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第二話 闘争本能

 ティラ子に紹介した大型恐竜が暮らす北の森へ行くことにした。空からしか見ておらず、そろそろ他の領域の生態系観察をしたいと思ったからだ。少しの間洞窟を留守にするため、他の生物が住み着かないように入り口を岩で塞いでおくことにした。


 また戻ってきたら掘り返すのだが、岩を積む度に少し心細くなる。目が覚めてから最初に俺を守ってくれた穴だ。親の庇護がない俺にとってはこの大岩が母のようなものだと思っている。

 穴は岩の頂上よりも50メートル下に入り口がある。入り口から先は斜め下に向かって続いており、長さはおよそ50メートルである。今だと体を伸ばして入るには長さは心許ないが、奥の寝床は体を丸めやすいように爪を使って広げてあるので問題ない。

惑星の衝突やマグマで壊れることはなかったのだが、魔力による掘削は可能であった。

 ドラゴンの鉤爪には魔力が宿っているのだ。というか、体のパーツで魔力が宿っていない所がない。その為に様々な効果を得ることができる。……この世界に人間が存在していたら狙ってきそうだ。いなくてよかったよ。


 塞いだ後、巣の大岩から見てほぼ真北に向かい歩き出す。シュルシュルと腹を草が擦る。低い位置を這いずっているのだが、この体は白く目立つ。さらに翼もあるため隠れることはほぼできない。

 きっと本来は隠れることなく、外敵を迎え撃つタイプのドラゴンなのだと思う。しかし、一番最初の人生で過ごした兵士としての経験から目立ちすぎる行動はしたくないのだ。無駄に体をさらすようなことをすれば生存率が下がってしまう。だから空を飛ぶときも、ジャンボジェットが飛ぶような高さで飛んでいる。


 長い首を動かしながら森を観察する。木の枝にはこちらを見つめる鳥のような翼竜がとまっている。大きな葉が魚の鱗のように重なりあい、その翼竜の体をほぼ覆い隠している。50センチ程の大きさの者達も、進化の結果たどり着いた一つの形だと言えるだろう。

 小さいものは繁殖力が強い特徴があり、数を増やすことに優れている。食糧が足りなくなるのではと考えるかもしれないが、餌は小さく全体から見て少量なので問題ない。小さい体は隠れることに適しており生存率を上げている。自分より大きな者に忍び寄られると一口で食べられてしまうのだが、数が多いので種を繋ぐことに成功している。






 観察をしながら森を進んでいくと、海のように大きな湖が見えてきた。この湖は大きな川の水源となっており海へと続いている。川を挟んで向こう側の陸地は俺が棲んでいるこちら側と雰囲気が異なる。

 俺が暮らす大陸の東の領域は、魔力の濃い範囲が俺の巣の周りに偏っており、森全体には魔力をもたないものが多く存在している。しかし、北側の領域では魔力が様々な所から集まるかのように満ちていて、進化の方向性も巨大化や力の強化に偏っているように感じる。植物も動物も全てのサイズ感が大きめなのだ。


 空を遊泳しているときに見た巨大生物はほぼアースの北側だ。何故このような進化をしたのだろうか? 予想だが、植物の進化と棲息地の移動によるものだと考えている。

 北側では大型草食恐竜の中に魔物が生まれだした。魔物達が繁殖していくと、魔物に食べられた植物の種子は体内で魔力と交じり糞と一緒に排出される。すると魔力によって、植物は太陽に近付こうとするように巨大化する。

 木々の巨大化により草食恐竜は高さが微妙に届かず、『草食魔竜』の方がより生き残るようになった。大きな獲物の登場により、他の地域で生まれた『肉食魔竜』も北の大地に移動を始める。その結果として、巨大な生物が集まったと考えている。


 ちなみに今まで「魔物に進化した」等といっていたが、長くなりやすいので恐竜は『魔竜』など、その時々でそれっぽい名前をつけることにした。脳内観察記録なのでこんな名付けも必要なさそうだが、気分である。


 大陸の南側も平均より濃い魔力が発生している。しかし、どうやら北側とは別の形の進化を重ねているようだ。北の観察に満足したら行ってみようと思っている。生物の進化はちょっとした原因で変わるもので、地域による違いの観察は自由研究者として興奮してしまう。

 この惑星は魔力の存在により生命力の強い生物が多いため、北極点や南極点の現状も気になっている。ウッキウキのワックワクだ。

 





 そんなことを考えながら散策を続ける。空を飛んで湖を縦断してしまってもいいのだが、ここまで大きな湖は東側には無かったので周りの観察をじっくりしたくなったのだ。

 不意に、首筋にチリチリと違和感を感じる。


 ……ッ!


 考えるよりも前に違和感の先へ振り向くと、20メートルオーバーの巨大な魔竜スピノサウルスが湖から飛び出して首に噛みついた。


 「グォオオオオ!(ちょっと待ったッ!)」


 と思わず叫んだ。口は細長く陸上の恐竜と比べれば咬合力(こうごうりょく)が弱いため食い込む程度で済んでいる。

 すぐに体をくねらせる力を合わせ全力で振り払う。


 「グルルルル……(私を喰らうつもりですか? 大きすぎて食べきれないでしょう?)」


 二本足で立ち上がり戦闘状態を整えながら語りかけた。イラついているが紳士ぶって優しく聞いた。

 すると彼は答える。


 「ギュオオオオ!(食糧じゃなくてお前は敵だよ。数週間前にお前が来てから魚が移動しちまったんだよ! 魚を追って他の縄張りに入ったらそこの夫婦にボコられたし踏んだり蹴ったりだ。絶対許さん!)」


 「グルオオオ!(それはすみませんでした。ですが、私はこのまま北の陸地に移動するので居なくなります。無駄な争いでは?)」


 「ギュワアアア!(縄張り内を荒らされて黙っていろと? 馬鹿にすんじゃねえよ!)」


 そして噛みつくフリをしながら右前足の爪で攻撃してきた。

 彼の腕は筋肉質で長く鉤爪は50センチ程あり、牙よりも危険そうである。


 俺は左前足で手首の部分をつかみ受け止める。


 ――こちらを睨み付ける(ひとみ)


 次の瞬間俺の首の付け根に噛みついてきた。円錐状のワニのような牙が食い込む。一部の鱗が剥がれ肉に突き刺さる。


 ――グォオオオオ!――


 俺は雄叫びを上げながら右前足で顔をひっぱたく。

 彼の左頬に鋭利な鉤爪が食い込み、鱗ごと深く切り裂いた。


 振り払われた彼の頬には4本の切り傷が斜めに刻まれ血を流している。


 ――ギュオオオオオ!――


 彼は一度距離を距離を取り、素早く回転すると尻尾を俺の体に叩きつけてきた。

 水中を泳ぐことに特化ような縦長の形で、長さもある尻尾は見た目よりも頑強で重たかった。骨密度が高いのだろう。

 俺は右側から10トントラックに跳ねられたような衝撃をくらい倒される。

 ぶつかった木は体重と衝撃によりへし折れた。


 すぐに立ち上がったが少しふらつく。


 彼はその隙をついて噛みつき、爪での凪払いを仕掛けてくる。

 胸に切り傷が刻まれる。


 俺も噛みつきと引っ掻きで応えてやる。


 応酬は続いて…………。




 その後数分間戦いは続き、辺りには怪物の咆哮と衝突音が鳴り響いた……。





 ……なるほどなぁ、魚達が逃げてしまったか。東の森の中でも小動物達はすぐに逃げるからあり得ることだ。あそこでは俺の周りを避けるように、俺と喧嘩して負けた肉食恐竜が棲息し、草食動物もそうだった。俺が食べることがないと理解しつつ、隠れるのが上手く臆病なものは近くにも棲息していたが。


 今回の戦いも受けてたつ。会話はコミュニケーションしてみたいからなんとなくしただけだ。この魔竜スピノサウルスは罠にかけるわけではなく素直に応じてくれた。大型の魔物は素直な会話をする者が多いのかもしれない。


 あまり無意味に殺すことは嫌いだ。しかし大きな相手と戦うことは、その生物の特徴を肌で感じることができるので好きである。縄張り争いは恐竜やドラゴンの本能だ。本人が移動することはあるが、周りから侵されることが何よりも気にくわない。


 こいつは始めてみる水棲の恐竜! もっと近くで観察してやりたい!


 俺の戦う理由はこれくらいだ。軽いものだ。

 いつも俺は他の生物と戦うときに、ここで敗れて食われても仕方がないと思っている。既に数十億年生きているのだ。十分長く生きているので命は惜しくない。相手はこちらを殺そうとして掛かってくるのに対し、こちらは相手を殺すつもりはない。怪我させるのは気にしていない。


 死の危険よりも研究欲求の方が勝ってしまう。さらにドラゴンの生理的な欲求なのか、戦いが始まるとどうにも気分が高揚してしまう。理性は残っているのだが、他者との戦いは心が踊るのだ。一番最初の人生で戦闘の経験があることも影響しているのだろうか。

 なぜ自分が二度も記憶を持ちながら転生したのか? その意味はあるのか? 有るのかわからない宿命を見つけようと思いを馳せることもある。いつかわかる日が来るのだろうか……。


 俺は歪な生き物だと思われるだろう。戦いはありなのだが殺したくはない。俺はなるべく個体数を直接弄くるような事態にはしたくないのだ。大型の生物を殺してしまえば、被捕食者が大量に増殖するなどの影響が出る可能性がある。

 殺すことそのものに対しての忌避感はない。日本人のときは人畜無害でやってきたが、最初の人生では殺しまくったのだ。

 別の生をいきるということは多かれ少なかれ歪みが生じるものなのだろう。さらに、別の生物に生まれ変わることは生物の本能が違いすぎるためか、何をするのが正しいのかわからなくなる。


 自分が本当に好き勝手にすることには恐怖しかないのだが、適度なガス抜きを交えることで正気を保っている。世界を観察することにより気を紛らわしている。


 ――――俺はなんのために生まれたのだろう。

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