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万物は流転する

 空想、ファンタジーの世界です。空想反応式です。

 どうやら気温が下がり水蒸気が液体になったらしい。下がったといっても、俺が巣としている『惑星誕生から存在するやたらと頑丈な岩』の周りでは、水面に陽炎が観測できるため高温であると思われる。摂氏60℃以上はありそうだ。前世の時点では水が液体で存在できる範囲はかなり狭いと学んだ。地球より高温の世界になるのだろうか。


 ……実は今、ドラゴンとして産まれてから一番興奮している。正直、この星では独りで暮らし続けなければならないのではないかと思っていた。前世では生命の存在する星は見つかっていなかった。俺が生きていくためには酸素などが必要ないので、いつかは生物が存在している星を探して宇宙を旅することも考えていた。

 しかし、水が液体として存在できるようになったので、何らかの生命体が生まれることを期待できる。ワクワクがとまらない!






 その時を待つ間は魔力を調べていた。魔力は体が成長することや、体の動力源となっていることから、かなり万能なものだと思われる。そこで、魔力を利用して様々な現象を起こすことができるのではないかと考えている。

 実際、胸の中の肺や心臓のあたりにある魔力を使うと、口から爆発するような勢いで火を吹くことができる。食べる必要もないのに口がある理由の1つは、ブレスを使うためかもしれない。


 火を吹く仕組みを感覚で把握した。意識をすると、からだの中で空気中の炭素と水素が、魔力により無理矢理くっつけられた。化学の実験のように混ぜたり熱したりするのではなく、空気中から必要なものを集めて囲い、超常の力をもって圧縮して捩じ込む感じだった。できあがった炭化水素with魔力――めっちゃ燃えそうな物質――が体温で発火し、爆発するように口から放射される。


 自分でやってることなのにびっくりしちゃうわ。

 熱帯性がかなり高いのは自滅防止のための進化かもしれない。ブレスで自滅するものはそのまま滅び、耐性のあるものだけ生き残ってきた。

 強ち間違ってないんじゃないかな。


 魔力それ自体はギュッとまとめて尻尾で強く叩くと、ボールのようにとんでいく。強度はまとめる力しだい。変化するものとしての魔力は、化学反応の速度に影響する触媒のような働きをするが、そのままの意味での触媒ではない。触媒は自身が変化することはないが、魔力は化学変化するときにそれ自体も混じるからだ。

 これはなんとなくの仮説だが、魔力とは圧力に関係するモノのではないかと思っている。圧力という概念が形を持ったもの? 形があるから体もつくれる? 人知を超えすぎて確信は持てない。

 話を戻す。圧力だと思った理由だが、化学反応の重要な因子に温度・濃度・光などがあり、魔力を操る感覚としては圧力が一番近いと感じるからだ。ギュッと(手は使わないけど)握り締めるのである。力の限界は未知数である。うまく操作すれば様々なエネルギー源として使えるだろう。











 海底火山から熱気が噴出している。海の温度は80℃くらいだろうか。そこでは生物の活動に必要なアミノ酸が合成され始める。すると、周囲で『生物』が現れた。細胞内に核を持たない、ただ周囲の水と内側を区別しただけのような、そんな存在だ。細胞に核膜を持たない原核生物が発生したのである。彼等は古細菌など、目に見えないものたちだ。

 さらに、細菌の中から光合成を行うシアノバクテリアが現れた。光合成のために二酸化炭素を吸収し、酸素を排出することで温室効果が弱まり、星全体の気温が下がっていった。全体の気温が下がるためには長い時間がかかり、20億年はかかった。この星最初の氷河期である。


 気温が下がることにより、今まで増殖していた古細菌や光合成生物は環境に適応できず数を減らすことになった。そのために光合成生物が減少したことにより、二酸化炭素の濃度は再度上がっていく。惑星の環境が変わったことにより真核生物が発生し、細胞の中に核を初めとした複雑な構造を持つようになる。

 真核生物の中から単細胞生物以外に多細胞生物も分岐した。生物が生まれてからは、その多様性が飛躍的に増していっている。


 しばらくすると2回目の氷河期に突入した。魔力を持つ細菌の光合成スピードが速すぎたためだと考えられる。前回のそれから数億年後にじわじわと温度が下がってきたのだ。

 この環境変化によりあるものは減少し、あるものは絶滅し、あるものは新しく生まれた。目に見えないほど小さく、意識と呼べるものが無い生命であっても、数が増えて力が合わさり、果てしなく時間をかければ世界を変えることができる。

 そして世界が変わるとき、対応できないものは消滅し、世界と順応するもののみが生き残る。世界はこの大きな流れを繰り返す。

 寒冷化と温暖化はまだ2回のサイクルしかないが、それでもペースは速くなっている。案外、前世の人間が起こしたとされる温暖化も、地球にとっては1つのサイクルに過ぎない自然現象だったのかもしれない……。


 今回の環境変化によって、とうとう大型の生物が姿を表すようになった。エアマット状で殻のない無脊椎(むせきつい)動物が、龍の他に初めて生まれた『肉眼で確認できる』生物であった。寝心地良さそうな形だ。


 さらに付け加えると、魔力を保有する生物も種を増やしはじめている。魔力を持つものたちは持たないものと比べて、外部環境によるダメージを受けにくく、体が頑丈になりやすい。

 龍が約40億年前に宇宙から引っ張って大量に星に留めた魔力は、魔核から地上に向かい影響をだし始めている。


 魔核は本来宇宙のどこかに一定の条件下でのみ存在するもので、魔力の生成は半永久的なものである。人類が到達しないエネルギーの極致とも言えるものなのだ。


 この星は海ができるまでに5億年、2つの氷河期を越えるのに35億年と、40億年はゆったりとした成長をしてきた。生物の多様化や身体構造の複雑化により、今後の進化のスピードは爆発的に上昇する。









 おお! とうとう大型の生き物も誕生してきた! 進化の過程をこの目で見ることができるのはこの体になったおかげだ。

 新生物はまだ自分の体を維持・成長させる本能しか持っていないようだが、進化が進めば意識が芽生えるかもしれない。さらにはコミュニケーションがとれる個体も現れるかもしれないと期待できる!

 長い時間をかければ生命の分岐が進み、俺なんかよりももっとファンタジックな生物だって生まれるだろう。楽しみだ!


 ――しかし、1つ大きな懸念がある。生物の進化や惑星規模の環境変動を、ストレスなく観察できてしまっていることだ。進化するためには気の遠くなるほどの世代交代と増殖が必要だし、環境は大気の構成比が変わるレベルの合成・排出が必要だ。


 時間感覚がすごい鈍感になっているとは思ったが、数億年や数十億年をノンストレスで過ごしているのは鈍感どころの話ではない。我慢するという意識すらなかった。時間感覚が()()()()無かった。

 これは脳の構造自体が変わったために、魔力や原子などの素粒子に対する感覚を得ることができたが、かわりに時間を認識することができなくなったのではないかと仮定している。

 本来のドラゴンは時間を認識できないが、人の前世があるために時間を中途半端に()()()()()()()というのが自分の状態だと思う。


 今までは『ドラゴンに弱点とか無さそうだなぁ。』とか呑気に考えていたが、時間はある意味弱点になるかもしれない。時間を感じることができないので、過去・現在・未来がひどく曖昧だ。

 地学の知識が少しあるから億単位で時間がたっていることはわかるが、直前まで微生物すらなかったように感覚は訴えてくる。発生した順番や因果があったとわかるのだが、全てが瞬く間に起こったようにも感じるのだ。


 今の好奇心はそのときの全てであり、今の退屈はそのときのすべてである。今という一瞬の感覚が、本来どれ程の期間感じているものなのかわからない。

 魔力を操作するときはやりたいことができるまでやるが、1分なのか数ヶ月なのか数百年なのかわからないし気にしない。眠るときは何かに惹かれるまで眠るが、1分なのか数ヶ月なのか数百年なのかわからないし気にしない。自分の行動はすべてそうだ。


 物語や伝説で憤怒の象徴・破壊の権化として恐れられていても、実はドラゴンにとってはそのとき一瞬だけキレたつもりなのかもしれない。守護神のように祭られていても、その瞬間だけの気まぐれのつもりなのかもしれない。


 人間としての記憶が恐怖心を抱いているが、ドラゴンとしての自分が全くなにも感じていない。妙な感覚だ。本能に頭がついていかないのだ。今後も様々な問題にぶち当たる予感がする。

 だからこそ、終わりあるものとの交流は控えよう。終わり無きものが発生したら、その者と友になろう。その他は自由研究に徹しよう。

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