急須と子犬
ほのかに香る淹れたての
急須に子犬が手を伸ばす
「あぶない」
叫んだ私の声に
首を傾げた子犬は、まだ0歳
ほのかに香る淹れたての
急須に子犬が身を乗り出す
「お前のではない」
窘めた私の声に
鼻を鳴らした子犬は、もう1歳
ほのかに香る淹れたての
急須に子犬は目もくれない
「変わったな」
驚いた私の声に
尾を揺らした子犬は、じき5歳
ほのかに香る淹れたての
急須を子犬はただ見てる
「老いたな、お前も」
呟いた私の声に
瞬きで返したお前はもう、いない
──
ほのかに香る淹れたての
急須の湯気の、その先に
揺れる尾っぽを垣間見る