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7.自分への言い訳、他人への言い訳

 ミューリナの事が気にならないと言えば嘘になる。

 いや、寄って来る虫は払い除けたいという気持ちもある。だが、つい先日「将来結婚する」などと言われているのに、そのような行動に出てしまえば、了承したも同然になってしまう。

 ちらちらと俺を見るリリシェラの視線が「行くの? 行かないの?」と聞いているようにも見える。

 ええ、行きませんとも。兄は妹を信用しているのであります! ……そういう事にしておこう、と自分に言い聞かせた。


 翌日以降、勉強が始まった。

 文字は覚えているし、基礎的なものは分かる。計算なんかは小学生レベルなので、全く問題が無い。

 重要なのは、科学の発展具合とか、この世の中の仕組みだ。

 何故重要なのかというと、それは過去にリリシェラとの約束に起因する。


 約束、それは前世の知識を利用して、現在の文化水準や科学技術を超えたもの、要はオーバーテクノロジーになるものを生み出さない、というもの。

 そこに手を出せば、途方も無い財を手にすることだってできるかもしれない。けれど、世界のバランスを変えてしまう可能性も有るし、その知識を利用しようとする者や、命を狙う者だって出てくる。借り物の知識をひけらかしても良いことは無い。

 今世では血は繋がっていないが、やはり大事な妹だという思いが強い。前世では事故で全う出来なかった命だ。だからこそ危険な目には遭って欲しくないし、幸せに生きて欲しい。

 普通の生活ができる、それで十分なんじゃないかと話し合った結果なのだ。


 授業を受けていて分かったのが、ここは中世中期から後期あたりのヨーロッパあたりの文化レベルに相当するようだ。

 銃などは一般には知られておらず、まだ剣や弓が主流となっている。魔法に近い非科学的な現象も有るとの事だが、誰もが使えるようなものでは無いらしい。


 色々と不便な事は多いが、身の回りのことを楽にしようと、今ある技術をほんの一段階上げたいと考えたとしよう。そんな何気なく作った物がオーバーテクノロジーだったというのは、笑えない冗談でしかない。

 なので、俺も彼女も、そういった知識を得るための授業は非常に真面目に受けている。


 授業中、ちらりとリリシェラを見ると、普段とは違う真剣な表情をしていた。その横顔に思わずドキリとする。

 中身が元妹だと分かっていても、美少女とは恐ろしいものだ。

 俺はロリコン趣味じゃないつもりだ。それでもつい見とれる程なのだから、男共が寄って来るのも良く分かる。

 ふと気になって周囲を見ると、何人かがリリシェラを見て鼻の下を伸ばしている。

 うん、気持ちは分かるけどな、許さんぞ。追い払っておかねば。



 半年も経つと、リリシェラは学校でのアイドルのような存在になっていた。

 容姿端麗、成績優秀、運動もこなす、外面も良い。傍目には非の打ち所が無い完璧な存在に見えるらしい。実際はあの中にしたたかな小悪魔が居るのだが、誰も知らないのだから無理もない。


「ユーキア、帰ろう」

 授業が終わると、リリシェラと帰りはほぼ一緒。ミューリナとは時間が違う場合が多いので、三人で帰るということはほぼ無い。

 リリシェラも他の女子生徒と一緒に帰ればいいのに、何故かそうしない。

「なんで友達と帰らないんだ?」

 俺はそう尋ねたことがある。それに対するリリシェラの解答は、非常に納得できるものだった。

「だってみんなお子様なんだもん」

 そりゃそうですよね。中身は高校生なんですから。

 いや、そう考えると男ってのは何時までも子供なんだな。俺は同年代と遊んでいても楽しいんだから。

 周りからも二人の仲の良さは認知されているようで、男共からリリシェラとの間柄を妬まれる事がしばしば有る。だが、「アレの中身は妹だから」と言う訳にもいかず、いつも返答に困っていた。


「いいじゃん、恋人ですって言っておけば」

 解決方法について相談した時の、彼女の答えがこれだ。そのあまりにあっけらかんとした態度に、俺も困惑した。

「確かに面倒事は無くなりそうだが……それでいいのか?」

「んー。……ちゅーしてあげたでしょ?」

 左様で御座いますか……って、あれ挨拶じゃなかったのかよ?

 俺がため息をつくと、可愛い小悪魔はふふっと笑った。


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