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1.何が何だかさっぱり

 身体が上手く動かない。ああ、やっぱり、あの怪我のせいか……。

 あれ、俺の手、赤ん坊みたいだ。

 え、なに、どういうこと?

 おかしい……。俺は確かあの時……。

 俺は混乱しつつも、必死に記憶を手繰り寄せる。


 俺の名前は大山(おおやま)由基弥(ゆきや)

 高校最後の夏休みを終えようという日、俺は妹の理紗りさと駅まで買い物に出掛けていた。

 正確に言うなら、妹の買い物に付き合わされた荷物持ちだ。

 兄妹仲が悪くないが、こういうのは彼氏の仕事なんじゃないかと思う。そうは思っても、口に出せば妹の鉄拳が飛んでくるに違いない。下手をすれば、それ以降口を利いてくれなくなる可能性もあり、面倒事を避けるには結局付き合ってやるのが一番とは分かっているのだが。

「どうせ、彼女居ないんだから、可愛い妹を連れて歩いたら?」

 とか余計な事を言いやがったので、一度は「嫌だ」と言ったのだが、押し切られた格好になった。


 買い物を終え、荷物を抱えて帰りのバスに乗り込む。

 バスが走り出して間もなく。交差点を通過しようとしていた時だった。俺は我が目を疑った。赤信号であるはずの右側から、減速もせずに大型トレーラーが突っ込んできたのだ。

「危ねぇ!」

「え、なに?」

 理紗に呼びかけたが意味を成さなかった。直後、激しい音を立ててトレーラーはバス側面に突っ込み、その勢いでバスは一瞬宙に浮くと横転し、地面に叩きつけられた。

「ぐぁ!」

 椅子から放り出されたあと、全身を叩き付けられ、悲鳴をあげる。

 体を動かそうとするが、全身に痛みが走り、どこにも力が入らない。


 妹は無事だろうか? 確認したいが、もう首さえも動かない。ほんの僅かに動いた視界の端に、妹の姿が映った。

「り……さ……」

 手も伸ばせない。次第に周囲の雑音も聞こえなくなっていく。もう、まぶたが重い……。

 そして暗闇が訪れた。


 はずだった。

 ようやく重かった瞼を開けた時には、この状況。俺は理解が追いつかなかった。

 悩んでいると、何やら知らない言葉をつぶやきつつ、若い女性が俺の顔を覗き込んできた。彼女は看護師さんだろうか?

 いや、金髪だし。英語でもない、聞いたことのない言葉だ。

「誰だ?」

 言ったつもりが言葉が上手く出ない。


 そして悟った。

 これは輪廻転生というやつか。彼女は母親で、俺は新しい生を与えられたという事か、と。

 とはいえ、記憶を持っての転生というのはさすがにどうかと思う。記憶も意識もそのままで、赤ん坊というのは、まともに動けないだけに精神的にも相当厳しい。

 そうは言ったところで、どうにもならないので受け入れるしかない。まずは、この知らない言葉を把握する事から始めようか……。

 

 そんな諦めから、五年が経った。


 俺はユーキアという、何となく前世と被る名前を気に入っている。

 とりあえずは、言葉も理解できるようになったし、この世界の事も理解し始めている。そして分かった事が有る。


 ここは地球じゃない。


 輪廻転生で、よもや地球じゃない他の星に生まれるとは思いもしなかった。

 文化的には色々と不便だし、色々と気が滅入りそうになる中、ひとつだけ良いことがあった。

 隣の家の娘が、非常に可愛いのだ。名前はリリシェラという。

 五歳とはいえ精神的には高校生なので、ロリコンの気はないが、彼女は将来的には美人になるんだろうな、と思わせる姿なのだ。茶色い髪に茶色い瞳。両親の容姿も良いので、将来も間違いない。しかも俺と同じ日に生まれた幼馴染ということで、仲良くしておくに越した事はない。

 隣人同士、良く遊ぶし仲も悪くない。出来れば将来の嫁にしたいぞ、と思っていた、そんな俺の思惑が揺らぐ出来事が起きた。


 ある日、二人で外で遊んで居た時だった。

『かわいいなぁ』

 花を摘んでいる様子があまりにも似合っていたので、リリシェラに分からないように、日本語でつぶやいた。

 その瞬間だった。

「え!」

 リリシェラの表情が突然変わり、俺に詰め寄ってきた。

「ユーキア、いま、なんていった?」

「え……かわいいなって……」

 あまりの勢いに、正直に答えたが、リリシェラの表情は変わらない。

「そうじゃないの! さっきのをもういっかい!」

 かわいいという言葉に納得した様子はない。仕方がないので、もう一度日本語で答えることにした。

『……かわいい』

『何で日本語なの?』

 キスでもするんじゃないかという程、顔を寄せてくる。ふざけてキスをしそうになったことはあるが、今だ未遂のままだけに少々ドキドキする。


 いや、そこじゃない。リリシェラも日本語を話しているじゃないか!

『……え、どういうこと? なんでリリシェラが?』

『聞いてるのはこっち!』

 怒っているのではないかという程の勢いだ。

『お……俺は日本の高校生だった。バス事故に遭って、気付いたらここに転生してた。日本人だったときの記憶も有る……』

『え、ユーキアも? 私も……お兄ちゃんと一緒にバス事故に遭った記憶が最後で……』

 同じような状況で死んでいるという偶然に、背筋が寒くなる。思い出したくない記憶と一緒だが、どうせなら聞いてしまいたい。

『……リリシェラ、前の名前は?』

『理紗……』

『……は?』

 俺はあまりの事に絶句した。

『は、って何? まさか……ユーキアの名前は……』

『大山……由基弥……』

『はあぁっっ!? お兄ちゃんなのぉ!』

 前世の幼馴染も結構可愛かったが、付き合うとかそういう状況にはならなかった。が、今回はそれ以前の問題だ……。どうしたらいい、俺たち?


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