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12.まさかの

「何? どうした?」

 ミューリナが何か変な物でも作っていて、食材を無駄にしたのだろうか。俺は慌てて台所へ向かった。


 包丁を持つミューリナの目に前にあった物。それは、白く平べったく薄いもの、更にその脇には上手に切り揃えられた麺らしき物がある。

「何が問題なん……」

 リリシェラが俺の顔を見て制止するように首を振る。

 そう、この世界、いや少なくともこの地域には、麺などという物は存在しない。

「ミューリナ、それは元の家に居るときに見たことのある物か?」

 分かっていて聞く。当時の年齢で食べた事が有ったとしても、作り方が分かるとも思えない。ミューリナは首を振って、手を止めた。そして明らかに「しまった」という顔をする。


「ミューリナ、何を作っている? こんな料理を知っていたのか、それとも自分で考えたのか?」

 ミューリナはうつむき、押し黙ったまま答えない。


「ミューリナちゃん、これが何だか《《知っている》》の?」

 目の前にある物。それはリリシェラも俺も、知っている食べ物だ。鍋からも良い匂いがしている。鍋の中身は先程リリシェラが持ってきた野菜、地球でいうトマトとナスの類似品を煮たもの。

 それらから導き出される答え、ミューリナが作ろうとしているのは恐らくパスタ。

 転生してから食べていない久々の料理だけに、よだれが出そうになるが……。


「……ごめんなさい、兄様、リリシェラ姉様……。私、黙っていた事があります……」

 俺にはその先の言葉が恐らく分かっている。ちらりと俺と視線を合わせたリリシェラも、きっと同じはずだ。目の前にあるのは、生まれる前に見た料理。生まれる前に知った作り方。だから……。

「信じてもらえないかもしれませんが、私は……、生まれる前の……前に生きていたときの記憶があります」

 ああ、分かっている。

 手を伸ばし、震えるリリシェラの手をミューリナに気付かれぬよう静かに握る。握り返されたその手から、伝わってくるものは驚き、そして……。

「記憶?」

 あえてリリシェラは聞き返した。

 《《それ》》が自分達と同じものであろう、と分かっているのかもしれない。

「私は『新崎美里菜』という名前で別の世界にで生きていました。この料理はその時の記憶で……」

 ミューリナの言葉を聞いて、リリシェラの手の震えが大きくなり、ぐっと力が入る。そう、その名前の人物は『由基弥』も『理紗』も知っているのだ。


『ミリちゃん、なんだ……』

「リリシェラ姉様、何でその名前を……。いえ、何でその言葉を……」

 ミューリナの問いに、リリシェラは手を強く握ったまま、俺の顔を見る。そんな彼女に、おれは黙って頷いた。

『私は理紗、こっちはお兄ちゃんの由基弥だよ』

「え……!」

 そのままミューリナは絶句した。


 反応を見て得心がいった。

 彼女は俺達兄妹の幼馴染で、理紗と良く遊んでいたの女の子だった、ということだ。理紗のひとつ年下で、俺にとってももう一人の妹のような存在だった。

『二人はバス事故で無くなったって伝え聞いてて……』

 彼女は小学校卒業と同時に親の都合で引っ越してしまい、ほとんど顔を合わせる事も無くなり、たまに連絡を取り合う程度になっていた。だから俺達が死んだ事も、後になってから親から聞いたのかもしれない。

『俺達はそのままこっちに生まれ変わったみたいなんだ』

『だから、二人の誕生日は一緒なのかもね』

 俺の手を握りなおすと、リリシェラは苦笑いした。

 ふと、俺の中に疑問が浮かぶ。

『けど、みーちゃんがここに居るってことは……』

『はい、私はお二人が亡くなった翌年に白血病で……』

 病気だとは聞いていたが、まさかその若さで死ぬ事になるとは想像だにしていなかった。


『私とお兄ちゃんはいいとして、ミリちゃんまで……。すごい偶然だね』

『私が死ぬ間際に、お二人と過ごした日々を想い出していたから……。あの頃に戻りたいって願ってたからかもしれません』

 ミューリナの頬を涙が伝う。

 その瞬間、俺の手を握っていたリリシェラの手が緩んだ。その意図を察し、俺も手を放す。直後に、彼女はミューリナに飛びつくように抱きついた。


「うん、これからも一緒だからね、改めてよろしくね」

 リリシェラの目にも涙が浮かんでいるようにも見えた。

 そしてその言葉の後、彼女がミューリナの耳元で何かを囁いたように見えたが、俺には聞こえなかった。


 リリシェラにミューリナ。何か不思議なものを感じるな、運命の糸なんだろうか。これが「縁」というものなんだろうか。


 シエスは……違うよな?


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