誕生
古代に思いを馳せた小説をファンタジーな浪漫を交えて書いてみようと思いました。
自分は今、岩場にいるようだ。立っている岩の向こうは真っ赤な熔岩がドロドロと流れており、後ろを振り返ると火山が噴火している。空からは大小様々な隕石が降っている。
危ないし、怖いしなんだこれ。視界全体が灼熱地獄だ。それなのにあまり暑くない。その暑くないという感覚もかなり不気味だ。怖いが、現状に対処するために状況判断をしていくしかない。
転生しているんだろうなというのはわかる。なぜなら、死んだあとに別の命として目が覚めるのは2回目だからだ。落ち着け、とりあえずすぐ側にある卵の殻でも食べながら生存戦略を考える。自分の体が自然に、求めるままに殻を食べる……。自分とは何者か思い出せ。
初めての人生は様々な種族が存在する、俗に言う剣と魔法のファンタジー世界で過ごした。文化や言語が各種族で全然異なり、戦争ばかりで激動の人生だった。庶民の生まれで兵士として戦い、20半ばで戦死した。命令に従って戦うことしか知らない、学もない、今思えば虚しい人生だった。
次の人生は日本人として産まれた。3歳で周囲が認識できるようになった。気が付くと何故か知らない人間の姿になっていて、知らない言葉や環境に置かれ混乱した。幼児期は訳がわからなすぎてぼーっとしていた。
そのせいで両親や親戚にとても心配をかけていた。それでも周囲の人が愛情を持って接してくれたおかげで、「恐らく前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのだ」ということを受け入れながら生活できるようになった。
小学生からはそれなりに充実した人生を送っていた。小学校から高校まで公立、大学は地方の国立大学を卒業した。その後は公務員として働いていた。30歳に癌で死んでしまったはず……。最期はかなり強い痛み止めの副作用で記憶が曖昧だ。……親より早く死ぬことがとても心苦しかった。2回とも短い人生なのはどうしてだろうか……。今度こそは長生きしたいぞ。切実に。
そして、今が3回目の人生。……人生? そういえば、さっきから視界に人間らしくないモノが映り込んでいる。白い爬虫類のような鱗が視界の下の方にずっと存在している。これ何? 今どんな見た目になっている!? 手元を見てみると同じく白い鱗で覆われた前足がある。……両前足で卵の殻を掴んでいる。そういえば殻を食べながら考え事をしていた。爬虫類の本能だろうか。
……今まで考えたこともなかったが、生まれ変わりって人間じゃないこともあるのか! ……いや、生まれ変わること自体があり得ない現象だ。今まで自分以外にそんな現象聞いたことがない。
よくわからないことは考えるのをやめるべきだ。改めて体を確認する。首を人間にはできない角度まで右から回し後ろを覗き込むと、背中にコウモリのような翼とワニやトカゲのような尻尾が見えた。
――ドラゴン。そんな言葉が頭に浮かんだ。最初の人生で存在した龍はかなり強い伝説の存在だった。いやいや、俺が伝説の生き物だとか似合わない。ワイバーンなどの竜と呼ばれる爬虫類ではないか? そう考えた方がまだ自分の器にちょうどいい。
「……グァ」
うわびっくり! やっぱり発声はできないか。できるとしても今は産まれたばかりだから無理なのか。いや、唇ないし話せないか。声帯とかもあるのかよくわからない。
というか、さっきから混乱して頭の中でグルグル考え込んでいるがそんな場合かよ。また変にわからないことについて考え始めている。どう見ても危険すぎるマグマの側だし、隕石もたまに落ちてくるのだ。安全確保しないと一番短い生涯になりかねない!
辺りをキョロキョロ見渡して後ろの大岩に身を隠せそうな穴を見つけた。どうやって開いた穴だろうか……。中の安全をビビりながら確認し、とりあえずその穴に入り、潜っていった。
◇
龍は思考を廻らせている。本当に生命の危機であれば考えなくていいことまで考え込んでいる。何故ならこの環境下でも命に危険は無いと本能的にわかっているからだ。大学まで出た本人はそれなりに考えることは得意な方であるし、30歳でもそこそこ出世していたので致命的なおバカではない。周囲に頼られるタイプの人間であった。
しかし、抜けているのである。天然だということを転生前の本人は認めていない。天然は自分が天然だと気付いていないから天然なのだ。人間であればアホっぽい言動は愛嬌として受け入れられるだろう。しかし、強力な龍に生まれ変わってしまった彼の行動は、周囲にとってはたまったものではないだろう。
――これは、好奇心で動く龍の物語である。