》寄せ付けたくないから、ではないですか?」
「ん……?」
「リリシェラ姉様が近くに居るときはご自身で追い払えますが、それ以外のときに、私を代役にしようという考えなのではないかと……」
論理だてて考えているのだろうか。俺より年下の割には、考えている事が大人びている気がしてならない。
「何でそんな事を……?」
「それは兄様がやっている事と同じなのでは?」
兄であった俺が、変な相手に引っ掛からないようにしているって事か?
確かに前世でも理紗が似たような事をやっていた気がする。理紗の友達が俺に言い寄って来そうになる度に、潰しにかかっていたな。
「なるほど」
今ひとつ腑に落ちないが、何となく納得した。
「何か兄様、勘ち……」
「ああ、有難う。教えてくれた礼にミューリナが行きたがってた店についていってやるよ」
「本当ですか!! それはデートのお誘いですね!」
目を輝かせ、舞い上がる。そのまま踊りだしそうな雰囲気だ。
「いや待て、兄妹で行くんだ。デートじゃないだろ……」
って、もう聞いて無いな。
翌日、ミューリナにベタベタと貼り付かれながら出かける事になったのだが……。
街中の視線が「仲の良い兄妹ね」という暖かいものではなく、かなり痛いものだったので、今後は軽はずみな約束は避けようと心に誓った。
とにかく、リリシェラが俺に寄って来る「悪い虫」の駆除に動いているという事は分かった。だが、それでは俺の「美人の幼馴染恋人化計画」が遠のいてしまう。
幼馴染ゲットチャンスのお年頃は、もう間もなく終わってしまうではないか。兄想いな妹というのは嬉しいが、俺の計画の邪魔になるのは困る。
何とか解決の糸口を掴まねば!
……と思ってたのが半年前。
何の糸口も掴めていないまま、学舎も二年目となった。
変わったこと、といえば一年目は様子見だった親達が、積極的に子供達を入学させ始めたということ。
新しい生徒が増え、それに伴ってクラス割りも行われた。
今まで知らなかった子供達と接点を持つことができ、ようやく可愛い幼馴染を探せるぜ。チャンスだ!
……と、いう夢は儚い。
「私の席、ユーキアの隣だって」
な・ん・で・だ?
掲示された席割を見て、にやりと笑うリリシェラ。怖いお目付け役がそんな近くに居たら、俺の計画が台無しになるじゃないか!
「どうしてお前が俺の隣なんだ?」
「あら? こんな美少女が隣だっていうのに、何が不満なわけ?」
それを自分で言うか? と言いたいところだが、口にすればややこしくなるので黙っておこう。
しかし、こいつは元兄を何だと思っているのだろうか。
「お前が横に居たら、俺の……」
「俺の……?」
「いや、何でも無い」
下手に計画を口にすれば、きっと妨害される。
うん、大丈夫さ、リリシェラとミューリナの監視をかい潜って、可愛い娘を捕まえるのだ!
「私の『許婚』になるかもしれない人なんだから、ちゃんと『恋人』らしくして貰わないと困るわぁ」
「あれ、その話、真に受けちゃってたりする……?」
「んん……?」
何だろう、その圧力は。
いや、寄って来る男が邪魔だから、そういう事にしておこうっていう、偽装じゃなかったっけ? また俺を振り回そうと悪戯してるのか?
「あんまり変な事しようとすると、ミューリナちゃんに言いつけちゃうよ?」
「え……? あ……?」
なに、共同戦線張ってるの? 妹共はどうしても俺を振り回したいみたいだな。
だが、俺は負けんぞ!